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ライター 林 公代 Kimiyo Hayashiライター 林 公代 Kimiyo Hayashi

「こうのとり」7号機に見る『宇宙の宅配』事情

9月27日、ISSからとらえた「こうのとり」7号機。「近づいてくる貨物船にはいつだって魅了される」とISS滞在中のアレクサンダー・ガースト飛行士。(提供:NASA)
ISSに近づくにつれ、直径4.4m、長さ約10mの巨大な貨物船の全容が見えてくる。2015年にISSに滞在した油井飛行士は「その大きさと迫力に驚いた」と。(提供:NASA)

4度の延期を経て、2018年9月23日、貨物船「こうのとり」7号機がようやく国際宇宙ステーション(ISS)に向けて飛び立った。打ち上げ後の飛行は「物足りないほど」(「こうのとり」7号機リードフライトディレクタ内山崇さん談)順調に進み、9月27日20時36分、ISSの宇宙飛行士が操作するロボットアームでキャプチャ(把持)。翌28日03時08分にISSへのとりつけを完了した。

宇宙暮らしで地球から貨物船が届くのは、どんな気持ちなのだろう?

「それは嬉しいですよ。私がISSにいた2015年は米ロの貨物船の打ち上げ失敗が続いてモノ不足でした。そうでなかったとしても生鮮食料品とか家族の手紙とか、地上から何かが届くこと自体がレアですから、開けるのが楽しみなんです」

そう語るのは2015年8月末にISSでロボットアームを操作し「こうのとり」5号機をキャプチャした油井亀美也飛行士だ。ISSで見た「こうのとり」はびっくりするぐらい大きくて迫力があった。その大きな宇宙船を400km上空の宇宙に送り、ISSから見て止まっているように相対速度をゼロにする日本の技術はすごいと油井さんは言う。米ロの貨物船3機の打ち上げ失敗が続いたこともあって、米ロの宇宙飛行士からすごく感謝されたし、「こうのとり」の中に入ると「広くて綺麗。きっちり緻密に荷物が積まれているのが日本人らしい」と。

ISSに到着した「こうのとり」7号機。6号機から9号機は毎号ISSの維持に欠かせないバッテリ6台を運ぶ。(提供:JAXA/NASA)
ISSのキューポラで「こうのとり」のキャプチャ作業を行うNASAアンドリュー・ヒューステル飛行士(中)とセリーナ・チャンセラー飛行士(奥)。(提供:NASA)

油井飛行士によると、大量の荷物の中でも生鮮食品が本当に嬉しいらしい。「匂いや色、五感を通して、有難みがわかるんです。ISSの中は白とか青とか機械的な色がほとんど。植物的な色は稀です。だから生鮮食料品で柑橘類を見つけた時がミッション中、一番嬉しい顔をしていたんじゃないですかね(笑)」

「こうのとり」7号機で届いたばかりの岡山県のシャインマスカットや宮城県のパブリカ、愛媛県と佐賀県の温州みかん、北海道の玉ねぎを浮かべて感謝をのべるNASAチャンセラー飛行士。(提供:JAXA/NASA NASAテレビより)
さっそくチーズバーガーナイト?パブリカが浮かんでますね!(提供:JAXA/NASA)

「こうのとり」7号機にもフレッシュな果物や野菜が届けられた。岡山県のシャインマスカットや宮城県のパブリカ、愛媛県と佐賀県の温州みかんなど。JAXAは5号機から生鮮食品をISSに届けているが今回は24都道府県から124食品の情報提供を受けた。22度で4週間以上の保存が可能なこと、種子を食べる食品でないこと、果汁が著しく飛散しないことなどの条件や味から、4種類(5道県)の果物や野菜が選ばれた。

NASAチャンセラー飛行士は、「新鮮なフルーツや野菜は我々の健康や雰囲気をよくしてくれるだけではなく、幸せを感じさせてくれます。今日はさっそくチーズバーガーナイトを開きます」と感謝をのべつつ、「洪水や地震による被害を受けた方たちや家族が健康で早く復興することを願う」と被災地にメッセージを送った。最後にシャインマスカットをパクっと口にし「わぁ!美味しい」と満面の笑み(金井飛行士は宇宙飛行士候補者クラスでチャンセラー飛行士と同級生。彼女は大の食いしん坊らしい!)。生産者の方たちもさぞかし喜んだことだろう。

4度の延期「我慢比べ」「3機ぐらい打ち上げた気分」

10月27日、「こうのとり」7号機キャプチャ時に拍手が沸き起こるHTV運用チーム。(提供:JAXA)
キャプチャ後に。「こうのとり」7号機のリードフライトディレクタ内山崇さん(左)とキャプチャ前からずっと解説して下さった油井宇宙飛行士。(提供:JAXA 油井飛行士のツイッターより)

貨物船「こうのとり」は今回で7回目の打ち上げ。連続成功を重ねてきたが、天候やロケットトラブルで4回も延期されたのは初めてだ。しかも2度目の延期後、9月15日は打ち上げ時刻まで残り約3時間でロケット側のトラブルが見つかり、まさかの中止。

「こうのとり側は打ち上げ準備が完了していたので、ショックでした。その後のロケット側のトラブル解析で1週間程度遅れるという話になったが『ここは我慢比べだ。慌てても仕方がない』とチームで声をかけあった」とHTV技術センター長の植松洋彦さんは明かす。

植松さんはリスクヘッジとして打ち上げが一週間、一か月、半年以上遅れるケースを想定し、それぞれの時期で賞味期限が切れるものは何か、交換するものは何か、交換にはどういう作業がありどれくらいの期間が必要か、などのケーススタディを行ったという。

一方、「こうのとり」7号機の運用チームを率いるリードフライトディレクタ内山崇さんは4度の延期のたびに最終手順を準備し「3機ぐらい飛ばしたような疲れを感じながら、打ち上げに臨んだ」と苦笑い。

「こうのとり運用管制官の仕事の95%は打ち上げ前にほぼ終える。飛行後に使う何種類もの手順書を作り、何か問題が起きても対処できるように訓練を積む。打ち上げ日が決まると発射日時に応じて手順書をファイナライズして、打ち上げ二日後まで準備する。それを延期のたびに繰り返さなければならなかった」。つまり打ち上げ前準備の「最後の詰め」のところを何度も何度も繰り返さなければならなかったのだ。

しかし「勇気をもって打ち上げを止めたことで失敗に至らなくてよかった。確実に打ち上げられることで、我々が(ロケットから)バトンをつないでISSまで飛行ができる」と切り替え、モチベーションを保ったまま準備を進めることができたと。内山さんは3号機でもリードフライトディレクタを務め、今回はベテランとして若手の育成にポイントを置いていたと言うだけあって、経験に裏打ちされた余裕が感じられる。

だが、今回の「こうのとり」7号機の打ち上げやISSからの離脱時期については、様々な制約があったそう「『こうのとり』の後、11月には米国の貨物船シグナスがISSに来ることがきまっていて、その前に『こうのとり』はISSを離れないといけなかった」つまり、打ち上げが遅れても「こうのとり」が帰る時期は決まっていたのだ。「こうのとり」がISSにドッキング中に大量の荷物を搬入し、不要物を積みこまなければならない。最大の山場はISSバッテリ6台の取り付け・交換作業。宇宙飛行士によるロボットアーム操作や船外活動が必須の大掛かりな作業となる。旧バッテリは取り外して「こうのとり」の帰路に大気圏で廃棄する。

さらに、ISSに滞在中の6人の宇宙飛行士のうち3人が10月頭には地球に帰ることも決まっていた。3人が帰るとしばらくの間ISSは3人態勢になって、できる作業が限られる。なんとか6人態勢の間に「こうのとり」のキャプチャ作業などを終わらせたい。となると9月中には「こうのとり」をISSにドッキングさせる必要があった。

このように、ISSの人やモノの輸送は様々な制約の中でスケジュールが決められていく。しかしいかなる場合も安全が最優先となる。例えば、「こうのとり」6号機は推進モジュールの不具合で打ち上げが2ヶ月遅れた。新型バッテリ初の移設作業で船外活動を行う予定だった大西飛行士はISS滞在中に「こうのとり」が到着せず、貴重なチャンスを逸した。「宇宙飛行士は状況が変わるのは織り込み済みであり、一喜一憂しないのが大事な要素。大西飛行士は船外活動できなかったが落ち込まず仕事を続け、逆に高い評価を受けた」(油井飛行士)

6.2トンもの荷物をどうやって片付けるの?

今回、「こうのとり」7号機は約12日の遅れで打ち上げにこぎつけ、過去最大重量6.2トンの荷物を届けた。これほど大型の荷物を一度に運べるのは「こうのとり」だけ。2トントラックにして3台分。それだけの荷物をどこにどうしまうのか。油井飛行士に聞いてみた。

「まずは計画的に捨てる。『こうのとり』の前に来た宇宙船に不要になった実験装置やごみを積んで廃棄します。収納場所は限られているのでスペースを作りますが、足りない場合は仮置き場を作ります。地上の管制センターに荷物を管理する担当(の管制官)がいますが、パズルを組み合わせるように『これを取り出して』と計画を作ってくれて神業です(笑)。その計画通りに作業しますが、無重力だと物がふわふわ浮くので、まずガムテープを机の上に貼って飛ばないようにしておくところから始めます」

「こうのとり」7号機の中に入る宇宙飛行士たち。(提供:NASA)

宇宙で物をきっちり管理することは、地上以上に大切な作業なのだと若田飛行士に聞いたことがある。適当に置いておいたりすると、いざ必要な時に探すのが大変。実験を始めるときに物がそろわず探し回れば貴重な時間のロスになるばかりか、下手をすると実験が実施できない場合も起こりうる。だから米ロそれぞれに在庫管理システムがあり、どこに何をしまったか記録されている。

例えば「こうのとり」では種子島の水を大量に送っているが、どこにしまっているのだろう?「水はPMMという倉庫のようなモジュールにしまっています。食料や水、実験装置などをしまっておく部屋です」(油井飛行士)

ISSにある倉庫PMM。物品管理も大事な仕事の一つ。2012年2月撮影。(提供:NASA)

11月、宇宙からのお土産を地球に持ち帰る

そして「こうのとり」7号機最大の目玉が8月のコラムでも紹介した小型回収カプセル。油井飛行士は、宇宙から帰還後、2016年に筑波に戻って最初に携わった仕事が小型回収カプセルだったと言い、「すごく期待しています」と力を込める。

油井飛行士によると、今回の小型回収カプセルで持ち帰るたんぱく質生成実験のサンプルは4度以下に保ったまま地球に戻すという制約があり、制限時間内にカプセルに搭載するなどの宇宙飛行士の作業は複雑で難しいものだという。「宇宙飛行士がISSで間違いなく作業できるようにするにはどんな手順にしたらいいか、そのためにどんな訓練を行えばいいか、ありとあらゆる点で携わったので緊張も期待もしています」

実験の意義については「この小型回収カプセルが、最終的には日本が人を打ち上げて(地球に)帰す技術に結び付いていけばいい。小さな一歩だが、将来に向かっては大きな一歩になりうる」。日の丸宇宙船実現のためにも小さな一歩を繋げて行って欲しいものだ。

生き物という点では「(新型宇宙船)HTV-Xでは、マウスなどを生きたまま回収するための検討を進めている」(HTV技術センター長の植松洋彦さん)とのこと。小型回収カプセルの帰還は11月中。夜明け頃に日本列島を横切り、南鳥島周辺の近海に着水するルートで調整中だそう。流れ星のように見えるかな? 無事着水まで「こうのとり」7号機のミッションから目が離せませんね。

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