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ビジネスコラム

蟹江憲史氏未来のために自分ができることを楽しみながら。

2023年2月公開【全4回】

第1回 カーボンニュートラルのおさらい

──SDGsや環境問題の第一人者として、政府のさまざまな活動にも参画されている蟹江教授。
そもそも、どのようなきっかけで「地球環境」という問題に取り組もうと思われたのでしょうか?

 博士課程の修了を控えた1990年代後半。当時、政策・メディア研究科で国際関係の政策を専門に研究していた私は、論文のテーマに京都議定書におけるオランダのリーダーシップを選びました。京都議定書といえば、1997年に京都で採択された気候変動の国際的な取り組みを定めた条約です。それまで環境問題について、それほど真剣に考えることはなかったのですが、環境破壊や気候変動が国際的な課題になる中、これは専門的に取り組むべきテーマなのではないかと。取り組み始めると、京都議定書は2012年までの方針は決めたものの、その後については未定のままでした。結果的に、その先をどうするのかという議論にも貢献することが出来ました。以来、大学で教壇に立つ傍ら、環境省、経産省、外務省などにおける気候変動を中心とした政策論にかかわらせていただいています。

──国内のみならず、海外でも環境問題の専門家としてご活躍されていますね。

 国連では4年に一度、グローバルな視点での持続可能な開発報告書『GSDR』をまとめているのですが、世界から集められた15人の執筆者の一人に選ばれたタイミングで、1年ほどアメリカに滞在していました。

サステナビリティといえば今や持続可能な開発目標の『SDGs』が世界的なキーワードとなっていますが、日本におけるSDGsの知名度や認知度は他国に比べて群を抜いています。先日もニューヨークタイムズの記事に「こんなにも多くの人がSDGsのバッヂを胸に付けている国は他にない」と書かれていたほどです。それは素晴らしいことなのですが、その一方で私が懸念しているのはSDGsを達成するためにどのような活動や行動が必要なのか──その理解度が低いのではないかということ。「最近よく聞く言葉だけれど中身はよくわからない」という人が多いように感じるのです。ただし、知っているということは理解への第一歩として大事なことですから、それが日本でSDGsが加速する突破口になると信じています。

──そのSDGsは、2030年にゴールを定めています。そこから逆算したときに、現状の進捗具合をどのように見ていますか?

 世界各地で問題になっている気候変動、新型コロナウイルスによるパンデミック、そして、ロシアとウクライナの戦争。この3つのインパクトが非常に大きく、進捗を困難にしていると言わざるを得ません。SDGsで掲げられている17のゴール、169のターゲットを達成するには社会を大きく変えるトランスフォーメーションが重要なテーマにもかかわらず、前述の問題により社会は停滞してしまっています。たとえば戦争でエネルギー価格が高騰する中、コストだけを見れば石炭火力はとても効率的です。しかしそれでは、改善すべき環境問題において将来の課題を増やすことになってしまう。SDGsの目標を見ても、全体の8割程度は気候変動対策に関係しているものです。それほど、環境問題は世界中が強い危機感を持って取り組むべき課題なのです。

──そうした地球環境に大きな影響を及ぼしていると考えられているのが、私たち人間が排出している温室効果ガス。それをゼロにする「カーボンニュートラル」という概念が注目され世界中で推進されています。あらためて、このカーボンニュートラルについてご説明いただけますでしょうか。

 カーボンニュートラルとは温室効果ガスの元となる炭素(カーボン)をゼロにしていく取り組みです。では、なぜ「ゼロ」でななく「ニュートラル」と表現するのか。それは、排出した炭素を何らかの方法で吸収し、実質的にプラスマイナスでゼロにすればいいという考え方だからです。たとえば、温室効果ガスの排出を避けられないのであれば、それを吸収するために樹を植えるといった取り組みが代表的です。また、カーボンニュートラルは地球規模の課題ですので、自国でゼロにできないのであれば他国に協力してもらい実質的にゼロにするといった取引も行なわれています。とはいえ、地球全体で推進するための仕組みはまだ確立されておらず、まだまだ改善の余地は残されています。

──強い危機感を持って取り組むべきという環境問題。現状がどれだけ危機的な状況なのか、一般に浸透していないことも課題のひとつといえるのではないでしょうか。

 その通りです。私が環境問題に取り組み始めた2000年ごろは「環境問題への対策は気候変動の影響が見えてからでは遅い」といわれていました。そうなる前に温室効果ガスを削減しなければいけないといわれていたのです。現状はどうでしょう。残念ながら目に見えてその影響が表れています。また、当時は「2050年までに温室効果ガスを60~80%削減すればいい」ともいわれていました。ところが今はカーボンニュートラル──つまりゼロにしなければいけないというところまできています。未来のために私たちは今どうするべきか。私なりの考えを、次回以降お話しさせていただきたいと思います。

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