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ライター 林 公代 Kimiyo Hayashiライター 林 公代 Kimiyo Hayashi

宇宙業界に風穴を—集まれ!宙女(そらじょ)

宇宙に対する女性の関心は10年前より確実に高まっていると実感する。星を見るのを楽しむ宙(そら)ガールは確実に浸透し、宇宙イベントに熱心に参加する女性を多く見かける。また宇宙業界への就職を目指す大学生のイベント「宇宙就活」で講演させてもらったときも理系文系問わず、積極的な女子大学生が多くて嬉しかった。

そんな女性たちに嬉しいニュース。この7月に産声をあげた「宙女(Sorajo)ボード」(宇宙航空男女共同参画委員会)だ。宇宙学術団体「日本ロケット協会」が山崎直子宇宙飛行士を理事に迎え、JAXAなどの協力も受け、日本の宇宙航空業界で働く女性を中心にネットワークを作ろうと立ち上げたのだ。

実は宇宙業界で働く女性の割合は、高くない。例えばJAXAの場合、女性研究者の在職比率は10.5%(採用比率は14.8%)。ちなみに常勤職員に占める女性の割合は15.8%、女性管理職の割合は5.7%だ(2015年3月末時点)。JAXAは育児休暇を3年とることができ、筑波宇宙センター内に保育園もあってサポート体制は恵まれているほうと言える。しかし研究職や管理職に占める女性の割合は決して高いとは言えない。宇宙関連メーカーで働く女性の割合はもっと低いと聞く。

2010年4月、宇宙飛行中の山崎直子さん(右上)。この時、宇宙には4人の女性がいて過去最多。宇宙飛行士も妊娠、出産や育児で悩むのは同じ。NASAには業務とは独立してファミリーサポートの体制が設けられている。匿名で相談できるので不当な評価を得ることもないそうだ。(提供:NASA)

女性が少ないと何が問題なのか。JAXA総務部法務・コンプライアンス課課長でありJAXAで数少ない子育て真っ最中の管理職として奮闘中の内冨素子さん(小一男児と保育園女児の母 宙女ボードに有志で参加)によると、「共感を得にくい点」だという。

たとえば働く人を男性、女性、理系、文系の4つのカテゴリーに分けると、宇宙航空業界は圧倒的に「男性×理系」の割合が高い。「文系(事務系)と理系(技術者・科学者)、男性と女性は、一般的傾向として発想や行動、説明のロジック等が異なると感じます。そのためこの業界でマイノリティーである女性(+文系)は、意見や提案がなかなか理解・共感されづらい。たとえば今課題となっている宇宙利用の促進は、社会の50%を占める女性、あるいは文系の視点をもっと取り入れるとうまくいくのでは」と内冨さん。

宇宙機器メーカーの技術系現場はどうかと言えば、女性が増えてきているもののやはり男性が多い。「女性=事務職」との思い込みからか、以前は「タバコ買ってきて」という男性上司の指示を周りの誰も咎めなかったり、妊娠中「つわりが大変なら辞めたら?」という発言もあったそう。男女共同参画の考えが浸透してきた今はそこまで不当な扱いを受けることはないものの、開発の追い込みともなれば長時間労働が普通となる現場は、育児や介護中の家庭には負担が重い。そして女性が苦戦を強いられる。だが開発工程がはっきりしている宇宙開発は(妊娠・出産などの)ライフプランを立てやすいはず。現実はなかなかそうもいかないが、技術職の夫婦が同時に育休をとる例も出てきているそうで、今後の広がりに期待したいところだ。

日本の宇宙開発の現場に危機感を感じるのは女性だけではない。三菱重工業で数多くのロケット開発を手掛けてきた生粋の「ロケット野郎」である淺田正一郎氏(米国三菱重工業副社長、日本ロケット協会会長)は「宇宙業界に革命を起こすには、全然違う考え方が必要。欧米社会では多様な文化や背景をもった人を組織に受け入れるダイバーシティ(多様性)が当然の考え方であり、女性の力を活用している。また宇宙業界で働く女性同士は組織を超えてネットワークを作って情報交換している」と女性の力や女性のネットワーク作りに期待する。

実際、NASAの副長官はディーバ・ニューマンさんで女性3人目、スペースX社は女性社長グエン・ショットウェルさんが活躍している。ドイツ航空宇宙センター(DLR)長にも女性が就任した。1985年にはアメリカで航空宇宙業界の女性ネットワーク「Woman In Aerospace(WIA)」が設立され、アワード(賞)やセミナー、就労機会の情報提供などを行い支援活動を行っている。欧州、カナダ、アフリカにも支部が設立された。しかし日本では組織を超えた枠組みはこれまで存在しなかったのだ。

そこで登場したのが「宙女(Sorajo)ボード」。具体的にどんな活動を行うのか。10月上旬には横浜市でキックオフイベントを予定。宙女委員長・山崎直子宇宙飛行士と交流しSorajo活動計画の発表などを行う。11月初旬にはJAXA種子島宇宙センター見学+大平貴之さんのプラネタリウム「Megastar」を洞窟・千倉の岩屋で体験するイベントなどを予定している。今後、勉強会や交流会、宇宙利用を考えるワークショップも企画中だ。「『女子的宇宙ビジョン』や『女子的宇宙ビジネスモデル』の研究会なども行って、学会などを通じて提案していきたい」と内冨素子さんは抱負を語る。もちろん、女性が輝くためには男性の理解やサポートが欠かせない。「宙男(そらお)」の参加も大歓迎とのこと。

宙女(Sorajo)ボードの皆さん。宇宙業界で活躍、輝く女性が勢ぞろい。一人ずつの武勇伝を聞くだけでも面白そう!前列右から宇宙機器メーカー大塚聡子さん、山崎直子宇宙飛行士、JAXA勤務内冨素子さん、宙男代表淺田正一郎さん、後列右から宇宙関連メーカー松長さん、宇宙ビジネスコンサルタント大貫美鈴さん。手元のチラシを拡大したのが次の写真。キックオフイベントは10月上旬で調整中とのこと。

宙女委員長を務める山崎直子さんは「日本で最も古い宇宙関係の学術団体である日本ロケット協会に新しく『宙女(Sorajo)ボード』が立ち上がったことを嬉しく思います。同協会は専門家だけでなく幅広い方々が集まり、自由な発想で活動できることが特徴。歴代の方々のご尽力を受け継ぎ、男女共に新しい発想や風を吹かせることで、宇宙航空分野全体が盛り上がっていくようにしていきたい」とやる気だ。

世界の宇宙開発の現場は今、激変している。日本が世界水準の宇宙技術を手にした今、たくさんの人に宇宙を身近に感じ使ってもらい、さらに未踏の領域を切り開くには、宇宙村とも呼ばれる業界をオープンに開き、女性はもちろんのこと様々な分野と手を携え、活性化していくべきだろう。宇宙に興味を持つあなた、ぜひ参加してはいかがでしょうか?

  • 「宙ガール」は、株式会社ビクセンの登録商標です。