Factory Automation

ビジネスコラム

蟹江憲史氏未来のために自分ができることを楽しみながら。

2023年2月公開【全4回】

第3回 コロナ禍で得られた気づきと学び

カーボンニュートラルやサステナビリティに配慮した取り組みは、環境問題だけでなくビジネスにも貢献する──前回の話題は、今後それらに取り組む企業にとって大きな勇気になったのではないでしょうか。さらに具体的なアドバイスとともに、コロナ禍がもたらした気づきと学びにもご注目ください。

──日本の製造業がサステナブルな発展を遂げていくために、業界全体でどのような取り組みが必要とお考えですか?

 グローバルな市場を見据えながら、世界の標準と足並みをそろえていくことではないでしょうか。財務だけでなく環境、社会、ガバナンスの視点を投資判断に組み込むESG投資への注目が高まる中、「サプライチェーンにおいて不法労働のある調達先は認めない」「そのような業者には投資しない」といった対応がすでにヨーロッパでは進んでいます。アメリカでもそのような動きが見られることから、3~5年後には確実に世界中でこうした考え方が標準になっているはずです。もしも、その流れに乗り遅れてしまったら、日本は世界の市場からつま弾きにされてしまうでしょう。とくに気候変動を巡る取り組みや規制には注意を払う必要があります。こうした国際的な標準化はグローバルに展開する大企業だけの問題ではありません。大企業がサプライチェーン全体にサステナビリティを求めるようになれば、対応していない中小企業には仕事が回ってこないばかりか、銀行からの貸し付けにも影響がでてくるはずです。あらゆる企業が、サステナブルな取り組みを自分ゴトとして考える必要があるのです。

──企業がカーボンニュートラルやサステナブルな取り組みを推進するうえで、経営層はどのようなことを心がけるべきでしょうか。

 ひとつは、若い人の声に耳を傾けるということです。私は2018年、慶応義塾大学で『xSDGコンソーシアム』を立ち上げました。SDGsの目標達成に向けた事例の創出と発信を目的としており、約30の企業や自治体が参加しています。ここでよく寄せられるのが「学生の意見を聞かせてほしい」という声。自分たちでは思いもよらないようなアイデアに期待されているのです。慶応の小学生から大学生まで集まって議論したサマーキャンプではこんな一幕がありました。みんなで世界の貧困問題について議論しているときに、ある小学生が「日本で海外の貧困問題を考えるより、困っている国にキャンパスを作ったらいいのではないですか?」と発言したのです。大人はつい「できる」「できない」を基準に物事を考えてしまいます。そうした常識にとらわれない発想は若い人の武器ですから、役職や社歴を問わずざっくばらんに議論できる場を設けてはいかがでしょうか。20年後、30年後は、今の若い人たちの時代です。彼らの声に耳を傾けることは、未来を考えることにもつながるはずです。

──蟹江教授が若者に未来を託されるように、これからの製造業にはどのような期待を寄せられていますか?

 日本のモノづくりは非常に丁寧で、他の国ではできないような製品がたくさんあると思います。その技術力を、ぜひともカーボンニュートラルの実現やSDGsの達成に活かしていただきたい。日本もかつては温室効果ガスなど気にせず、とにかく“いいモノ”を作ることにまい進してきました。その品質を落とさずにサステナブルなモノづくりを実現することが必ずできると信じています。たとえばクルマも電気自動車が主流になると、従来のガソリン車に使われていた部品が不要となり、その製造工場は仕事を失います。しかし、ガソリン車の部品で培った技術はきっと他の分野に応用できるはずです。SDGsが目標とするゴールまで、まだ7年あります。それまでにサステナブルなモノづくりへと素早くシフトし、日本のモノづくりをさらに発展させていただきたいと思います。

──第1回でパンデミックをSDGsの達成を妨げる要因のひとつに挙げられていましたが、あらためてこのコロナ禍をどのように捉えていますか?

 みなさんもご存知の通り、コロナ禍によりひと頃は社会のあらゆるものが止まってしまいました。学校に行けない、イベントが開催できない、海外から品物が入ってこない──。結果、見えてきたのは「これまでの社会は持続可能ではなかった」ということです。そこで持続可能な社会にしなければいけないと気づいた私たちは、新しい働き方や新しい人とのコミュニケーションのあり方を学びました。DXの必要性についても、コロナ禍によって浮き彫りになったといって過言ではないでしょう。また、SDGsに照らし合わせて考えると、17のリストは、裏を返せば今回のコロナ禍のように世界の動きを止めてしまうリスクの裏返しであるといえるかもしれません。エネルギーの枯渇、気候変動による自然災害、貧困の拡大…それらが起きてしまっても持続できる世界にしなければならないと、多くの人が痛感したはずです。パンデミックは多くの人に苦しみと悲しみを与えましたが、サステナビリティの大切さを再認識させられる機会になったのではないでしょうか。そして、これを機にSDGsへの理解が深まることを期待しています。

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