Factory Automation

ビジネスコラム

蟹江憲史氏未来のために自分ができることを楽しみながら。

2023年2月公開【全4回】

第4回 一人の持つ力は決して小さくない

コロナ禍により露呈した持続不可能な世界。それを教訓に、私たちはこれからの社会を、その先の未来を変えていかなければいけません。最終回は、そのために一人ひとりができることを専門家の視点で進言していただきます。モノづくりに携わる読者の方々へのメッセージにも、どうぞご期待ください。

──カーボンニュートラルやSDGsのためにできることをさまざまな角度から伺ってきました。視点を「個人」に移したときに、私たち一人ひとりにできることを具体的にアドバイスしていただけますでしょうか。

 SDGsを眺めていると、ふと「便利なツールだな」と思わされます。17通りもあれば、ひとつくらいは自分に興味や関心のある項目があるからです。「環境問題に対して危機感はあるけれど何をすればいいかわからない」という人は、ぜひSDGsを起点に考えてみてはいかがでしょうか。エネルギー問題に関心があるならば、こまめに照明を消す、LED照明に変える、トイレの暖房便座のフタを忘れずに閉めるといった小さな積み重ねで、SDGsの目標達成に貢献できるばかりか電気代の節約にもつながります。また、海が好きな人であれば、プラスチックゴミによる海洋汚染問題に貢献するためペットボトルをやめてマイボトルを持ち歩くのもいいと思います。2日に1回そうするだけで半減することになるので、毎日ペットボトル買っていた人なら年間で100本以上も削減することができます。楽しみながらできることを、無理のない範囲で少しでも長く続ける。ぜひ、未来にやさしいライフスタイルを習慣にしてください。

──「自分一人の力で世界は変わらない」と考えないようにしてほしいということですね。

 その通りです。ぜひ、自分が主役と思って取り組んでいただきたいですね。今は自分の考えていること、取り組んでいることをSNSや動画などで広く発信できる時代です。一人の持つ力は決して小さくありません。自分の行動がインフルエンサーの目に留まり、一気に拡散する可能性だってありますからね。ちなみに私は、洋服に少しだけこだわっています。あるとき「洋服はサステナブルじゃないな」と感じたんですね。大量に作られ、大量に捨てられていく──それ以来、洋服はオーダーメイドすることが多くなりました。生地には長持ちするサステナブルな素材を指定し、ボタンなどの小物には貝殻や再生プラスティックを選ぶ。私の身体に合わせて作るので端材も最小限に抑えられますし、何より愛着を持って長く着ることができます。こうして洋服を仕立てることはサステナビリティのためであると同時に、私自身のささやかな楽しみでもあります。どんなに小さな努力も楽しくなければ続きませんからね。

──蟹江教授のサステナブルな取り組みといえば『SDGsハウス』をマイホームとして建築されたことがメディアに取り上げられ、書籍化もされるなど話題になりました。

 新しいマンションに引っ越そうかと考えていたときに、仲のいい建築士と歩きながら「いいデベロッパー知りませんか?」と相談したんです。すると「蟹江さんはSDGsにかかわっているんだから、自分の家から実践すべきですよ!」と肩を叩かれまして。私は日ごろから「SDGsの利点はグローバルな課題や目標を身近に落とし込めることだ」といっていますが、さすがに自宅に落とし込むという発想はありませんでした。「じゃあ作ってみようか!」という運びになり、断熱材、太陽光発電などできることは可能な限り盛り込みました。柱などに使用する木材は三重県尾鷲の木が伐採される山にまで足を運んだほどです。そこで感じたのは、何十年もかけて育った樹をムダにしてはいけないということ。今回の建築を通じて、いろいろなことを学ばせていただきました。SDGsハウスはできあがって終わりではありません。今後は蓄電も検討していますし、まだこんなことができるのでは…というアイデアがいくつも湧いてきます(笑)。

設計段階の「SDGハウス」外観イメージ。SDGsの経済・社会・環境の三側面から建築デザインを検討した。
(画像提供:川島範久建築設計事務所)

──人との対話が発見と発展につながることを証明する素晴らしいエピソードですね。それでは最後に、モノづくりの世界で頑張る読者のみなさんに応援のメッセージをお願いいたします。

大量のエネルギーを消費する製造業は、どうしてもCO2の排出量が増えてしまいます。だからこそ、製造業がカーボンニュートラルに向けて取り組む効果と他の産業に及ぼす影響は計り知れません。そのためには生産現場の規模の大小を問わず、そこで働くすべての人の意識や価値観といったパラダイムを変えていく必要があります。経営者がどんなにSDGsを声高に叫んでも従業員が共感しなければ会社は変わりません。その逆もまた然りです。先ほども言いましたが、一人ひとりが「自分が主役」という意識を持って取り組む先に、製造業ひいては日本の明るい未来が拓けると信じています。製造業やモノづくりの現場は、日本が世界に誇る技術力の宝庫です。これからもその輝きが曇らぬよう、学びを怠らずモノづくりに精進してください。応援しています!

──カーボンニュートラル、SDGsといったワードを見聞きすると、私たちはつい「国がやること」「大企業がやること」と考えてしまいがちです。今回のインタビューは、環境問題が自分ゴトになるきっかけになったのではないでしょうか。それでも「地球のために何をすればいいのかわからない!」という方へ、蟹江教授直伝のヒントをお届けします。それは“ボーッとする時間を大切にする”ということ。目指す答えだけを頭に描き、肩の力を抜いてボーッと考える。すると雑念が取り払われ、求めていた答えが鮮明に浮かび上がるのだといいます。確かに机に向かって悶々もんもんと考え込んでいるときより、リラックスしているときほどいいアイデアが浮かぶもの。上手に肩の力を抜くことが、サステナブルな人生を楽しむ秘訣なのかも知れませんね。

※この記事は2022年9月のインタビューより書き起こしたものです。

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