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ライター 林 公代 Kimiyo Hayashiライター 林 公代 Kimiyo Hayashi

人類未踏のマントルを掘る!巨大な船「ちきゅう」とは

太陽圏の外に惑星探査機を飛ばし、宇宙の果ての情報を巨大望遠鏡で得られる時代になっても、足元の惑星・地球にはまだまだ未知の領域がある。その最たるものが地球内部のマントル。マントルは地球の約7割の質量をもつ。マントルで起こる対流によってプレートが動き火山、地震、地下生命圏を生み出しているが、人類は未だマントルに到達していないのだ。

現在、マントルに到達できる世界でただ一つの船が、海洋研究開発機構(JAMSTEC)が保有する地球深部探査船「ちきゅう」だ。11月19日、横浜港本牧ふ頭で行われた報道公開に行ってきました!

地球深部探査船「ちきゅう」。上部に突き出しているのが掘削やぐら(デリック)。掘削に使うパイプ(9.5m×4本≒約40mが1セット)をつりさげるため、通常の掘削船より高い。船前方にはヘリデッキ。乗組員の交替にはヘリコプターを使う。海底を数千メートル掘り進むには何週間から何か月もかかる。その間、潮の流れを交わしながら海の同じ場所にとどまるため船底には6個のアジマススラスタ(主推進器)がとりつけられている。

横浜埠頭で対面した「ちきゅう」は、とにかくデカかった!全長210m(新幹線約8両分)、船底からの高さ130m(30階建てのビル)、そして船幅38m(フットサルコートぐらい)という、何もかも桁はずれの規模に、まずは圧倒されてしまう。

「ちきゅう」は2005年に完成。これまで日米欧が主導し世界26か国が参画する国際深海科学掘削計画(IODP)の科学掘削を主に行ってきた。たとえば2011年3月11日に起きた東北地方太平洋沖地震から約1年後には、水深7000m、海底下820m付近の震源海域でプレート境界断層を貫く掘削と精密な温度計測を行った。その結果、巨大地震と津波がなぜ起こったのか、その発生メカニズムを明らかにする快挙を成し遂げた。また地下生命圏の限界や生命の起源の探査も大きな研究テーマだ。2012年7月~9月に行われた青森県八戸沖の水深1180m、海底下約2466mの掘削では、2000万年以上前の地層に微量な微生物を発見。それらは森林土壌に分布する生物であり、2000万年前に森や湿原に生きていた「海底下の森」の生態系を取り出すことに成功。それまでの海底下生命圏の深度記録を500m以上更新し、世界で初めて海底下深部の生命圏の限界域に到達したのだ。

「ちきゅう」はチャンピオンデータの保持者だ。「大水深掘削」では、日本海溝での水深6883.5m+856.5mの世界記録、大深度掘削では南海トラフでの水深1939m+3085.5mの世界記録をもつ。

「ちきゅう」がすごいのは、チャンピオンデータだけではない。船に最先端の「研究室」を持っている事だ。驚いたのは医療用X線CTスキャナーを備えていること。海底から掘り出されたコアを1.5mの長さに切り、まずCTスキャンにかける。0.6mm間隔で画像を撮ることで、外からはわからない内部の様子や研究対象となる重要箇所を把握する。

注意しなければならないのは船上の菌で汚染しないこと。海底下には酸素にふれるのを嫌う生物が多いことから、生物試料は速やかに窒素を充填したグローブボックス内で処理を行う。その他、様々な装置を取りそろえ、ごく微量の菌も検出できるような高い分析能を誇る。この分析能力と掘削能力の両方があるからこそ、「ちきゅう」には世界中の科学者が乗船する。海底の現場からあがってきた試料を、鮮度のいいうちに分析にかけ、画期的な科学成果を続々とあげているのだ。

ドリルフロアから見た掘削やぐら。「ちきゅう」は大きく掘削(ドリル)のための区画(ドリルフロア)と研究区画に分けられて、掘削区画に行くには、専用の作業服と安全靴、ヘルメット、安全グラスの着用が必須。
JAMSTEC地球深部探査センター運用部部長澤田郁郎さんはドリルエリアの親分的存在。「ちきゅう」は個性豊かな海の男たちが勢ぞろい。
研究区画にあるX線CTスキャナー。海底の浅いところの堆積物は、7割程度の水分を含む。これは人間の身体とほぼ同じ割合なので、人間用のCTスキャナーが使えるとのこと。
酸素を嫌う生物を扱うグローブボックスを説明する、JAMSTEC地球深部探査センター科学支援部次長の江口暢久さん。

今後10年=「ちきゅう」が誕生20年までにマントル到達を!

「ちきゅう」には大きな3つの目的がある。

1. マントルの石を掘り出すこと。
2. 地震を起こす石を掘り出すこと。
3. 海底下の生物を掘り出すこと。

このうち2と3は現在進行形。1のマントルについては、これからだ。

なぜマントルを目指すのか。人類未踏の地だからという理由だけでなく、科学的意義があると倉本真一JAMSTEC地球深部探査センター長代理はいう。

「(地震などを起こす)プレートの動きには、マントルの積極的な動きが関わっているのではないかと最近考えられている。また炭素は気候変動を決める大切な元素だが、今はマントルの中の炭素量が考慮されていない。マントルの中には高圧炭素鉱物(ダイヤモンドなど)がみつかり、マントル内に微生物がいる可能性もある。小惑星探査機は『イトカワ』からかんらん石のかけらを持ち帰ったが、地球内部のかんらん石はまだ取り出されていない。地上で採掘されるかんらん石はマントルの化石のようなものであり、希ガスなど多くの科学成分が失われている。『生のマントル』がどういう様相を呈するのかはわかっていない。現場から試料を掘り、『新しいマントル観』を持つことが重要」と熱く語り、「今後10年でみなさんに『緑の石』(マントルの石)を見せます」と意気込んだ。

マントル掘削については世界中の科学者から提案が出され、候補地も3か所に絞り込まれている。有力候補はハワイ沖。だが、技術的課題は多い。マントル掘削は「大水深、大深度、高温」への挑戦となる。

マントルを掘削するにはまず、海底4000m~5000mまでライザー掘削という方式で堀り進み、その後海底下約7000m以上掘る必要があるという。ライザー掘削とは泥水を送り込みながら掘る方式(石油掘削で用いられる方法)で、泥水の比重を利用して深くまで掘ることができる。この方式を科学掘削に用いているのは「ちきゅう」だけだが、現在のライザー掘削は3000mを超えたあたりが限界。さらに深く掘るには現在の鉄でなく新素材のCFRPを用いる必要があり、実験を始めたところだ。その他、大深度掘削用パイプの開発、長寿命掘削ピット(先端の掘る部分)など技術的課題は山積している。地球深部探査センター許正憲技術部長は「全部の技術をそろえてから掘るのでは時間がかかるので、まずパイロットホールの掘削に着手し、事前調査を行うとともに実現可能な掘削計画を作りたい」と説明する。

「ちきゅう」の掘削機器。科学掘削船でライザー掘削を行うのは「ちきゅう」だけ。太いパイプ(ライザーパイプ)の中に細いパイプを通し二重にし、二重のパイプの間に泥水を通すことで安定して掘ることができる。(提供:JAMSTEC)
「ちきゅう」ドリルフロアの掘削やぐらの下。写真中央のマンホールのような円形のところから海底に向けてパイプを出し入れする。
ライザーパイプを出し入れしているところ。
(提供:JAMSTEC)
パイプの先端に取り付けられるドリルピット(回転刃)が海底の硬い岩盤を掘り進む。右の黄色いドリルピットの黒い部分には、硬い人工ダイヤモンドが使われている。
マントル掘削のために開発中のCFRP製ライザーパイプ。

宇宙の果てに向かう探査も魅力だが自分たちの惑星・地球の内部に向かう探査もそれに負けず劣らず魅力的だ。マントルの「緑の石」は、いったいどんな緑色をしているんでしょうね。