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星空の散歩道

国立天文台 副台長 渡部潤一 Junichi Watanabe国立天文台 副台長 渡部潤一 Junichi Watanabe

 Vol.111

ケンタウルス座プロキシマ星に惑星発見?

今年8月、驚くべきニュースが流れた。太陽系に最も近い恒星系、ケンタウルス座アルファ星系をなす恒星の一つ、ケンタウルス座プロキシマ星に惑星が発見されたというのである。しかも、その惑星は地球型の可能性が高い上に、ハビタブル・ゾーンにある。つまり、その表面には海がある可能性が高く、生命発生に適切な環境かもしれないというのだ。プロキシマ星がケンタウルス座アルファ星の伴星と指摘されたのが1915年。それから100年を過ぎての大ニュースである。

ケンタウルス座アルファ星は、日本からはいささか見えにくい南天の一等星である。沖縄などでは見ることができるが、望遠鏡で眺めると約0等級のA星と、それよりやや暗いB星との連星であるがわかる。このふたつの星の平均距離は土星と太陽の距離程度の11天文単位ほどで、周期80年で公転している。ところがプロキシマ星は、その二つからずっと遠方にある。その距離は15000天文単位で、A星B星のまわりを50万年から100万年の周期で公転しているとされている。こうなると連星というよりも、単独星といってもよいようなものだが、どうも空間運動から見て、やはり連星となっているらしい。そして、太陽系からの距離はと言うと、A星B星は4.4光年であるのに対して、プロキシマ星は4.24光年とわずかに近い。したがって、我々に最も近い恒星ということになる。

プロキシマ星そのものは、太陽に比べて小さく、表面温度も低い。見かけの明るさも11等級と肉眼では見ることはできない。スペクトル型でいうとM型で、直径は太陽の約7分の1、表面温度は3000度ほどである。そのため、この恒星の周りを回る惑星で、表面に液体の水が存在する可能性のある領域、いわゆるハビタブルゾーンは、ずっと恒星に近い場所になる。今回、発見された惑星(プロキシマ星b)も星からわずか0.05天文単位、つまり約750万kmという至近距離を、たった11.2日という周期で公転しているという。まさにこの星のハビタブルゾーン内なのである。また、今回の発見は、プロキシマ星が惑星の公転運動で揺れ動いている様子を観測する、いわゆるドップラー法という方法で成し遂げられたもので、惑星の質量は下限値しか求められないが、それも地球の1.3倍と地球型惑星である可能性は高いのである。

ハッブル望遠鏡が捉えたケンタウルス座プロキシマ星。(提供:ESA/Hubble & NASA)

ただ、海を持つ「第二の地球」であっても、地球そのものとはかなり性質が異なることが考えられる。これだけ恒星に近い惑星だと、恒星からの影響が強すぎるからだ。そのため、この惑星は自転と公転の周期が一致し、同期している可能性が高い。地球の周りの月のような状態である。すると、恒星側の半球は暖かく、夜側は常に寒くなる。大気があれば、その差は少なくなるが、昼側半球と夜側半球の中間領域、つまり常に明け方か夕方の状況のような場所が、生命にとってはよさそうである。宇宙から見ると、半分は凍っていて、昼側には海がある様子が、まるで目のように見えるだろうというので、こうした地球型惑星を「アイボール・アース」と呼ぶこともある。果たして、プロキシマ星bは「アイボール・アース」なのだろうか。一方、生命にとって過酷な環境も予想される。というのも、プロキシマ星そのものが、くじら座UV型閃光星という特殊な変光星なのだ。このタイプの恒星は、太陽に比べてもきわめて桁違いの大規模なフレアを発生させ、星の明るさが何倍にもなるだけでなく、太陽の数百倍もの強力な紫外線やX線を発するのである。これらは恒星に近い惑星であるプロキシマ星bの表面に生命が発生しているとすると致命的な影響を及ぼすことにもなりうる。

いずれにしろ、われわれに最も近い恒星が、このような地球型惑星をハビタブルゾーン内に持っているという事実は、第二の地球がそれほど希ではないということを示している。かつて、太陽型の恒星の周囲の地球型惑星だけが注目されていたのだが、考えてみると太陽よりも小さな、プロキシマ星のような恒星の方が圧倒的に数は多い。そういった恒星の周囲に地球型惑星が、このようなペースで発見されていくとすれば、第二の惑星の個数は、これまで考えていたよりもきわめて多くなるはずだ。もし、「アイボール・アース」に生命が発生し、進化し、文明を持つケースがあるとすれば、彼らから地球を見ると「あんな熱い恒星のまわりで、くるくると365回も自転するような不安定な惑星の上には、知的生命は生まれようがないはず」と思っているのかもしれない。いずれにしろ、生命が発生しているとすれば「アイボール・アース」の方が圧倒的に多いはずである。プロキシマ星の惑星発見は、われわれの概念を大きく変えるきっかけになりそうである。