FA業界コラム ~識者の視点~
安全投資で生産性の向上を ― 新しい安全の考え方 ―
神余浩夫氏
2022年4月公開【全3回】
第3回 これからの安全制御の方向性
本コラムの第1回は、規制や法制により安全規格に適合した安全な機械を設計・製造することを求められようになって、安全制御機器が登場した経緯に触れました。第2回は当社の安全制御機器の紹介と、その安全機能を用いて「安全性と生産性の両立」を実現できる、安全投資で生産性の向上を図れることを説明しました。今回は、これからのオートメーションにおける安全の方向性について紹介します。
ひとつは、向殿明治大学名誉教授が提唱する「協調安全Safety2.0」です。
かつて、作業者が安全に注意を払っていたSafety0.0、安全規格の対策により、人が注意を払わなくても安全が確保されるSafety1.0がありました。Safety1.0では、人と機械を安全柵で隔離する、あるいは機械の動力を停止することで、安全性を担保します。その次は、人と機械が同じ空間で協働する状況において、機械が人の動作を読む、体調等の顔色をうかがう形態の協調安全Safety2.0です。人が機械を注意するSafety0.0とは逆の、機械が人に注意を払うのがSafety2.0です。
図:協調安全の適用事例、日経BP総合研究所「Safety2.0プロジェクト冊子」より
図:IEC白書「未来の安全(Safety in the Future)」
もうひとつは、2020年に発表されたIEC白書「未来の安全」です。この白書は、堤IEC副会長(三菱電機)をリーダーとして日本が提案、日本から多数の委員が参加して、AIやIoT等の新技術を活用した製品群において、どのように安全性を担保していくかを調査・提言したものです。私も委員として参加しました。
英語版 https://www.iec.ch/basecamp ![]()
日本語版 https://www.japan-certification.com/wp-content/uploads/iec_wp-Safety-in-the-Future_JP20210713.pdf ![]()
図:IEC白書「未来の安全(Safety in the Future)」日本の協調安全Safety2.0だけでなく、世界各国から製造業のアシストスーツ、プラント保全の遠隔作業支援など、AIやIoTを活用した事例が集められ、それらの安全面について体系的な分析が行われました。単にIT満載の安全機械があればよいのではなく、作業者の知識や能力、企業組織の労働安全衛生マネジメントなども揃っていなければ、より高度な安全性と生産性の両立、利益と利便性を得ることができません。白書は、人と機械と組織環境が協調して職場の安全・健康・幸福(well-being)を達成することを目標としています。そのために、技術標準、教育制度、規格適合性評価などの多くの事業を並行して進めるべきだと提言しています。
図:人/機械/環境の三体システムモデル IEC白書「未来の安全」を参考に作成最後に
ISO/IECの安全諮問委員会(ACOS)は、白書の提言の具体化に向けて、事業の推進提案を作成することになりました。未来の安全を創出するために、どのような技術標準化を進めるべきか、人の能力要件と教育カリキュラム、製品や組織の認証制度などが検討項目です。検討結果はISO/IECに展開され、各分野における具体的な規格や手順が作成される予定です。日本からは名古屋大学の山田教授、産業技術総合研究所の中坊氏、そして私も議論に参加しています。
AIやIoTの新技術は、便利で利益ある生活や暮らしに導いてくれるでしょう。もちろん、それら技術の安全性、セキュリティや信頼性が心配になりますが、多数の安全専門家と安全技術者が問題解決に奔走しています。そして、当社は常に安全性を担保した製品をご提供し続けていきたいと思います。今後とも、当社の制御機器についてご検討いただければ幸いです。
製品紹介

基本性能向上、e-F@ctory/FA機器との連携強化、安全機能の強化、知能化技術を更に進化させ、柔軟な生産ラインの実現を強力にサポートするMELFA FRシリーズを開発した。シーケンサ “ MELSEC iQ-Rシリーズ ” に対応したロボット用CPUも新たにラインアップに加え、産業分野向けのIoTであるIIoT(Industrial IoT)時代の次世代ものづくり工場を支える。
- 要旨
- 第1回 職場の安全性の考え方の変遷
- 第2回 安全制御機器のラインアップ
- 第3回 これからの安全制御の方向性
アンケート
ご回答いただきありがとうございました
