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星空の散歩道

国立天文台 副台長 渡部潤一 Junichi Watanabe国立天文台 副台長 渡部潤一 Junichi Watanabe

 Vol.110

変化する夏の小三角を眺めよう

今年5月の「接近する火星を眺めよう」でも紹介した、地球へ接近した火星がまだ夏の星座、さそり座のあたりに輝いている。接近後でも火星はしばらく地球を追いかけてくるために、夕方の南西の夜空に長く輝き続けるのである。接近前後は、その東側に輝く土星や、さそり座の一等星アンタレスなどと、西側へと飛び出した細長い三角形を作っていたが、この原稿が世に出る頃には、かなりアンタレスに近づきつつあるはずだ。5月末の接近時に比べれば、さすがに暗くなってしまってはいるが、それでもマイナス0.5等。土星の0.2等、アンタレスの1.1等よりも明るく、その赤い輝きを保っている。

火星は、接近時は逆行(星座の間を東から西に動くこと)だったが、すでに順行(星座の間を西から東へ動くこと)に転じていて、星座の間を移動していく足も速い。ちょっと上の方に輝く土星も順行しているが、さすがにこちらは30年という公転周期を持つ惑星で足は遅いので、動きも鈍い。そのために毎夜のように眺めていると、まるで動かない土星とアンタレスを結ぶ辺を貫くように火星が動いていくのがわかるだろう。

8月24日になると火星が土星とアンタレスの間にやってきて、縦に並ぶ。三つ星のように等間隔に並べば面白かったのだが、火星は土星とアンタレスとを結んだ線分のアンタレス側を通過していくので、対照的な美しさはない。それでも一等星クラスの輝きが縦に並ぶ姿は見応えがあるに違いない。その後、火星はさらに東へと移動していき、再び三角形を広げていく。次第に東側に出っ張った三角形をつくりあげていき、9月4日頃には、その形は正三角に近くなる。そして9月半ばには二等辺三角形のような形になる。これはまるで頭上に輝く、こと座のベガ、わし座のアルタイル、そしてはくちょう座のデネブを結んで作る「夏の大三角」と似た形状で、「夏の小三角」といって良いかもしれない。

8月中旬から9月までの火星の動き。土星とアンタレスとの位置関係が変化しているのがわかる。(アストロアーツ社ステラナビゲータで作成)

その後も火星はどんどん東へと移動していく。この三つの天体が三角形として認識できるのは、せいぜい9月下旬頃までだろう。それをすぎると火星がいて座のあたりまで動いていき、三角形はあまりに細長くなってしまう。この頃になると火星はかなり地球から遠くなるので、土星と同じ明るさになってしまう。

このように惑星が動いていって、明るい星や他の惑星とで変化する三角形ができたり、十字架ができたりするのを眺めるのも、星空を散歩する楽しみの一つである。2014年の冬には、木星が冬の大三角と共に、巨大な南十字をつくったことがある(Vol.80/「冬空に輝く巨大な十字架」)。今後も、火星は夜空のあちこちでいろいろな形を作るに違いない。というのも、接近後の火星は、いつまでも名残惜しそうに地球を追いかけ、西空に残り続けながら順行するからだ。土星やアンタレスが西の地平線に沈んでしまっても、秋の星座を東へとかけ抜けて、しぶとく残るのである。年を越えると、さすがに明るさは1.0等を切ってくるが、それでも冬の夕方の西空では目立つ天体である。1月下旬から2月にかけて宵の明星・金星が近づく。金星が西の地平線に近づいていっても、火星はまだしぶとく残り続ける。そして来年のゴールデンウィークには、冬の星座であるおうし座でふたつの散開星団、ヒアデスとプレアデスの間に入り込みながら、暗くなった西の地平線を彩る天体の一つとなるはずだ。まるで別れを惜しむ恋人のように、ひたすら地球を追いかけてくる火星の姿を半年にわたって追いかけてみるのも面白いだろう。