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読む宇宙旅行

2014年11月27日

準天頂衛星を使って楽しみ、助け合い、スポーツ力UP!

 初めての場所に行くとき、カーナビ頼りで運転する人は多いのではないだろうか。今やカーナビは運転時に欠かせない相棒だが、カーナビを可能にしているのが衛星測位システム。複数の人工衛星からの電波を受信することで位置情報を得るが、日本は現在、米国のGPS(Global Positioning System 31機の衛星からなる)を使っている。

準天頂衛星は2018年度に4基体制が整備される予定。

準天頂衛星は2018年度に4機体制が整備される予定。

 米国が独占していた衛星測位システムを今、ロシア、欧州、中国、インド、日本も構築しようとしている。日本は2010年に準天頂衛星初号機「みちびき」を打ち上げ、2018年度には4機体制を整備する予定だ(製造は三菱電機が担当)。精密な位置や時間の情報は水道や電気と同じようなインフラであり安全保障とも密接に関わる。また同システムを様々な分野で活用しようと、316の企業や団体が参加して「みちびき」を使った実証実験が行われている。ビジネス分野ではユーザーをいかに獲得できるか国際競争が起こっている。「特にアジアが主戦場」と東京大学空間情報科学研究センターの柴崎亮介教授は指摘する。

 いったい、どんなサービスに使えるのだろう?測量や、農機などの自動走行、お年寄りや子供を見守るパーソナルナビ、防災時の緊急メッセージ配信。また人や物の位置情報をマーケティングや流通に活かすなど教育、防災、ビジネスなど利用分野は幅広い。2014年11月に行われたG空間EXPO(G空間とは地理空間のこと)では、2020年に開催されるスポーツの祭典に海外から訪れる観光客のおもてなしやスムーズな移動、災害時の避難誘導も一つの鍵だった。気になった活用例を紹介しよう。

 まずは「おもてなしマッピングパーティの提案」。外国人観光客への案内情報として地元住民に「わがまち案内マップ」を作ってもらおうという提案だ。地図は専門家が作るもの、というイメージがあるが、最近、「マッピングパーティ」と呼ばれる地図作り+交流イベントが世界規模で行われていて、地元だからこそ知っている情報の価値が高まっている。楽しく地図作りに参加するとともに、その過程で見つかった問題点(特に高齢者や障がい者など社会的弱者にとっての)を地方自治体などに還元して、地域の問題解決につなげようというものだ。

 提案をしたのは警察庁科学警察研究所、犯罪行動科学部長の原田豊さんだ。実は原田さんは子供の安全を守るためにGPSなど科学技術ツールを使った実験的取り組みを行っていた。たとえば通学路の危険箇所を見回る防犯パトロールなどは各地で行われているが、労力がかかるし、地図に手書きで情報が加えられる場合には情報の客観性が問題となる。また多くの人と共有することも難しい。そこで原田さんは『聞き書きマップ』を開発した。

2012年2月から公開された『聞き書きマップ』を使って厚木市、浦安市、秩父市などで安全点検が行われている。活用地域は拡大中だ。

2012年2月から公開された『聞き書きマップ』を使って厚木市、浦安市、秩父市などで安全点検が行われている。活用地域は拡大中だ。

 利用は簡単だ。街歩きにもっていくのはデジカメ、ICレコーダー、GPS受信機の3つだけ。お宝情報や危ない場所などを発見したら、カメラで撮影する。同時にメモしたい内容をICレコーダーに声で記録するのがポイントだ。これらのデータを帰宅後、専用ソフトをインストールしたパソコンに取り込む。すると画面上に歩いた経路、撮影写真が表示される。写真を選ぶと撮影時刻からその時の録音内容を自動的に頭出ししてくれる。

 この『聞き書きマップ』を使い各地で実験を行ったところ、子供だけが知る抜け道や危険箇所、地域の歴史などのお宝情報が得られた。一方、現在使っているGPS受信機は海外製で数千円と安価であるものの、ビルが林立する大都市中心部で行うと精度が落ちて、役に立たないことも判明した。多くの人に手軽に利用してもらうためには「小型・軽量・省電力・低価格化を徹底しつつ日本製の高信頼性を維持することが大切」と言い、ビルの谷間でも精度高く位置を測定する準天頂システム対応の高精度小型受信機の開発を提案している。防犯目的だけでは参加が限られるため、『聞き書きマップ』を活用して「おもてなしマップ」を作り、地域の資産として活用できるように、という狙いだ。

コカ・コーラの災害支援型自動販売機の電光掲示板に準天頂衛星から送信された警報が表示されたところ。この後、飲料が無料で提供された。

コカ・コーラの災害支援型自動販売機の電光掲示板に準天頂衛星から送信された警報が表示されたところ。この後、飲料が無料で提供された。

 準天頂衛星は測位を行うだけでなく、災害時には避難勧告などの情報を送信するサービスもある。イベント中には、この機能とコカ・コーラの災害支援型自動販売機を組み合わせたデモンストレーションも行われた。日本コカ・コーラは2003年から災害支援型自販機を活用している。通信機能を備え、メッセージを配信するとともに無料で飲料を提供するもので、現在768自治体に7600万台以上設置している。東日本大震災時には合計約400台の自販機で8万8千本の飲料を提供した。当時は携帯電話のネットワークを使っていたが、災害の影響を受けず、一斉に情報を配信することができる準天頂衛星の活用に注目し、実証実験を行っている。

 自治体などから発信された災害情報は準天頂衛星を介して自販機に送られる。デモンストレーションでは ①緊急地震速報 ②地震の情報(太平洋沿岸地域で最大震度5強など)③飲料を無料で提供中 の3段階で表示された。津波や火山噴火、またテロなどの情報も提供可能で、2018年に向けて本格展開を検討していくようだ。

 少し違う視点で面白かったのがスポーツの話題。現在、スポーツ界ではデータサイエンスを活用した「革命」が起こっている。例えばドイツが2014年、サッカーのワールドカップで優勝したが、チームが使ったテクノロジーに注目が集まった。SAPジャパン(株)の馬場渉氏によるとドイツチームはトラッキングカメラで選手とボールの位置情報をトラックしている。軍事ミサイルの追尾システムを転用した技術であり、1秒間に30の時間と位置情報を取得。計4000万件のデータを分析し、パスがなぜ失敗したか原因を探り、ボールの保持時間を短縮するなど戦術に活かしている。

慶應大の神武直彦准教授はデータを活用したスポーツでの価値創りの研究も進めている。慶應大のアメフト部から「強くなりたい」と相談を受け、選手のヘルメットにウェアラブルカメラを装着。UAVを飛ばして試合をモニターし、試合後に選手の動きを多角的に分析。観客側にとっても「アメフト選手になった視点で試合を楽しめるのでは」と神武准教授。

慶應大の神武直彦准教授はデータを活用したスポーツでの価値創りの研究も進めている。慶應大のアメフト部から「強くなりたい」と相談を受け、選手のヘルメットにウェアラブルカメラを装着。UAVを飛ばして試合をモニターし、試合後に選手の動きを多角的に分析。観客側にとっても「アメフト選手になった視点で試合を楽しめるのでは」と神武准教授。

 一方、アディダスジャパンが、選手の客観的なフィジカルデータを「見える化」するために開発したのがマイコーチエリート。心拍センサーやGPS機器などを埋め込んだシャツを着てプレイすると、リアルタイムでデータが送られる。選手の身体の状態、走行距離や速度、どこを走ったかというプレイエリアも把握し蓄積できる。ヨーロッパやアメリカの多くのチーム、日本では横浜F・マリノスが使用している。アディダスジャパンの山下崇さんによれば「GPSの活用という点で言えば、サッカーよりラグビーが進んでいる」とのこと。国際ラグビー協会が条件付きで試合中にGPS装置の着用を認めていること等が理由だ。今後、様々なスポーツで測位衛星が活用される可能性があるだろう。

 慶應義塾大学の神武直彦准教授は「とったデータをどう価値ある情報に持っていくか、つまり分析や活用が今後の鍵となる。2020年には日本のアスリートがデータサイエンスによってメダルをとって、日本人がスポーツ好きになり健康になるといい。またプレイする人だけでなく、スポーツを観戦する人の見方も変わるだろう」と言う。2020年の戦いは宇宙情報も活用した戦いになるだろう。本当に楽しみだ。