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読む宇宙旅行

2011年8月 vol.02

巨大技術を使いこなす
−宇宙開発のノウハウをどう役立てる?

国際宇宙ステーション(ISS)について説明する長谷川氏。ISSでは特に人命に関わる危険がある部分については、2つ故障しても3つ目の機器が働く安全策をとっている。

国際宇宙ステーション(ISS)について説明する長谷川氏。ISSでは特に人命に関わる危険がある部分については、2つ故障しても3つ目の機器が働く安全策をとっている。

 3月11日に東日本大震災が起こって以来、心を痛めている方は多いに違いない。私もその一人。仕事や暮らしを見直しつつ「宇宙開発で得た技術やノウハウが原発の安全管理や復旧・復興に活かせるのでは」と思ったり、宇宙関係の方々と話したりもした。

 7月31日に東京で行われた「国際宇宙ステーション利用シンポジウム〜日本の復興・再生に向けて」は、そんな心のもやもやの一部を晴らしてくれた。少し時間が経ってしまったけれど、特に国際宇宙ステーションや新幹線、原子力発電所などの「巨大技術を運用する点で大事なこと」について得た新たな視点を伝えておきたい。

 

 紹介するのは第一部の内容だ。登壇者は日本航空機操縦士協会副会長で元JAL機長の小林宏之氏、新幹線や日本実験棟きぼう、潜水鑑船プロジェクトに関わった川崎重工業の服部晃氏、若田光一宇宙飛行士、JAXA理事の長谷川義幸氏、大同大学 学長の澤岡昭氏。巨大技術を作り、運用する立場の専門家ばかりだ。震災からどんな教訓を得、宇宙開発などで得たノウハウや方法論から「巨大技術をどう制御して未来に向かうか」が話し合われた。

 冒頭から小林氏は鋭い指摘。「自然災害の被害を大きくするのも小さくするのも人間。安全に対して日本は『あってはならない』から入る文化があり、これでは危機管理は進まない」。その後、沢岡氏の提案によって3つの論点から議論は進められた。

 

 まず「情報共有」。システムが巨大化するほど、細分化した個々の情報を全体で共有することが難しくなる。小林氏曰く「情報共有は生物に例えれば血液。血液が回らないと機能不全になる」と発言。(悪い情報は隠れたがるそうで要注意)。現場と本部が離れている場合は特に「安全の確保」と「不安の解消」の二つの面で重要だ。航空機では飛行中の航空機=現場はリアルタイムの情報を持っているが、地上のセンターは幅広い情報を持ち的確な指示ができる。「危機の際は100%を狙わず大事なもの以外は捨てるという判断が重要」。長年、人命を預かってきた元機長ならではの発言だ。

 若田飛行士も「情報『不』共有は不安を作る」と言う。不信感はすぐ言葉に表れる。地上管制チームは宇宙飛行士を気遣い、あえて宇宙に知らせない情報もあるが、それが疑心暗鬼を生む場合も。「宇宙飛行士は最初は地上チームも含めてWeと呼ぶのに、不信感を感じると宇宙側をWe、地上側をTheyと使い分け敵対関係になる」と。情報共有の難しさはどの国も抱えるが米国よりロシアのほうがストレートに問題を話し合う文化があるという。

 「なるほど」と思ったのが第2の論点「巨大技術の安全設計」だ。服部氏が強調したのは「安全は『設計』と『運用』の両段階で確立される。作った段階では100点でなく、運用で改善し設計に反映されて初めていいシステムになる」という発言。例えば新幹線は、脱線を防ぐ設計に加えて、緊急時には即座に車両を止めるシステム(運用)が働き、過去、地震等が起こっても大惨事に至っていない。また改善を加えた場合、運用マニュアルも必ず更新することが大事で、この更新作業がうまくいかず事故になる例もあるそう。

 若田飛行士は常々「運用が大事」と言っている。同じ車に乗っても乗り方を誤れば事故が起きるように、ロボットアーム操作でも監視カメラの位置や練られた操作手順、相棒との協調作業など「使い方=運用」が悪いとISSに穴をあける場合も。日本では「物づくり=技術」と見られがちだが、いい物を使っても運用で失敗すれば、人命に関わる点を重視する必要があるだろう。どれだけ危機を想定し人と物が協調するシナリオを描くか。長谷川氏は「人間が入って作業する『きぼう』の機器は、安全のために二つ故障しても3つ目が働く設計になっている。更にNASAからは不具合をすべて洗い出し、個々の不具合について対策を2つ用意して実証しろと指示された」という。例え航空機で実際に使っている部品でも容赦なし。また安全審査は予算の制約を受けない第三者機関が行うなど見習う点は多い。服部氏は今後の安全設計について「巨大技術ほど技術が細分化するので、全体を見渡し判断する人をどう育成するか」が鍵になると指摘。やはり最後に問われるのは「人」だ。

アポロ13号の危機を救ったNASAのフライトディレクター、ジーン・クランツの10箇条が第一部最後に示された。ふだんから心がければ、危機でも慌てることはない。

アポロ13号の危機を救ったNASAのフライトディレクター、ジーン・クランツの10箇条が第一部最後に示された。ふだんから心がければ、危機でも慌てることはない。

 ということで3つ目の論点は「危機の際のリーダーのあり方」。ISS船長に任命された若田飛行士の出番だ。危機を避けるには、まず起こりうる危機の内容とその原因を知ること。次に設計で危機を除去し、制御すること。その上で宇宙飛行士や地上の運用によって危機を制御するという3段階を示した。そしてリーダーシップやチームワークを鍛えるために冬山など極限環境で行う訓練を紹介。宇宙滞在では作業毎にリーダーを決めるから、船長であってもフォロワーになる。冬山登山で日々リーダーを交替し極限状態での判断力を徹底的に鍛えたと。また危機の際だけに役立つものはなく通常の訓練こそ大事という。「小学校で机の下にもぐる避難訓練が大事なんです」。そういえば真剣にやってなかった・・

 最後に若田飛行士が「失敗を隠さないことで信頼を得る」と言っていた。また進行役を務めたNHK室山哲也氏が「巨大技術を運用するには、一人一人が全体と部分を考えながら『レベルの高い人間』として関わること」と発言。使う側の人間の能力を高めないなら、巨大技術に手を出すなということ。これからは「運用」という点で様々な事故の背景を見ていくといいかもしれません。