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読む宇宙旅行

2010年10月 vol.01

シャトル引退ー転換期を迎える世界の有人宇宙開発

11月1日(現地時間)打ち上げ予定のSTS-133ミッション。リハーサル参加中の宇宙飛行士達。シャトル打ち上げはあと2回の予定。こんな光景が見られなくなるのもちょっと寂しい(提供:NASA)

11月1日(現地時間)打ち上げ予定のSTS-133ミッション。リハーサル参加中の宇宙飛行士達。シャトル打ち上げはあと2回の予定。こんな光景が見られなくなるのもちょっと寂しい(提供:NASA)

 「始まりがあれば終わりがある」4月にスペースシャトルの打ち上げ取材に行ったときにNASAケネディ宇宙センター(KSC)で出会った元技術者、アンジェロ・タイアニさんが言った言葉を思い出す。彼は現役時代、ロケット組み立て工場や発射台で仕事をしてきて、アポロ計画やスカイラブ計画など大きな計画がキャンセルされる現場を見てきた。シャトルの引退についても「いつものことさ」と淡々としていた。だが、スペースシャトルから有人宇宙飛行の歴史が始まったとも言える日本にとって、今は大きな転換期。日本人飛行士は活動の拠点を米国からつくばに移す。

 JAXAの宇宙飛行士は1992年から2010年末までに7人が12回、スペースシャトルで宇宙飛行を行ってきた。だが2009年末に国際宇宙ステーションに向かった野口飛行士は、ロシアの宇宙船ソユーズに日本人で初めてフライトエンジニアとして乗り込んでいる。スペースシャトルの引退が、どう影響を及ぼすのか。

 スペースシャトルは約2週間の宇宙飛行の間に分刻みで仕事を詰め込み、「短距離走」に例えられる。打ち上げと共に「よーい、ドン!」でスタートを切ったら息つく暇もなく、打ち上げ、宇宙での作業、帰還とゴールまで一気に仕事をこなす。国際宇宙ステーション(ISS)プログラムマネージャの横山哲朗氏によると「1ヶ月ヒューストンを離れると(宇宙飛行士として)アクティブでなくなる」と言われるほど、飛行士達はNASAの訓練の本拠地ヒューストンで、T-38ジェット機の飛行訓練や巨大なプールで行われる船外活動訓練などを通して、宇宙飛行士としての技量を維持していた。飛行に任命されていないときも管制官や機器の開発などNASA業務が割り当てられ、NASAの有人宇宙開発の知識を学びつつ貢献し、能力をアピールし、宇宙への切符を世界のエリート達と競争しながら勝ち取ってきた。

 一方、ISSでの長期滞在は「マラソン」に例えられる。もちろんソユーズ宇宙船の訓練はあるし、危険な宇宙環境や不測の事態に備える状況判断力や、故障や緊急事態に対応できる技術力などの能力を磨く必要があるのは変わらない。だがISSが完成した今、宇宙にくらし、実験室「きぼう」で地上チームと協力して「(実験などで)最大限の成果を出す」ための訓練の比重が大きくなる。またISSの搭乗権は、多国籍飛行士間の競争と言うよりは割り当てになり、1年〜1年半に1回、自動的に日本人が長期滞在できるのだ。そこで日本人宇宙飛行士はつくばを拠点とし、体力や知識の維持に努めながら宇宙実験などの利用チーム、管制官達との連携を密にとる。NASAで培った経験を「きぼう」利用や日本の有人宇宙技術のために活かすことが求められている。

NASAで船外活動訓練を行う大西卓哉宇宙飛行士候補者。3人の宇宙飛行士候補者たちは、基礎訓練が終わる2011年夏頃までNASAに滞在する。(提供:NASA/JAXA)

NASAで船外活動訓練を行う大西卓哉宇宙飛行士候補者。3人の宇宙飛行士候補者たちは、基礎訓練が終わる2011年夏頃までNASAに滞在する。(提供:NASA/JAXA)

 ISSの長期滞在飛行士に任命されれば、これまでのようにヒューストンを拠点にし、ロシアやヨーロッパなどを回って訓練を受けることになるだろう。だが家族などの事情も考慮し、ケースバイケースの判断になるという。ヨーロッパ宇宙機関の宇宙飛行士達も飛行任命時以外は、個人の判断で米国に住む人、住まない人がいるそうだ。

 一度に7人が搭乗したスペースシャトルと異なり、ISSの長期滞在飛行士は約半年毎に6人が交替する。宇宙に行ける人数は少なくなる一方で、宇宙滞在期間は長くなる。NASA飛行士の中にはロシアでの長期訓練などで家を離れることを嫌がり転職する人も多いと聞く。「ピークで150人近くいたNASAの飛行士もコロンビア号事故後に減り、最終的に70人前後で落ち着くのでは」(横山氏)と見られている。

 11月2日はISSで宇宙飛行士が暮らし始めてちょうど10周年。ロシアや米国実験棟はもはや築約10年で老朽化が心配されるが「きぼう」はまだ築2年。日本の実験装置はこれまでJAXA審査後、NASAの安全審査を受けていた。だが、2010年9月からJAXA審査だけでNASA審査を受ける必要がなくなった。そして日本の輸送機HTVは初号機を確実に打ち上げ、2号機も順調に進んでいることから、ISSへの輸送機でもっとも国際パートナーから信頼されている。これらは日本に確実に有人宇宙技術が蓄積されてきたことの証だ。

 今年は11月のISS滞在10周年だけでなく、12月には日本人初の宇宙飛行(秋山豊寛氏)から20周年。そして来年2011年4月12日はシャトル打ち上げ30周年。(人類初の宇宙飛行から半世紀でもある!)節目の年であり、世界の有人宇宙開発は転換期にある。どの分野でも「黎明期」は失敗と復活があり劇的だが、その後は退屈な日常が訪れる。そこが正念場だ。「終わりを始まり」にし過去の蓄積を未来につなげるためには、日本が何を目指すのか、今こそゴールをはっきり明示する必要があるだろう。