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星空の散歩道

国立天文台 副台長 渡部潤一 Junichi Watanabe国立天文台 副台長 渡部潤一 Junichi Watanabe

 vol.93

春の皆既月食を眺めよう

昨年に引き続き、2015年の最大の天体ショーは4月4日の皆既月食である。月食は太陽-地球-月が直線上に並び、月が地球の影(本影)に入り込んで、満月の一部または全部が欠けたように見える現象である。月が地球の本影をかすめる場合は、月の一部のみが欠ける部分月食だけであるが、月全体が地球の本影にすっぽりと入り込むと、満月全体が暗くなる皆既月食になる。今回は後者のケースだが、前回の10月8日のケース(vol.87/「皆既月食を観察しよう」)と異なり、この皆既の時間が短いことが特徴である。

皆既月食の長さは、月が地球の本影の中心に近いところを通過するか、それとも遠いところを通過するかの違いで決まる。本影の中心を貫けば、それだけ月が影を通過する時間が長くなり、皆既の時間も長くなる。一方、本影に入り込んだとしても、中心から遠く、つまり本影の端の方を通過する場合には、皆既の長さも短くなるのである。昨年10月の皆既月食では、前者のケースに相当し、皆既月食の始まりから終わるまで、ちょうど一時間であった。ところが、今回は皆既の開始は20時54分、終了が21時06分。ちょうど21時を挟んで前後6分、つまり都合12分間しか続かない実に短い皆既月食になるのである。

ただ短いのは皆既の時間に限られる。地球の本影に一部がかかっている状態、つまり部分月食の時間はそれほど変わらない。昨年10月の場合、部分食の開始は18時15分、そして部分食の終わりが21時35分、つまり月食としては3時間20分の長丁場であったが、今回は部分食の開始は19時15分、終わりが22時45分、つまり月食としては前回より10分ほど長く、3時間30分の天体ショーとなる。

今回の皆既月食の経過。(東京)(提供:国立天文台)

ところで、どうして今回の皆既月食では、皆既の時間が短いのに、部分食全体は長く続くのか、疑問に思う人もいるだろう。実は、月は地球の周りを楕円軌道を描いているために、地球から遠い時と近いときがある。遠いと地球の影も小さくなり、近ければ大きくなる。一方、月は地球に近ければ、その公転速度は速く、遠い時には遅くなる。その効果はほぼ相殺されるものの、公転速度の影響の方がいささか大きくなる。昨年10月の皆既月食の時には、その距離は36万kmほどと、地球に非常に近かった。そのために、地球の影の中心付近を通り、なおかつ影が大きかったにもかかわらず、通り過ぎる時間は短かった。一方、今回は40万kmとかなり遠い状態での皆既月食となる。そのために、本影が小さく、その中心を通らない割には、公転速度が遅い分、部分食の継続時間が長くなるのである。

そういった意味では、皆既食の時間が短いこと以外には、観察条件は前回とほぼ変わらない。皆既月食のすべての過程が観察できるのはもちろんだが、部分食を含めてすべての開始時刻には、日本全国どこでも月がすでに東の地平線から上っている。また、月の出直後の現象で、時間帯的にも子供たちに観察しやすい天体ショーであることもよく似ている。さらには、前回は水曜日という平日の宵の現象であったが、今回4月4日は土曜日にあたることは大きい。平日だとどうしても、夕方の時間帯に忙しい方も多いと思うが、土曜日が休みあるいは半ドンの方には、かなり有利だろう。もしかすると、季節柄、満開の桜の下で皆既月食を眺める、というような粋なことができるかもしれない。4月4日の夜の花見は、東側が開けたところにするとよいだろう。

国立天文台では、今回も皆既月食について解説をすると共に、観察の仕方やスケッチ用紙などを掲載し、観察キャンペーンを行う予定なので、ぜひ皆既月食の色に注意して観察してほしい。