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読む宇宙旅行

ライター 林 公代 Kimiyo Hayashiライター 林 公代 Kimiyo Hayashi

「ISS(宇宙ステーション)の歌」誕生!
矢野顕子さんに聞く—宇宙を「茶の間」に。

大の宇宙好きで、NASAなどの宇宙情報をツイートし、音楽ファンをいつの間にか宇宙の魅力に引っ張り込んでしまうミュージシャンと言えば?そう、矢野顕子さん。宇宙好きが高じて「Welcome to Jupiter」や「Soft landing」など素敵な曲を作ってこられた。その矢野さんから「国際宇宙ステーション(ISS)の歌を作ってます」とメッセージを頂いたのが春ごろ。どんな曲だろう?と期待がビッグバンのように膨らんでいたところ、いよいよ完成したという!

2018年8月末、METoA Ginzaでマイ人工衛星を作り、宇宙体験を楽しむ矢野顕子さん。

それが11月28日に発売されるアルバム「ふたりぼっちで行こう」の冒頭の曲「When We’re In Space」(作詞:Reed Hays 作曲:Akiko Yano 編曲:Reed Hays)だ。矢野さんが夏に帰国された際、幸運にも聞かせて頂いた。体が自然に動き出すようなポップなメロデイーに、透き通るようなコーラス。そして矢野さんが原案を書いたという歌詞がまたいい。

「Looking up at where we're from
Looking down into the glow
(見上げれば私たちが来たところが、
見下ろせば宇宙の輝きが見える)」

また、日本のKIBOが「希望」、(ロシアの)ザーリャは「夜明け」など各国の実験棟の呼び名や意味、「ISSは星々や小惑星、火星へのゲートウェイなんだよ」と歌われていて楽しい。

この曲は、矢野さんとシンセポップデュオReed and Caroline(リードアンドキャロライン)との共作。リードさんはNYで矢野さんと同じマンションの住人。ブックラ・シンセサイザを使ってダークマターの曲を収録したアルバム「ハローサイエンス」などを発表している。

リードさん曰く「アキコと私は隣人で、一緒のエレベーターに乗り合わせる度に音楽や宇宙、クラフトワークについて話す間柄です。今年のはじめ、このアルバムのコラボレーションに声をかけてくれました。まず彼女が美しいメロディーを聴かせてくれたので、私はこの曲がどんなテーマなのか質問しました。するとこんな答えが返ってきたんです。『国際宇宙ステーション(ISS)!』」(「ふたりぼっちで行こう」特設サイトより)。一方、矢野さんは「リードの音を聞いて本当に素晴らしいと思ったので、一緒に歌を作りたいと提案しました。ブックラでないと作れない音色があるんです」。二人が楽しんで作った曲からは、ISSから地球や宇宙を眺めるわくわく感が伝わってくる。

11月28日発売最新アルバム『ふたりぼっちで行こう』(2018年11月28日発売)はYUKIさん、平井堅さん、奥田民生さんら11人とのコラボが超楽しみ。ジャケットの数式は、答えが2になる難解な数式を数学者に考えてもらったそう。

「ISSは地球のために宇宙にいる」ユニークな存在

「国際宇宙ステーション(ISS)は地球と宇宙のはざまというちょうどいい位置にある」と矢野顕子さん。(提供:ROSCOSMOS)

ところで、なぜ矢野さんはISSの歌を作ったのですか?「ISSはすごくいい位置にあると思うんです」と矢野さんはその理由を話し始めた。「そもそも宇宙は人間が生身で生息することは許されていない場所。ISSに約1年間滞在したスコット・ケリー飛行士は『Space is hard(宇宙は過酷な場所)」、別の飛行士も『Space is nothing(宇宙は虚無である)』と言っています。野口聡一飛行士の著書『宇宙においでよ!』を読んだら、船外活動するときにハッチをあけたら、そこは死の世界だったと書かれていて、すごく印象的でした」。つまり人間はかなり無理をして宇宙に行っているのだと。

「でもISSは宇宙と地球のはざまにあって、へその緒は地球につながっているような状態。すごくユニークな存在だと思う。ISSの外に出れば宇宙の怖さを味わえるし、ISSから地球を眺めると地球大気があんなに薄いことや、その薄い大気の中でだけ、人間は息をして生きていけることを教えてくれるのです」。

「触れる地球」展示にそっと手をふれる矢野さん。

宇宙を茶の間に。その入り口は音楽!

「私は宇宙やその中の地球のことを、できるだけたくさんの人に『自分の問題として』感じて欲しい。『宇宙を茶の間に』もってきたいんです。難しいことでなく、エンタテイメントとして軽い感じでいいので。その点、ISSはすごくいい位置にいて宇宙を茶の間に持ってくるのにベストだと思います」だから、矢野さんはISSの歌を作った。

ISSからはごく薄い大気が見えて、私たちがいかにその薄い大気に守られているかがわかる。(提供:NASA)

「宇宙を茶の間に」。なんて親しみやすい言葉だろう!実は矢野さんは、「楽して宇宙に行きたい」と言いながら、宇宙飛行士訓練で必要とされる水泳を約3年前から習い始め、今では500mほど泳げるほどになったという。現状、宇宙に行くためには訓練が必要だ。でも「『そんな大変な思いをしてまで宇宙に行きたくない』という人がほとんど。それに宇宙って数学や理科がわからなければ理解できない、と思っている人もいるでしょう」。矢野さんが指摘するように、宇宙を茶の間にもってくるためのハードルは低くない。

一方、カナダ人のクリス・ハドフィールド元宇宙飛行士はデヴィッド・ボウイの名曲「Space Oddity」のカバーをISS で熱唱、その様子を収録した宇宙初のミュージックビデオをYouTubeにアップしたところ世界中で話題となり、再生回数は2000万回を超えた。

「あの動画で宇宙と歌が合体した。かつてデヴィッド・ボウイは宇宙を想像して歌っていたけれど、ハドフィールド飛行士はマジで宇宙で歌ったんです。デヴィッド・ボウイはそれにすごく感激して、YouTubeで公開することを許可しましたよね」(矢野さん)

矢野さんは「人を楽しませるのは大切で、簡単ではない」という。一生懸命にいいものを作るのは当然だけど、それだけで人が来るわけではない。「入り口はなんでもいいんです。例えば私の場合はCDのジャケットデザインだったり、ライブで着る洋服だったり、(友人の)清水ミチコさんのツイッターだったり。 色んな入り口から入って私の音楽にふれて『こういう世界があったんだ』と気づいてもらえる」。それに比べて、宇宙はまだまだ間口が狭い。

宇宙で地球を見上げて、感謝したい

「ISSで地球を見上げて感謝したい。そして音楽を作りたい」矢野さんがこんな風に地球を見上げて作った音楽を、是非聴きたい。(提供:NASA)

だからこそ、宇宙にはもっともっと芸術家を送るべき、と矢野さんは考える。音楽やアートを入り口にすれば、より多くの人たちに宇宙に興味を持ってもらえるだろう。

宇宙に行けるといいですね、と矢野さんにというと「本当に行ってみたい。ただ単に、大気圏の外から地球を見て感謝したい」という答えが返ってきた。

矢野さんのお祖父様はクリスチャンで、宇宙に対する畏敬の念は小さい頃から育まれていたそうだ。そして宇宙に親しむきっかけは、白内障の手術を受けたこと。それまで目が悪く月が4個ぐらいにダブって見えていたのが、急にクリアになった。

「ワーッという感じです。宇宙が急に身近になって、『わ、あれが木星じゃん』と」。本で調べるようになり、木星が太陽系全体の重力に大きな影響力を持っていることを知る。「すごいんだ、この人(木星のこと)」。それなのに、木星の分厚い雲の下を誰も見たことがない。「すごくそそられます」。木星のことを話す矢野さんは嬉しそうだ。

油井画伯が描いた「おおいぬ座」。油井飛行士のキュートな絵は凄く親近感を感じさせ、宇宙に関心のない人をも引き寄せる入り口になりそう。11月17日(土)22時から矢野顕子さんと油井飛行士がNHKEテレ「SWITCHインタビュー達人達」で対談。必見です!(提供:JAXA 油井飛行士のツイッターより)

宇宙をどんどん調べるにつれ、地球がどう創造され、月はどう作られたのか?など矢野さんの興味が尽きることはない。そして地球の大気圏内の物質循環の見事さ。光合成や水循環システムを知ると「ありがとう」という感謝の念がわいてくるという。この絶妙な調和のとれた地球に、なぜ人間が作られたのか。「それを知ることは『どう生きるか』につながってくると思います」。地球に生を受けたからにはちゃんと生きなくては。矢野さんの言葉に背筋がピンとなる。

「いつかISSで地球を見上げて、音楽を作ってみたい」と矢野さんは夜空を見上げる。その音楽を是非、聴いてみたい。いつかISSと地球と結んだ「矢野顕子ライブ」が実現しますように。

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