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読む宇宙旅行

2011年10月 vol.01

古川聡宇宙飛行士、
日本人で「宇宙に連続して一番長くいる男」に。

米国の健康維持システムで使う視力検査表を手に。宇宙にいくと視力が衰える飛行士もいるらしいが古川飛行士は変化なしだという。(提供:JAXA/NASA)

米国の健康維持システムで使う視力検査表を手に。宇宙にいくと視力が衰える飛行士もいるらしいが古川飛行士は変化なしだという。(提供:JAXA/NASA)

 6月8日に国際宇宙ステーション(ISS)に向けて打ち上げられた古川聡宇宙飛行士。7月はスペースシャトルの最後の飛行を宇宙で迎え、8月末にはロシアの貨物船プログレスの打ち上げ失敗に直面するなど、滞在中に様々なできごとがあった。だがどんな時も笑顔を忘れず仕事熱心な彼の評価はNASAでも高い。古川飛行士の帰還は、飛行計画の見直しにより当初予定よりのびて11月22日に。宇宙滞在は168日となり、日本人連続宇宙滞在最長記録を達成する見込み。つまり「日本人で連続して宇宙に一番長くいた男」となるのだ!

 

 それぐらいのご褒美は当然だろう。なぜなら古川飛行士は「待ち続けた男」だから。宇宙飛行士候補者に選ばれてから宇宙に飛び立つまで12年間。同期の星出彰彦飛行士や山崎直子飛行士が次々に飛び立つのを見送り、ようやく出番が来たときは47歳。初飛行年齢としてはJAXA飛行士で最年長。耐えて待ち続けて、たどり着いた宇宙なのだ。

 それだけにトラブルに動じず「安定して仕事をこなすのは訓練の賜」と横山哲朗ISSプログラムマネージャーは絶賛する。では、実際の仕事ぶりはどうだったのか、「きぼう」日本実験棟の技術領域リーダーとして宇宙実験のとりまとめを行う、原田力さんに聞いてみた。

スペースシャトル最後の飛行で。(提供:JAXA/NASA)

スペースシャトル最後の飛行で。(提供:JAXA/NASA)

●前半 宇宙船出迎えの時期
宇宙飛行士が忙しいのは宇宙船がドッキングする時。例えばスペースシャトル到着前には出迎えの準備をするし、到着すれば大量の荷物を持ってくる。その荷物を確認し収納する。また帰還時にはISSに貯まったゴミを積み込む。古川飛行士がISSに到着後の6−7月は、ヨーロッパの補給船が離脱、その直後にプログレス貨物船が到着、更にスペースシャトル最後の飛行と、荷物の搬入搬出に大わらわ。その合間を縫って、放射線計測装置の取り付けやタンパク質結晶成長実験のセットアップ、キュウリの種を使った生命科学実験など、宇宙実験を始動した。

●中盤〜 宇宙実験に集中
腰を据えて実験を始めたのは、シャトルがISSを去った7月後半から。得意分野の医学実験、例えば自分の健康状態を管理する健康診断システムの実験、一般から公募した「宇宙医学にチャレンジ!」、また毛髪からストレスを評価する実験に加え、NASAの実験も数多く手がける。日本の宇宙実験は開始時や終了後の回収をのぞき、順調ならほとんど地上からの遠隔操作で実施できるが、宇宙飛行士が活躍?するのは故障時だ。実は古川飛行士が飛行前に実験の意義をアピールしていた、結晶成長実験(2010年9月VOL.1コラム参照 :「いよいよ科学者の出番−古川聡飛行士訓練公開」)が、装置「温度勾配炉」のトラブルでまだ実験が始められずにいる。故障箇所の特定、原因究明、修理こそ宇宙飛行士の手が必要で、古川飛行士は何とか滞在中に修理を終えて機能確認まで持っていきたいと、地上と綿密に打ち合わせしながら作業を進めている。

●8月末 プログレス打ち上げ失敗 作業見直しに奔走
8月24日、ロシアの貨物船プログレスがソユーズロケット第三段のトラブルでまさかの打ち上げ失敗。同型のエンジンは1400回以上の打ち上げ実績があり、ISSへの同貨物船の補給フライトは連続43回成功していただけに「不具合は想定していたものの驚いた」(横山プロマネ)。原田さんは日本の積み荷がなかったことに安堵すると共に、10月初旬予定のソユーズロケットによる宇宙飛行士打ち上げがしばらく凍結することを予測し、古川飛行士の作業スケジュールの調整に入った。当面、3人体制が続くだろうし、最悪の場合、ISSが無人になることもあり得る。6人体制が3人になると聞くと半分のマンパワーという印象を持つかもしれないが、実際には6人体制の場合、3人のロシア人飛行士がロシア側の実験を担当し、残りの3人で米欧日の実験を担当する。古川飛行士のチームは米日露の3人の飛行士チームだったため、「実質的には3人分の仕事を2人で行う状態」だった。さらに調整の上、日本の実験を優先的に実施できたために、日本の実験にはほとんど影響はなかったという。

古川飛行士と「きぼう」運用管制室は週1回、日本語でミーティング。「どんどん疑問点を質問してくれるので、やりやすい」と信頼関係はばっちり(提供:JAXA)

古川飛行士と「きぼう」運用管制室は週1回、日本語でミーティング。「どんどん疑問点を質問してくれるので、やりやすい」と信頼関係はばっちり(提供:JAXA)

●後半〜 10月30日のプログレス打ち上げ。失敗ならISSは無人へ
今後の注目は10月30日のプログレス補給船打ち上げ。成功すればソユーズロケットのトラブルは解消されたことになり、11月14日に古川飛行士らと交替する宇宙飛行士3人が打ち上げられる(当初は10月2日打ち上げ予定)。たとえプログレスが失敗しても、古川飛行士らはISSにドッキングされている緊急帰還機ソユーズで帰ってくる予定だ。帰還まで残り約1ヶ月強。古川飛行士は実験の最終仕上げに向かっている。例えば日本のお家芸とも言える「マランゴニ対流実験」では過去の常識を覆すような良好な科学データが取得されている。ちなみにこの実験は、高い微小重力レベルが求められるため、飛行士の就寝中に行われるが「きぼう」から離れた米国モジュールのトイレのドアの開け閉めでも実験に影響することがわかり「3人体制のほうが望ましい」と科学チームは言っているとか(笑)。滞在はラストスパートの段階。実験だけでなく「存分に宇宙を楽しんで欲しい」と原田リーダーは見守っている。