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読む宇宙旅行

2010年9月 vol.02

精密な時刻と位置は宇宙から。「みちびき」は社会インフラ

「みちびき」イメージ図。頭上に常に衛星を置くには3機体制にしなければならない。さらに日本独自の測位衛星システムには静止衛星などとの組み合わせで合計7基程度必要と考えられている。

「みちびき」イメージ図。頭上に常に衛星を置くには3機体制にしなければならない。さらに日本独自の測位衛星システムには静止衛星などとの組み合わせで合計7基程度必要と考えられている。

 9月11日に打ち上げられた準天頂衛星初号機「みちびき」は、順調に飛行を続け9月27日、目標とする準天頂軌道に無事に入った。この「準天頂」とは、人工衛星が日本のほぼ天頂に位置する(1基の衛星で約8時間)軌道の名前だ。ただし準天頂衛星という名前をめぐっては関係者の間で「軌道を表しているけど衛星の役割を表していないんだよね〜」という声多数。では日本版GPSと呼ばれているこの衛星、どんな役割が期待されているのか。

 現在、カーナビや携帯電話のパーソナルナビに代表される測位はアメリカのGPS衛星に頼っている。経度、緯度、高度、時刻を精密に割り出すには4つ以上の衛星からの電波を受信しなければならない。日本では国土の大部分が山間部であり山陰や、都市部ではビルに遮られて、GPS衛星の電波を受信できないことが多い。そこでほぼ天頂に4つ目の衛星として「みちびき」をおくことで米国のGPS衛星と組み合せて、全国をほぼ100%カバーできる(24時間体制にするには3機必要)。精度も10倍以上あがり1m級で識別できる。道路のどちら側の歩道にいるかも識別できるほどだ。さらに「みちびき」独自の実験用信号LEXを使えば、cm級の測位ができるという。

 ではどんな効果があるのか。たとえば都市部では、事故防止や渋滞の回避、走行ルートの最適化で車だけでなく歩行者も含めて交通や移動量を把握できる。交通情報サービスを向上させ、渋滞を減らせると期待されている。そうなればCO2排出量削減など環境にも貢献できる。また防災への貢献も大きい。今年2月、南米チリで地震が起きた影響で東北地方に津波が来て冠水被害が出た。現在は地上の基準局から20km以内にしか津波検知のブイを設置できないが、「みちびき」のLEX信号を使えば基準局がない場所でも精度よく検知できる。将来的には災害情報を、測位衛星システムから携帯電話などに送信することも可能となる。

三菱電機宇宙システム企画部長 高山久信さん。「みちびき」打ち上げ前日種子島で。入社後は地上のアンテナ設備を設計した「技術やさん」。2000年から準天頂衛星に関わる。

三菱電機宇宙システム企画部長 高山久信さん。「みちびき」打ち上げ前日種子島で。入社後は地上のアンテナ設備を設計した「技術やさん」。2000年から準天頂衛星に関わる。

 準天頂衛星プロジェクトの立ち上げから関わった三菱電機 宇宙システム企画部長の高山久信さんは「測位衛星は例えれば『道路』。国民生活に密着したインフラです。精密な時刻と位置がわかれば、正確な電子地図が整備される。自分の位置だけ詳しくわかっても電子地図でプロットできないと動けませんよね。県をまたがった防災やお年寄りや子どもの見守り、遭難救助、防災にも役立つ。道路が整備されれば、どんな車で走るかは使う人が決めること。いろいろな安全保障面や社会インフラとしての役割はもちろんのこと、民間の観光や交通分野等での位置情報サービスの使い道は広がります」という。

 高山さんが特に強調するのは「精密な時刻」だ。今や世界の金融取引ではGPS時刻を使っている。短時間に大量の株の売買を行う証券取引所などではタッチの差に近い時間のズレが大きな金額の差となってしまう。位置情報だけでなく金融や経済に果たす役割も大きいのだ。

 こうした大きな役割を担う準天頂衛星システムだが、日本は2号機以降の計画や、どこが主体となって情報提供を行っていくかまだ決まっていない。米国やヨーロッパ、ロシア、中国などは政府主体で測位衛星の開発に取り組む。米国が時刻や位置情報を提供するGPS衛星を握っている状況に危機感があるからだ。だが日本はまだ研究開発の段階。世界で測位衛星を標準化していこうという議論でも、日本を代表した発言ができないという状況だ。

 「みちびき」はこれから機器の確認を行い、10月19日には測位信号の送信が始まり、12月から実証実験に入る予定だ。都市や山間部をはじめ全国で車や歩行者の移動体観測、精密測位などを行っていく。また100社以上の企業・団体が参加した民間利用実証試験も行われる。これらの実験で要求通りの性能が出るかがまず第1ステップだが、私たち利用者の側も、時刻や自分たちの位置がどう把握されているかをきちんと認識する必要があるだろう。