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ライター 林 公代 Kimiyo Hayashiライター 林 公代 Kimiyo Hayashi

月に水?小惑星にプラチナ?「太陽系は資源の宝庫」
東京大学・宮本英昭教授に聞く

こんな試算がある。半径1㎞のイトカワタイプの小惑星には3千万トンのニッケルと150万トンのコバルト、7500トンの白金族がありその価値は約15兆円。さらに同じ大きさの金属型(M型)小惑星なら100億トンの鉄と1億トンの白金族があり、これまで人類が地球で生み出した総量に匹敵する鉄と、総量の倍もの白金がもたらされると。「太陽系は資源にあふれた物質の宝庫、これを使わない手はない」。東京大学の宮本英昭教授が2016年6月に行われたシンポジウムで「地球外資源」をテーマに発表した内容だ。

NASAも小惑星から資源を採取する方法を研究中。(提供:NASA)

現在、世界では「宇宙資源開発」を目指す宇宙ベンチャーが急増している。さらにルクセンブルク政府は宇宙資源利用の法的枠組みを整備した。日本も例外ではない。月面レースに参戦するHAKUTOを運営するiSPACE社はレースで得た技術と知見を生かし、月での資源探査を目標に掲げる。彼らが狙うターゲットは「月の水」だという。しかし、そもそも宇宙の資源って、どこにどれくらいあるのか、たとえあったとして、どうやって利用するのか?東京大学システム創成学専攻 宮本教授に伺った。

月に水はあるか?

まずはもっとも身近な月について。国際宇宙ステーション計画の後、人類が目指すターゲットは月になりそうだ。JAXAも国際協力で月に宇宙飛行士を着陸させる構想を提案中。月で人間が活動を行う際、水があるかどうかは極めて重要だ。人間の生存に水は必須だし、ロケットの燃料としても使える。月で水を調達できれば、地球から水を運ぶ必要がなくなる。

月に水があるか?を巡っては科学者の間では長らく論争が続いてきたが今はどうなっているのだろう?宮本教授によると「科学者の中には『ある』と信じている人と『ない』と信じている人がいて、ないと思っている人の方が多いのではないか」。あるという人のもっとも大きな根拠はNASAの「エルクロス」ミッション。2009年10月9日に月の南極にあるカベウスクレーターに衝突体をぶつけ、舞い上がった噴出物を「エルクロス」が間近で観測。スペクトルの分析結果から「水がありそうだ」という論文を発表した。しかもその量は質量比で5%。1kgの物質中50gの水があることになり、「相当多い」と宮本教授は言う。

一方、月面に衝突体がぶつかる瞬間をハッブル宇宙望遠鏡や地上の複数の大望遠鏡が同時観測を行ったが、スペクトルから水を検出することはできなかった。「5%もあったら観測できるはず」というのが、水がないと考える人の主張だ。日本の月探査機「かぐや」も月の南極にあるシャクルトンクレーター内の永久影を地形カメラで観測したが、その表面には氷が存在する証拠を発見できなかった。だが「表面にないだけで、内部にある可能性は残されている」(宮本教授)。つまり月に水があるかないかは「玉虫色」ということになる。

月の南極にあるシャクルトンクレーター。その永久影には果たして氷があるのか、論争が続いている。欧州の月探査機「SMART-1」が撮影。(提供:ESA/Space-X)

だからこそ民間の宇宙ベンチャーが月面の水の探査をやる意義がある、と宮本教授。「税金を使う国家プロジェクトでは、成果が得られるかどうかわからない探査を実施することは難しい。民間だからこそ挑戦できる。ないと思っていたのに水があったら、すごくいいじゃないですか」宮本教授曰く、月面の水資源探査は鉱山開発と同じようなものだという。有望な銅鉱山があり試掘に行くから資金を出してもらうのと同じ。当たれば大きいし、時には当たらないこともある。

月に水があるとしたら北極か南極と考えられる。極地域には常に影になっている『永久影』があり、ものすごく温度が低い。「例えば氷をたくさん含んだ彗星が月に衝突したとき、温度が低い場所ならそのまま氷として存在しうる。他の場所だと太陽にあぶられて気体になってしまう」(宮本教授)。極にある温度が低い場所は「コールドトラップ」(トラップは罠の意味)と呼ばれ、水に限らず二酸化炭素や硫化水素など揮発性成分が存在する可能性がある。冷たい罠に何が捕獲されているかわからないからこそ、探査することに価値がある。

東京大学の宮本英昭教授。部屋の壁には一面ホワイトボードが張られ、火星の衛星からのサンプルリターンミッションの議論の過程などがいっぱいに書かれている。この日の取材直前までネットで会議中だった。

必要なのは、太陽系の資源マップ

宇宙資源の探査を掲げるベンチャーには、月にある「イルメナイト」というチタンと酸素が結びついた鉱物から、酸素を取り出すことができると謳っているところもある。だが「酸化物から取り出すためのエネルギーが大きすぎて非現実的」と宮本教授は指摘する。つまり現在、宇宙ベンチャーが掲げる資源探査は、きちんとした科学的事実に基づいているとは言えないのが現状だ。「そもそも太陽系内の物質の分布を精度よく理解することが大事なのに、まだ科学的な研究も進んでいないのが現状」。つまりどこにどういう資源があるかという資源マップが存在しないのだ。

たとえば冒頭に紹介した、資源の宝庫・小惑星についてはどうか。「太陽系の中に約300万個の小惑星があるが、今まで人類が探査したのは10個ぐらい。軌道がわかっているのは70万個。小惑星にも様々なタイプがあるが、どの小惑星がどのタイプか、まだよくわかっていない。地球から望遠鏡で見て調べるには限界がある」。

逆に考えれば、例えば鹿児島県にある菱刈鉱山は世界一の金含有率(鉱石1トン中に含まれる平均金量が世界の主要金鉱山の約10倍)を誇るが、宇宙から観測しても、菱刈鉱山に金があることは絶対にわからないそうだ。「水が多そうだとか炭素質だとかはわかっても、人間にとって有用な鉱脈は行ってみないとわからない部分がかなりある」という。だから「70万個のうち地球に近く、有望な小惑星に片っ端に探査機を送り込むのが一つの考え方」。

これまでの科学探査は「資源」という観点では行われていなかった。そこで宮本教授らは資源探しの観点から探査を見直して、どこに着目してどの天体を調べればいいのか、という研究を行っている。

最初は水、次に鉄。究極は宇宙資源を地球に持ち帰ること

人類が最初に使える宇宙の資源は?と宮本教授に伺うと、帰ってきた答えはやはり「水」。水があればロケット燃料に使えるため、宇宙にガソリンスタンドがあるようなもので、探査の範囲が革命的に広がるからだ。宇宙で水を調達するターゲットの第一候補は「彗星」、しかも「枯渇した彗星」だという。過去に彗星として活動していたがその後、小惑星になった天体の内部には水が残っているものがある。その水を取り出して使える。

また、火星には氷が無限にあることが既にわかっていて、地球から近い天体でもある。火星の衛星フォボスも中に氷があるのではないかと考えられている。

 「輸送手段を手に入れれば、小惑星にある金属資源、たとえば鉄元素を採りに行ける。地球で天然に存在する鉄は酸化鉄であり、莫大なエネルギーを使って還元しているが、宇宙にある鉄は還元鉄。そのまま使えるので、鉄は宇宙由来の重要な資源になるでしょう」さらに土星以遠にはメタンや固体アンモニアなど、すぐにでもエネルギーとして使える揮発性成分が無尽蔵に存在する。

宇宙に豊富にある資源をどう利用するべきか。その第一段階は現地調達(たとえば月面で採れた資源を月面基地で使う)。次に宇宙のある場所から別の場所への輸送(小惑星で採取した鉄を月面基地で使うなど)。そして最終的には地球に持ち帰りたい。地球に資源を持ち帰る場合、地球近傍型小惑星は非常に有望。重力が小さいから着陸したり往復したりしやすいし、「地球に落ちてくる小惑星のかけら=隕石」を調べることで、どの小惑星に何があるか研究しやすいからだ。

小惑星は資源の宝庫。将来、宇宙の資源を地球に持ち帰る時代には、小惑星イトカワのような地球近傍型小惑星が有力なターゲットとなる。(提供:JAXA)

「20年前は地球に宇宙の資源を持ち帰るなんて議論すらできなかったが、今は現実的に議論できるようになってきた。歴史を振り返っても大航海を実現したコロンバスや、大西洋を横断したリンドバーグのように、リスクをとる人が出て支援者が集まり、実現できるかどうかわからないことに挑戦し誰かが達成すると流れが一気に変わる。民間が宇宙に進出しだした今はよい時代。意外と50年後に(地球に宇宙の資源を持ち帰ることが)実現するかもしれない。もちろん宇宙船の往還コストを現在の100分の一以下に下げるなど技術的ブレイクスルーが必要になるが、宇宙に無尽蔵にある資源を使えるようになれば、産業革命以来の文明の大転換になるでしょう」(宮本教授)

おまけ—「フォボスを作る」進行中

宮本先生のお部屋で超面白いものを発見!火星の衛星からサンプルを持ち帰るMMXミッションについては以前コラム(参照:「火星の月の石」を持ち帰れ!世界初への挑戦)でも紹介したが、例えば火星の衛星フォボスに着陸してサンプルを持ち帰るためには、フォボスがどんなものでできているかを知らないと、着陸機の構造やサンプルの取り方を決められない。

そこでフォボスの起源や観測事実、火星や小惑星から飛来した隕石などから「フォボスはこんなものでできているのでは」と考え、フォボスの模擬物質(シミュラント)を作っているという!(下の写真)。日本中の鉱山にお願いして鉱物を様々な大きさに粉砕してもらい作っている。月についても、もし月の土壌に氷が入っていたらどういう状態になるかという独自のレゴリスシミュラントを作成中だとか。(しかし、貴重な物が無造作に机に置かれてて驚きました^^;)「太陽系の資源マップ」、「火星の月」、「月の水」..宮本先生の研究室は、これからの宇宙探査の鍵となる話題や物があふれる宝箱であり、おもちゃ箱のような空間でもありました。

火星の月フォボスの模擬物質(シミュラント)。様々な大きさのものを用意し、どんな大きさにも着陸機が対応できるようにする。
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