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星空の散歩道

2010年4月15日 vol.53

生命の謎に迫る? オリオン大星雲での発見

アミノ酸の鏡像異性体は、それぞれ L型(左型)と D型(右型)に分類されています。(提供:国立天文台)

アミノ酸の鏡像異性体は、それぞれ L型(左型)と D型(右型)に分類されています。(提供:国立天文台)

 われわれの体を作っているのは、複雑な有機物であることはご存じだろう。その基礎となるのがアミノ酸だ。一般にタンパク質は20種類のアミノ酸が結合して作られている。ところが、タンパク質をつくっているアミノ酸をよく調べてみると、奇妙なことに、ほとんどが「L型アミノ酸」と呼ばれるものであることがわかっている。

 アミノ酸というのは、原子の組み合わせ方によって、鏡像異性体とよばれる L型(左型)と D型(右型)とが存在する。L型とD型は、それぞれ鏡に映したときのように原子配列が逆転している。一般に実験室でアミノ酸を合成すると、ほとんどの場合は、このL型とD型が同じ量できる。では、どうして地球上の生命におけるアミノ酸のほとんどがL型なのだろうか。これは、生命科学における根本的な謎として、いまでも解けていない大きな謎である。

 この謎を解く鍵の一つが、光の性質である偏光にあると思われている。(偏光についての説明は、ここでは省略させて頂く。)実は、偏光した光をあてながらアミノ酸を合成すると、その偏光に応じて化学反応が対称的でなくなるため、L型かD型かどちらかが多く合成されるからである。つまり、生命を形作るアミノ酸が、偏光が豊富な状況でL型が多く造られれば、必然的に生命が誕生する際にL型が選択されただろう、と考えられるのである。

 では、偏光が多いような特殊な状況が宇宙にあるだろうか。探してみると、これが結構、あるようだ。特に興味深いのは、星が生まれつつある領域(星形成領域)で、偏光が観測されたことだ。もし、星が生まれ、同時に惑星が生まれるような状況下で、偏光が強ければ、そこで生成されるアミノ酸も偏りが生じることになるだろう。生命科学の長年の謎であったL型アミノ酸問題が、天文学で解決するかもしれない。

 最初に特定されたのが、天文ファンにはなじみ深い冬の星座オリオン座にあるオリオン大星雲であった。オリオン大星雲は、いままさにたくさんの星が雲の中から生まれつつある、星形成領域の代表である。太陽系の近くには、いくつかの星形成領域がある。おうし座にある星形成領域は、太陽よりも軽い星が生まれている場所で、太陽よりも重い星はほとんどない。一方、オリオン座の星形成領域は、太陽よりもかなり重い星がたくさん生まれている。国立天文台の研究者を交えた研究グループによって、このオリオン大星雲の中心部に、偏光の強い場所が発見されたのが、1998年のことだった。ただ、当時はまだ偏光を検出する感度が低く、検出された領域もごく一部だった。そこで、同グループは、偏光をとらえる新しい近赤外線偏光観測装置を開発し、これを南アフリカのサザーランド観測所に設置された赤外線望遠鏡に搭載して観測を行った。これによって、オリオン大星雲全体の広い範囲に偏光が存在することを明らかにしたのだ。その広がりは、太陽系の大きさのおよそ400倍以上に相当する。その中心には、太陽の20倍ほどもある大きな質量を持つ恒星が生まれているとされている。そして、偏光の性質が逆になる領域が、交互に表れていることも明らかにしたのだ。オリオン星雲では、太陽と似たような軽い恒星も多数生まれている。

参考:オリオン中心部の図の中心にある明るい星は大質量星で、トラペジウムと呼ばれています。 (提供:国立天文台)

参考:オリオン中心部の図の中心にある明るい星は大質量星で、トラペジウムと呼ばれています。 (提供:国立天文台)

 実際、太陽はかつて大質量星と一緒に誕生したらしいことがわかっている。というのも、地球上に落下した隕石をよく調べると、大質量星が起こした超新星爆発によって生じた物質が含まれているからである。つまり、太陽系はオリオン大星雲のような領域で生まれ、大質量星によって強い偏光にさらされていたと想像できる。もし、そうだとすれば、われわれ太陽系は、大質量星による強い偏光を浴びながら生まれてきたと考えられる。それが原因でL型アミノ酸が増え、その結果として発生した生命がL型を採用したと考えられるのである。もちろん、検討すべき課題は残されている。L型アミノ酸が星雲の中では多く生成されたとしても、地球上でアミノ酸が合成されるときには、強い偏光が届いている可能性は少ないはずだ。では、星雲内でできたL型アミノ酸を、たとえば隕石に保存して地球に降らせるのはどうだろう。いずれにしても、最終的に生命がL型を選ぶまでには、まだまだ明らかにしなくてはいけないことは多そうである。とはいえ、天文学の観測から、生命の起源に一条の光が差し込みつつある。なんとも、わくわくする話ではないか。