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読む宇宙旅行

2010年11月 vol.02

宇宙への貨物便「こうのとり」2号機打ち上げへ
「初号機以上に緊張しています」責任者、虎野吉彦さんに聞く

虎野吉彦さん。打上げ総指揮者、H-Iロケット開発、J-Iロケットプロマネ、2003年のH-IIAロケット6号機打ち上げ失敗後、副責任者として改修を進め復活に導いた手腕などを見込まれて2005年、HTVプロジェクトマネージャーに。手にするのは「こうのとり」模型。中段に大きな穴があけられ(非与圧部)ISSの外で使う物資を直接、出し入れできるのが特徴。

虎野吉彦さん。打上げ総指揮者、H-Iロケット開発、J-Iロケットプロマネ、2003年のH-IIAロケット6号機打ち上げ失敗後、副責任者として改修を進め復活に導いた手腕などを見込まれて2005年、HTVプロジェクトマネージャーに。手にするのは「こうのとり」模型。中段に大きな穴があけられ(非与圧部)ISSの外で使う物資を直接、出し入れできるのが特徴。

 初号機が完璧な成功。2号機は余裕と思いきや「今回のほうが厳しい」と意外な言葉。「初号機に失敗はつきもの。期待度は98%だったのに成功した。すると2号機は成功して当然、100%の期待度になる。万が一失敗したら1回成功したのに何してるんだ、たるんでるんじゃないかと言われる。(事業仕分けで1割削減と判定され)予算は減らさないといけないのに失敗も許されない。厳しいですわ」とぼやきつつも明るく笑うのは、宇宙ステーション補給機「こうのとり」(HTV)プロジェクトマネージャーの虎野吉彦さんだ。

 「こうのとり」は国際宇宙ステーション(ISS)に実験装置や日用品などを運ぶ無人の貨物船。2009年9月に初号機(技術実証機 HTV1)が打ち上げられ、NASAも賞賛するほどの成功をおさめた。2015年まで年1機、合計7機打ち上げ予定で、2号機から「こうのとり」という愛称がついた。2号機は2011年1月20日打ち上げ予定だ。 種子島宇宙センターでの最終チェックもほぼ終わり、順調とのこと。ではなぜ厳しいのか?「新しい宇宙機は『不具合の虫』を出し切るまでに何号かかかる。試験を重ねても宇宙で想定外のトラブルが起こる人工衛星やロケットは多い。『成功』の裏には致命的でなくても、必ずトラブルが起こるものです。」

 初号機でもひやっとするトラブルはあった。ドッキングの最終段階。HTVはISSの真下500mから徐々に高度をあげていった。300m、30m、10mと停止地点があり、最後に宇宙飛行士にロボットアームで掴んでもらうため、ISSに対してぴったり静止しないといけない。これが大変。人工衛星は低い軌道ほど早く飛ばないと(地球に)落ちてしまうからだ。落ちないようにスラスター(姿勢制御用小型エンジン)をふき続ける。いわば「プールで立ち泳ぎしている状態」だが、立ち泳ぎ時間が長くなり、機器の温度が想定外に上昇した。予備に切り替えて窮地を凌いだ。

 「こうのとり」は日本初の宇宙船でもある。ISSに物を運ぶにはロシアやヨーロッパの宇宙船があるが、ロボットアームで掴むHTVタイプは初めて。HTVは1980年代から構想がスタートし、安く物を運ぶことを目的に既存技術をなるべく使おうとした結果、アーム技術を使うことになったのだ。質量16.5トンものHTVをアームで掴む時わずかでも揺れがあると、揺れが大きくなり危険な状態になるなど想像以上の難しさはあったが、ロシアやヨーロッパの宇宙船のようにドッキング口(開口部)を頑丈にする必要がなく、開口部を大きくとれたため大きな装置を積み込めるメリットができた。

 虎野さんがプロジェクトマネージャーに抜擢されたのは2005年。HTVチームに来て驚いたのは人数が少なかったことだ。「当時約16人。経験からこんなに大きな計画を進めるには少なすぎる」と上司にかけあい倍にしてもらった。HTVは戦線が2カ所あった。国内と海外だ。NASAに一人で乗りこみ十数人を相手にする。「このままでは疲れ切って倒れる」と危機感をもったのだ。

ISSから見たHTV-1。万が一の場合もISSに衝突しないように、真下から接近する。見た目は「空飛ぶ缶ビール」だが世界が注目するハイテク宇宙船だ。直径4m×長さ10m。(提供:NASA)

ISSから見たHTV-1。万が一の場合もISSに衝突しないように、真下から接近する。見た目は「空飛ぶ缶ビール」だが世界が注目するハイテク宇宙船だ。直径4m×長さ10m。(提供:NASA)

 開発初期、NASAは「日本が作れるわけがない」と打ち合わせにも真剣みがなかったという。変化が表れたのは1999年頃。NASAに専用の審査チームができて山のように審査会に来日し、次々に設計変更を要求する。人がいるISSにドッキングするために有人宇宙船並みの安全性が求められた。数千項目もの難題をクリアし、初号機に成功した今、「NASAに褒めちぎられている」と虎野さんは言う。スペースシャトルの引退が決まり、ISSのバッテリーなど船外用の機器を非与圧部(空気のない部屋)に積んで運べる宇宙船は日本だけ。「打ち上げてという荷物の依頼が次々に来る」。ISSはHTVなしに維持・運用できない。その存在感は想像以上に大きくなっている。

 ところで気になるのは荷物の中身。「きぼう」実験用の温度勾配炉(古川飛行士が実験で使う)や実験試料、日用品、そして飲料用に種子島の水も運ぶという。「お寿司は運べますか?」と尋ねたところ「ラップをかけただけではダメだけど、冷蔵庫付きなら運べる」との答。ただし打ち上げ3日前に積み込んで、打ち上げ後ISS到着まで2〜3日はかかる。賞味期限が課題ってことですね。

  • ※ 正式名称は「宇宙ステーション補給機技術実証機(HTV-1)」