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読む宇宙旅行

2014年6月26日

部下の間違った指摘に「ありがとう」と言えますか?
−宇宙飛行士訓練の大元、パイロット訓練とは

簡単に外に出られない海底という極限環境でチームワークを鍛えながら数々のミッションを行う海底訓練NEEMO。写真は大西卓哉飛行士が参加した2011 年10月のNEEMO15。海底20mの基地内で。星出飛行士は7月にコマンダーとしてNEEMO18に参加予定。(提供:NASA)

簡単に外に出られない海底基地内という極限環境で、チームワークを鍛えながら数々のミッションを行う海底訓練NEEMO。写真は大西卓哉飛行士が参加した2011 年10月のNEEMO15。海底20mの基地内で。星出飛行士は7月にコマンダーとしてNEEMO18に参加予定。(提供:NASA)

 星出彰彦宇宙飛行士が、「宇宙滞在のリハーサル」と言われる海底訓練NEEMO(第18回、7月に9日間)でコマンダー役を任命されたと先日NASAから発表があった。若田飛行士もNEEMOでコマンダー役を務め抜群のリーダーシップを発揮し、「船長の素質あり」と評価され船長任命につながったと聞く。次は星出飛行士が船長?と期待が高まる。

 こうしたNASAのチームワーク訓練は、元をたどれば1970年代の航空機事故をきっかけに、NASAと航空会社が開発したという事実をご存じだろうか?そこでANAのご担当者に取材に伺った。

 対応して下さったのはANA訓練センター乗員訓練部CRM訓練チームリーダーで現役パイロットである中本勝弘さん(野口聡一宇宙飛行士の高校時代の同級生!)。CRMとは「クルー・リソース・マネジメント」のことで、クルー(人)やクルー以外の関係者、環境、機器をリソース(資源)ととらえる。これらすべてをマネジメントすることで、チームとして最大限のパフォーマンスを発揮して、安全な運航を行うことを目的とした取り組みだ。

 背景を少しだけ。1970年代の航空機事故の原因を調査した結果、乗員同士の関係やチーム対処に問題があることがわかった。重視されたのが「キャプテン(機長)と副操縦士」の対人関係だ。当時のパイロットは上下関係が厳しく、副操縦士が意見を言っても無視されたり、怒鳴られたりすることもあったという。このままでは異常の芽を見つけても共有されず、大惨事を招きかねない。そこでCRM訓練が考案されたのだ。

 ANAは1987年からCRM訓練を導入。ポイントは『意識変革』だ。

 「たとえば、副操縦士になったばかりの新人が、ベテラン機長と一緒に飛ぶ場合、ものが言えない雰囲気になることがあります」(中本さん)。たとえ機長の操作で気になる点があったとしても、ベテラン機長が間違っているはずがない。「何か意図があってやっているんじゃないか」と副操縦士が勝手に解釈してしまうというのだ。

 そこで「違和感があれば言葉にする、『言うことも仕事』と意識を変えてもらうんです」

 大事なのは、部下である副操縦士だけでなく機長、つまりリーダーの側の意識改革だ。「もし副操縦士が発言しなかったら、言わない相手が悪いのではなく、『言わせない雰囲気にした自分』に責任があるかもしれない」と視点を変えて考えさせる。

立場を超えて気づいた点を言いあうことで危機を回避できる。写真はスペースシャトルの船内。(提供:NASA)

立場を超えて気づいた点を言いあうことで危機を回避できる。写真はスペースシャトルの船内。(提供:NASA)

 では「言わせる雰囲気」とはどのようなもので、どうしたら作ることができるのか?「近すぎても離れすぎてもいけない。一言で言えば『あったかい』空気感。日常会話のように『これ、変じゃないですか?』という一言が出るか。(大事なのは)その一言が出たとき、すかさず『ありがとう』『たすかったよ』と返すこと。たとえ指摘が間違っていたとしても、まずは謝意を伝えるのです」

 間違っているときに「ありがとう」とは・・なかなか言いにくいものだ。その狙いはどこにあるのか。「間違いを指摘するのは飛行後でいい。飛行中にもし間違いを指摘すれば、副操縦士は萎縮して、その後(危険の芽を見つけても)何も言えなくなってしまうかもしれない。たとえ間違っても、言ってもらった方がいいのです」

 こうした「あったかい空気感」が出せれば、緊急時にチームで力を発揮できる。たとえば機長が副操縦士に助けられるのは「先読みした手順で進めてくれているとき」。イレギュラーの際、切羽詰まった状況で副操縦士が先回りして情報を集めたり、作業準備を進めてくれると、機長は「一瞬でも俯瞰して全体を見る『間』がとれて、落ち着くことができる」のだという。

 だが意識改革は一朝一夕にはできない。ANAでは年に1回のCRM訓練を主体として、副操縦士や機長になる前など、段階的にCRMセミナーを行う。機長になる前には、権限を持つことの責任と同時に、自らの副操縦士時代を思いだし、「謙虚たるべき」と指導する。

 セミナーは「気づきの訓練」とも呼ばれ、自分で考えることに重点をおくのが特徴だ。「概念は教えるものの、実際にどう活用するか、自分の問題点はどこにあるか、何を目標にするかを自分で見つけて取り組んでもらう」。そのため概念説明、体験型学習、ディスカッションの3段階の中で、ディスカッションに多くの時間を割く。

 たとえば基本的な訓練では「言葉で伝えることの限界」に気づかせる。2人一組で後ろ向きに座って一人にある図形を見せる。2分間で言葉だけでその図形を相手に伝え、聞いた方は紙に書く。多くのケースではうまく書けない。「言葉で伝えることの難しさを実感してもらいますが、どういう風に何を伝えたらいいかは教えません。議論して作戦を練ってもらいます」。話す内容、順番、言葉の選び方を自分たちで考え改善すると、二回目は、異なる図形でも同じ時間内でかなり正確に伝えられるようになるという。

 最近はCRMのクルーの定義が広がっている。機長と副操縦士だけでなく、客室乗務員や管制官、整備士、ディスパッチャーなども含めてチームととらえられ、訓練が行われているそうだ。JAXAでも宇宙飛行士だけでなく、管制官達がCRM訓練を受けていると聞く。

ANAの現役エアバス機長でCRM訓練チームリーダーの中本勝弘さん。入社した年にCRM訓練が始まったそうだが、当時は標準の手順もなく大変だったとか。飛ぶときは基本的に副操縦士に任せるという、大らかで頼りがいのあるキャプテン。野口聡一宇宙飛行士と高校時代の同級生。(提供:ANA)

ANAの現役エアバス機長でCRM訓練チームリーダーの中本勝弘さん。入社した年にCRM訓練が始まったそうだが、当時は標準の手順もなく大変だったとか。飛ぶときは基本的に副操縦士に任せるという、大らかで頼りがいのあるキャプテン。野口聡一宇宙飛行士と高校時代の同級生。(提供:ANA)

 宇宙飛行士訓練と非常に共通点が多いが、異なるのは、宇宙飛行士はチームで訓練する時間が数年間と長いのに比べて、パイロットたちは一緒に飛ぶチームとの打ち合わせが飛行直前という点だ。「例えば朝一番でショーアップ(出社)して、打ち合わせをしますが、それが相手との初めてのフライトということもあります。天気図を見ながら、機長が色々な話をふるんです。『雲があるね、どのくらいの高さかな。大丈夫かな』とか一般の話も含めて。それに対して副操縦士がどう答えてくるか。主体的に考えるタイプか相手の意見を聞くタイプか、探り合いです。でも一回一緒に飛べばわかりますよ(笑)」。

 中本さんは、基本的に副操縦士に任せるタイプ。だが、指示を待つ副操縦士もいるため、打ち合わせでどういうタイプか見極めるという。リーダーには観察力と洞察力が必要だ。

 CRM訓練は、宇宙飛行士やパイロットだけでなく、立場を越えてチームワークを構築しないと命の危機に直結する医療の現場でも取り入れたいと関心が寄せられているという。私たちの日常生活にもいかせる点が多そうだ。

 まずは、会議で反対意見を言ってくれた人に「ありがとう」の一言から !?