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星空の散歩道

国立天文台 副台長 渡部潤一 Junichi Watanabe国立天文台 副台長 渡部潤一 Junichi Watanabe

 vol.91

木星の衛星の相互食を眺めよう

このところ、とても珍しい天文現象が起きている。木星の衛星の相互食というものだ。肉眼では見ることができないが、小さな天体望遠鏡があれば観察できるので、取り上げてみたい。

木星のまわりには、現在軌道が確定している小さなものも含めると60を超える衛星がある。そのうちの4つは、とても大きく、明るいために、小さな天体望遠鏡で見ることができる。今から約400年前に、これらの衛星を発見したのが、イタリアの天文学者ガリレオ・ガリレイだ。そのために、この四つの衛星はガリレオ衛星と呼ばれている。ガリレオ衛星は、木星に近い順番にイオ、エウロパ、ガニメデ、カリストと命名されている。なかでも最大の衛星であるガニメデは、なんと惑星の水星よりも大きな天体である。イオやカリストも地球の衛星である月よりも大きい。最も小さなエウロパでも、直径は3000kmほどもある巨大な天体である

さすがに距離は遠いために、これだけ大きいとはいっても地球から望遠鏡で表面の様子を眺めることはできない。しかし、太陽の光を反射して、恒星のように点像として明るく輝やく様子は、小さな天体望遠鏡で簡単に眺めることができるのである。特に観察すると面白いのは、衛星たちが毎日、その位置を変えていく様子である。一晩のうちでも時間をおいて見ると、どんどん動いていくのがわかる。なにしろ、内側の衛星イオの公転周期は、わずか1.8日。つまり、木星の東側に光っていたイオが、翌日には木星の西側に移動しているわけである。

こうした動きを観察するだけでも面白いが、実は、それ以上に面白い現象が、いま起きている。それがガリレオ衛星の相互食である。

現在、木星の衛星の軌道面は、木星そのものが太陽をめぐる公転軌道面とほぼ一致している。そのために、同じ軌道平面を動く衛星の影に別の衛星が入り込んだり、あるいは地球から見て衛星同士が重なって、かくれんぼしたりしている。衛星にとっては、いわば日食や月食が起こるようなものである。こういった現象をガリレオ衛星の相互食と呼ぶ。相互食が起きるのは6年に一度で、今回は昨年8月から2015年8月にかけて断続的に見られている。木星が地球から見て太陽と反対側に位置する、「衝」の場所にやってくるのが2015年2月7日なので、これから7月頃に木星が夕方の西空に傾いて見えなくなるまでが、夕方の時間帯、これらの相互食を眺めるチャンスといえるだろう。相互食が起こる予報時刻に、天体望遠鏡で観察していると、食が起こる時刻になると、衛星の明るさが徐々に変化していくのがわかるはずだ。

  • 2月11日19時30分のガリレオ衛星の様子。
  • 2月11日20時のガリレオ衛星の様子。
  • 2月11日20時30分のガリレオ衛星の様子。
2月11日19時30分、20時、20時30分のガリレオ衛星の様子。イオとエウロパが入れ替わっていて、ガニメデがカリストと近づいているのがわかる。(アストロアーツ社ステラナビゲータV9で著者作成)

日本で観察できる相互食の予報は、インターネットの天文関係のサイトにも掲載されている(例えば、アストロアーツの天文現象カレンダー:下記参照)が、ここでもいくつかピックアップしておこう。1月には25日午前03時48分にイオがカリストの影に入り込み、1.7等も暗くなる。継続時間は14分ほどだ。ちょうど日曜日の朝なので、明け方ではあるが観察しやすい。2月になると、夕方に見やすい相互食が起こる。2月9日19時34分には、ガニメデがエウロパを隠してしまう。継続時間は6分ほど。あっという間の現象である。建国記念日の2月11日には、20時08分にイオがエウロパの影に(継続時間8分)、22時25分にはガニメデがカリストの影に(継続時間26分)入り込む。それぞれ1等ほど暗くなるのが立て続けに見られるダブル相互食である。2月18日には、イオとエウロパのダブル相互食が起こる。22時02分にイオがエウロパに隠され(継続時間7分弱)、22時31分にはエウロパの影に入りこむ(継続時間8分)。前者は0.6等ほどしか減光しないが、後者では1.2等級ほど減光するので、よくわかるだろう。

天体望遠鏡がないと観察できない現象だが、もし持っている人がいたら、ぜひ引っ張り出して眺めてみよう。