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星空の散歩道

国立天文台 副台長 渡部潤一 Junichi Watanabe国立天文台 副台長 渡部潤一 Junichi Watanabe

 vol.92

金星と火星の大接近を眺めよう

最近、夕方の西空に輝く宵の明星・金星が美しい。もともと影ができるほどの明るさなので目につきやすい上に、この季節は晴れれば低空まで透明度が良いことも多く、その輝きはさらに増している気がする。そんな金星には、しばしば月や惑星が近づいて、並んで輝くことがあるが、そのタイミングを逃さずに眺めるのも楽しみのひとつである。1月中旬には、水星が近づき、しばらく金星と並んで輝いていた。水星は単独ではなかなか見つけ出すのが難しい惑星なので、金星を目印にはじめて眺めた人も多かったようだ。そういった意味では、金星と惑星の接近は、ふだん何気なしに眺めている明るい惑星を”同定する”(いったい何の惑星かを知る)良い機会かも知れない。

さて、この2月に金星に近づくのは火星である。2月22日白昼に火星が金星に大接近する。その接近距離は約15分角。満月の直径の半分ほどである。火星は金星のマイナス4等の輝きに比べればかなり暗いのだが、それでも明るさは1.3等なので一等星並である。日没後の夕空で透明度さえ良ければ、肉眼で並んだ様子を眺めることができるはずだ。

今回は、それだけではない。ちょうど接近中の頃合いに、この天体ショーに月が仲間入りするからである。月は19日に新月を迎え、20日には月齢1.4の極めて細い月として、金星と火星のずっと下方、地平線よりに現われる。翌日21日には月齢2.4の三日月となって、金星と火星の上に寄り添うように輝くのである。金星と火星が最も接近するのは、22日の夕刻で、最接近後、少し離れて行きつつあるために、その距離は25分角となってしまうが、21日でも火星と金星の距離は約35分角まで近づいているので、接近して輝く迫力はそれほど変わらない。むしろ22日には、月はずっと空高くに動いてしまうために、21日夕方の方が、三日月が近くにある分、その美しさは秀でているはずである。

2015年2月21日の夕刻、西の地平線に並ぶ、金星、火星、月齢2.4の三日月。
(19時00分、東京、アストロアーツ社ステラナビゲータで筆者作成)

火星と金星の接近そのものは、それほど珍しいことではない。ほぼ2年に一度は接近するのだが、これだけの大接近になるとそうそうあるものではない。直近では2013年4月7日に、同じような距離まで接近したが、残念ながら太陽に近かったために、その姿を眺めることはできなかった。前回、肉眼で眺めることができたのは2011年5月23日の明け方のことだった。

ただ、実は今年は珍しく、もう一回、火星と金星の接近を眺めることができる年である。現在、宵の明星として輝いている金星は、8月16日に内合、すなわち太陽と地球の間を通過して、それ以降は明け方の東の空に明けの明星として輝くようになる。東の地平線で、急激に高度を上げた金星は、9月に火星を追い抜いていく。このときには、かなり離れているので、それほど見応えはない。しかし、その後、金星がそのスピードを落とした10月末頃になると、東から徐々に木星と火星が近づいてくる。ちょうど11月4日の明け方に、火星が今回と同じ程度、40分角ほどまでに接近するのが観察できるのである。ただ、このときは木星は遠ざかっているので、むしろ10月末の木星、金星、火星が集まっている頃の方が見栄えがするかもしれない。ここに月が加わってくるのは11月7日頃で、木星、月齢24.7の月、火星、金星とほぼ縦に並ぶはずである。こちらの明け方の天体ショーも、楽しみにしたいところである。