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読む宇宙旅行

2014年6月13日

「宇宙×芸術」展で、リアルと想像の宇宙を遊ぶ

「なつのロケット団」が実際に北海道で打ち上げたロケット、「すずかけ」がゴロンと横たわる。

「なつのロケット団」が実際に北海道で打ち上げたロケット、「すずかけ」がゴロンと横たわる。

 2014年はロケット打ち上げが続き、若田飛行士の活躍、夏に開催予定の宇宙博など宇宙の話題満載だ。一方で多くの人にとって宇宙を「感じる」ことはまだ難しい。その飢餓感ゆえか、東京都現代美術館で6月6日に開催された「ミッション[宇宙×芸術]-コスモロジーを越えて」の内覧会には、大勢のプレスが押しかけた。

 2フロアに約50点の作品を展示。特徴はアーティストが作る「イマジネーションの宇宙」と研究開発が進む「リアルな宇宙」の両方を多元的宇宙として呈示すること。かつてのように異世界や理想郷としての宇宙でなく、日常となる宇宙を体験してもらうのが狙い。企画したキュレーター森山朋絵さんは「たくさんの叡智と溢れる才能が集結した。宇宙に何故これほどエネルギーを費やし取り組むのか。(知ることで)次に目指すべきものが見えてくる。新しい技術、文化の領域が成立する瞬間に今、私たちは立ち会っている」という。

 展示は、宇宙進出初期の写真からスタート。まるで胎盤につながれたように宇宙飛行士が船外活動で漂う写真は、母なる地球から人類が巣立つ様を表すようで象徴的だ。次の部屋に入ると圧倒的な星空に包まれる。大平貴之さんのMEGASTAR-IIだ。「世界や自分について思索をめぐらしてもらうため、(映像に)余計な情報は入れていない。こだわったのは音。以前、水戸芸術館で展示した時の音の演出が忘れられず、当時の担当を探してもらった」と大平さんが惚れ込んだ音は「こわい音」。この世界が何でできているか、自分が何者かがわからず恐ろしく、内省をいざなう音なのだ。ここで外宇宙と同時に内宇宙にトリップ。

 イマジネーションの宇宙からリアルな宇宙の狭間で、モノクロで独特な世界観を見せるのが名和晃平氏の作品だ。テーマは重力。「Direction」はキャンパスを傾け、絵の具が重力に従って地球の中心にまっすぐ向かう直線が、「Moment」はインクを振り子のように揺らす時に描く軌跡が美しい。部屋の中央には上下反転の連続体で無重力をイメージした彫刻「エーテル」がそびえ、宇宙建築のようにも見える。

 「今、私たちは宇宙は(特別でなく)当然のものとして生きている。この地球上の空間も宇宙の一部。人間が1Gにどう影響を受けて、垂直に立っていられるかに関心があった」と名和氏。実は子どもの頃から星好きで、制作にあたりJAXA研究者と話し大いに刺激を受けたそう。宇宙建築に挑戦してみないかという提案を得て、考え始めているそうだ。

 リアルな宇宙では、ロケットのフェアリング(実物)や、「きぼう」で行った芸術実験、多摩美大の10cm立方の超小型の芸術衛星「INVADER」などの展示が並ぶ。個人的に面白かったのが「なつのロケット団」の全長4322mmのロケット「すずかぜ」。2013年8月10日に北海道・大樹町で打ち上げ、音速を超えて回収された実物が展示されている。配線も機体も手作り感満載。失敗したときの壊れた(溶けた)カメラや部品も展示してあって、「手の届く宇宙」が伝わってくる。

チームラボの「憑依する滝、人工衛星の重力」。流れ落ちる滝を受けるのは「だいち2号」の実物大模型。

チームラボの「憑依する滝、人工衛星の重力」。流れ落ちる滝を受けるのは「だいち2号」の実物大模型。

 圧巻が出口近くにある高さ19mの滝。流れ落ちる大量の水を受けるのは「だいち2号」の実物大模型。チームラボのプロジェクションマッピング「憑依する滝、人工衛星の重力」だ。質量を持った衛星に引き込まれる水や粒子間の相互作用を計算。だいち2号にぶつかり跳ね上がった水は人工衛星のまわりを衛星し(周回し)、消えていく。チームラボは「憑依する滝」シリーズでお城や車にも滝を当てている。かつて日本人は滝を生命のように感じ、人間も自然の一部という自然観を持っていたことから発想を得たようだ。チームラボ代表の猪子寿之氏いわく「宇宙と人の関係性を問う作品」。

 宇宙を軸に、様々なアプローチの作品が大集合した展覧会。6月29日(日)には詩人の谷川俊太郎氏による朗読会「となりの宇宙」が開催されるほか、様々なイベントを企画している。

 宇宙×芸術というテーマでは、以前に取材したアーティスト・ヤノベケンジさんの言葉を思いだす。ヤノベさんは宇宙飛行士に応募しようかと真剣に考えたそうだ。なぜなら「クリエーターは美の神様の召使い。自分の肉体や魂、命まで捧げる気持ちで新しい体験をし、新しい美の概念を発掘しようとする存在」と考えているから。「(宇宙に行き)精神や意識を変えてしまうような体験をすることで、新しい美を生み出せる。その意味で本当の宇宙での芸術実験はどこもできていない。日本からならできると思います」と語っていた。

 宇宙芸術への関心の高さは、宇宙を身近に感じたい一方で、新しい美や衝撃に出会いたいという期待の表れでもあるのではないだろうか。次の段階では、アーティスト自身が宇宙に行ってほしい。新しい美の概念を生み、魂が揺さぶられるような突き抜けた作品を期待したい。