Factory Automation

ビジネスコラム

蟹江憲史氏未来のために自分ができることを楽しみながら。

2023年2月公開【全4回】

第2回 持続可能なモノづくりを目指して

地球の環境問題は私たちが考えている以上に深刻な問題──そう警鐘を鳴らす蟹江教授。あらゆる企業にカーボンニュートラルをはじめとする環境への配慮が求められる中、どのような意識でそれらと向き合い、どのようにアクションを起こすべきなのか。その指針を示していただきます。

──環境問題への危機感が浸透しない理由には、どのような理由が考えられるでしょう。

 京都議定書、パリ協定、SDGsという世界的な取り組みの中で、一般の人々の意識も確実に変わってきてはいると思います。温室効果ガスが地球環境に悪影響を及ぼすという概念も浸透しているでしょう。しかし、それらを科学的に断言するのはなかなか難しい、というのが現実なのです。たとえば、世界各地を襲うさまざまな異常気象の一つ一つを取り上げて、それらが温室効果ガスによる気候変動によるものだ、と断言することは、因果関係が複雑に絡み合っているので難しいことです。もちろん、数々の科学的なデータから因果関係があることは、ほとんどの科学者が確信しています。しかし目の前の気象現象と気候変動の関係を示すのはなかなか難しい。ですから、たとえ科学的に断言できなくても「私は温室効果ガスの影響だと思う」と科学的バックグラウンドのある人間が発信するべきなのではないかと考えています。そうしなければ、なかなか危機感は伝わらないでしょう。

──あらゆる企業において、温室効果ガス削減=カーボンニュートラルへの対応が求められています。その第一歩として、どのような取り組みから始めればよいとお考えですか?

 まずは自社の温室効果ガス排出量を知ることから始めてはいかがでしょうか。サプライチェーン全体の温室効果ガス排出量を算定する『Scope』という概念があります。Scope1は燃料の燃焼や工業プロセスなど事業者自らによる温室効果ガスの直接的な排出量。Scope2は他社から供給された電機、熱、蒸気の使用にともなう間接的な排出量。そしてScope3が事業者の活動に関連するScope1、Scope2以外の排出量です。これらを明らかにすることで「温室効果ガス削減対象の特定」「従業員への削減意識の啓発」「他事業者との連携による削減」「情報開示よる企業イメージの向上」といったメリットを得ることができます。

上流から下流に至る「Scope」の考え方
※出典:環境省/経済産業省「グリーン・バリューチェーンプラットフォーム」
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/estimate.html別ウィンドウが開きます

──気候変動あるいは持続可能な社会の実現に向けて、注目すべき企業の取り組みがありましたらご紹介いただけますでしょうか。

 MacintoshやiPhoneでおなじみのアップルやスウェーデンの自動車メーカー・ボルボは、調達先に対して「何年後までに」という条件付きで100%再生可能なエネルギーの使用を求めています。自社内だけでなく、サプライチェーン全体で環境に配慮したビジネスを展開していこうという取り組みです。また、日本でもトヨタ自動車が2021年に『ウーブン・シティ』という興味深い実証都市の開発を試みることを発表しました。人、モノ、ロボット、自動車などがインターネットでつながり最適なサービスを提供するほか、カーボンニュートラルに貢献する住宅やCO2を排出しない乗り物など、自然や環境と調和した街づくりを目指すというのです。温室効果ガスの算定をサプライチェーン全体で行なうように、カーボンニュートラルや持続可能な社会を実現するための取り組みは部分最適ではなく全体最適を図ることが大切になるでしょう。

──モノづくりを担う製造業の世界においても、持続可能なビジネスを実現するには全体最適を図ることが重要になりそうですね。

 よいモノを作ることはもちろん、製品のライフサイクル全体で最適化を図ることが大切になるのではないでしょうか。材料を調達する、作る、運ぶ、売る、リサイクルするといった全体のプロセスを俯瞰(ふかん)することで、変えるべきところが浮き彫りになると思います。たとえば、素材自体をライフサイクルの長いものに変更したり、なるべくリサイクルできる材料を選んだり。また、リサイクルしやすいよう簡単に分解できる設計にするといった “終わりから始まりを考える発想” も
イノベーションのきっかけになるはずです。

──実際にカーボンニュートラルやSDGsに取り組む企業を見てこられて、どのような印象をお持ちですか?

 そうした取り組みにいち早く舵を切った企業ほど将来の成功を真剣に考えているという印象です。アップルやボルボが調達先に100%再生可能なエネルギーの使用を求めているように、環境に配慮した取り組みは今後ますます評価されるでしょう。ある企業は、サステナブルな製品を開発したことで取引先の幅が広がったといいます。単価は上がったものの、それでもほしいという会社が増えているとのこと。また、人材採用の面でも「志の高い人の応募が増えた」という声をよく耳にします。曖昧な志望動機ではなく「こういう取り組みをしている会社で働きたい」という人が増えたというのです。多くの企業で人材難が叫ばれる中、これも企業にとっては非常に大きな収穫といえるでしょう。

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