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星空の散歩道

国立天文台 副台長 渡部潤一 Junichi Watanabe国立天文台 副台長 渡部潤一 Junichi Watanabe

 Vol.135

秋の夜空に小さな三角形を探してみよう

星をつないで星座ができているのはご存じだろう。しかし、星座よりももっと広い範囲で、一等星などの目立つ星をむすびつけて星空の目印にする場合は、圧倒的に三角形である。季節の星空のランドマークである、冬の大三角、夏の大三角、そして春には大曲線の他に、春の大三角がある。唯一、一等星の少ない秋だけが、ランドマークがペガスス座を中心とした四角形で、秋の四辺形と呼ばれる。

だが、この秋の星座にも三角形はいくらでも作れるし、実際、小さな三角形と見立てられていた星座がある。その名もずばり、さんかく座である。さんかく座は、まずともかく小さい。面積は約132平方度である。88星座中、78位の小さな星座なのだ。さらに構成する星がみな暗い。かなり細長い二等辺三角形で、その頂点のα星は3.4等で、底辺のふたつが3等星と4等星なので、夜空の明るい都市部ではなかなか探しにくい。したがって、天文ファンでなければ、眺めた経験が無いのでは無いかと思う。それでも、周囲にも明るい恒星はないので、一度見つけてしまうと形も整っているので気づきやすい星座といえる。そのため、ギリシア時代から存在している歴史のある星座の一つで、すでにプトレマイオス(トレミー)がまとめた48星座のひとつである。かつてはナイル川の三角州として、ナイルのデルタなどとも呼ばれていた。

2018年9月中旬頃の東京の星空。(提供:国立天文台)

さて、秋の夜長、ぜひさんかく座を探してみてほしい。まずは中天にのぼってくる秋の四辺形を探そう。その四辺形の北側の二つの星(つまり、南を向いて上側の二つの星)を結ぶ。その線の長さを覚えて、1.5倍ほど東へ伸ばして見る。すると、そこにはさんかく座のとがった頂点に光るα星がみつかるだろう。この星がわかれば、そのさらに東側(左側)に二つの底辺をなす星が見つかるはずだ。

ところで、小さく、暗い星座なので双眼鏡を向けてみるのがお勧めだ。三角形の星たちははっきり見えると思うのだが、それよりも三角形の頂点のα星から、やや四辺形の方向に視野を移してみると、そこには小さな雲のような天体が見えるはずだ。さんかく座銀河M33である。渦巻き銀河で、ちょうどわれわれは円盤部分を真上から眺める形になっているので、丸く見える。つまり、回転軸方向から見る位置関係にあり、典型的な「フェイスオン銀河」である。 全体の明るさが6等なので、本当に夜空の暗い場所であれば肉眼でも見えるかもしれない。M33は、銀河系(天の川銀河)、アンドロメダ大銀河M31とともに、局部銀河群という50個ほどの銀河のグループメンバーの中でナンバー3である。われわれからの距離は約300万光年ほどと、アンドロメダ大銀河よりも遠い。もし、この天体が肉眼で見えたなら、それは肉眼で見える宇宙の最遠記録を更新したことになる。ちなみに、近くにアンドロメダ大銀河もあるので、ついでに眺めて見て欲しい。

すばる望遠鏡が捉えた渦巻銀河M33。(提供:国立天文台)

ところで、さんかく座以外にも三角の名前をもつ星座がある。みなみのさんかく座である。この星座も小さくて、暗い。面積は約110平方度と、88星座中83位で、さんかく座よりも狭い。こちらは、北天のさんかく座よりもいささか明るく、2等星と二つの3等星からなる。しかも、かなり正三角形に近い配列となっている。なにしろ、天の南極に近いので、南半球でないと見ることができない。しかも作られたのは大航海時代の中期以降、16世紀から17世紀にかけてで、かなり新しい星座である。もし、南半球に旅行に行く機会があって、夜空を眺めるチャンスに恵まれたら、南十字星と共に南のさんかく座を探してみてほしい。南半球では一般に明るい星が多いのだが、みなみのさんかく座は南十字星からケンタウルス座の二つの一等星に続く、天の川のほとりにあるので、探しやすいだろう。