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ライター 林 公代 Kimiyo Hayashiライター 林 公代 Kimiyo Hayashi

宇宙生活は驚くほど普通、だけど船外活動は真剣勝負
—金井流宇宙の楽しみ方

国際宇宙ステーション(ISS)滞在中の金井宣茂宇宙飛行士。(提供:JAXA/NASA)

「宇宙はほんっとにいいところですよ~肩こりはなくなるし腰痛もなし。夜はよく眠れるし、宇宙食は美味しい。宇宙はこんなにいいところなのか、帰りたくないと思いました」

168日間の宇宙長期滞在を終えた金井宣茂飛行士は、こう語る。宇宙での生活は普通だったのが逆に驚きだと。お医者さんである金井さんの言葉は説得力があり、宇宙がぐっと身近になる。DSPACE取材班は金井飛行士に単独インタビューを行い、私たちが宇宙に行く時代に備えて、金井流「宇宙の楽しみ方」を聞きました!

宇宙酔い対策は?

宇宙飛行の前は色々心配していたそうですが、何を心配していましたか?
金井:

宇宙酔いがひどくて仕事ができないのではないか、(無重力状態になって)体液が上半身に集まると頭がもやがかかったようになってシャープな思考ができないのではないか、ずっと鼻づまりだったらさぞ不快だろうとか、それこそトイレの使い方。たくさん訓練したけど、本当にうまく使えるのか、とか。トイレは大西飛行士が面白おかしく紹介しすぎましたよね(笑)。すごい心配していきましたけど、平気でしたよ~。

宇宙酔い対策は何が効いたのでしょう?
金井:

打ち上げ前に、バイコヌール宇宙基地で回転いす訓練をやったり、シーソーみたいに頭を上げ下げしたり、寝るときにほんの少し足を高くして頭に血が上る状態にしたり。すごく単純でたいしたことはなさそうですが、意外によかったのではないかと思います。

打ち上げ前、バイコヌール宇宙基地で。足をあげて頭に体液が移動する宇宙での状態を模擬、対策中。
(提供:JAXA)
宇宙生活にはすぐ慣れたんですね。
金井:

はい。宇宙食が美味しくて、太ってしまいました。

え、どのくらい太ったんですか?
金井:

5Kgぐらいです。宇宙に行って体重が減ると骨や筋肉が弱くなるというデータがあって、とにかく体重を減らしたくないと地上から「食べろ、食べろ」と言われるんです。でも40歳のおじさんがスポーツ選手みたいに食事を食べていたら太りますよ!

地上からの指示で必死に食べていたんですね?
金井:

はい。1日3000キロカロリーと言われて、超がんばってずっと食べてました。宇宙食は一つ一つのサイズは小さいのですがそれを6パックとか、間食もチョコレートブラウニーやナッツとかカロリーの高いものを選んで無理して食べていました。

最初の3ヶ月はとにかく食べまくった。宇宙日本食の羊羹を食べているところ。(提供:JAXA/NASA)
宇宙ではすぐに満腹になると聞きますが?
金井:

いや、普通でした。教科書的にはすぐに満腹になるし、味覚が変わると書いてありますが、人それぞれでしょう。私は割とお腹がすきましたし、量を食べていると満たされない気がして。食べ過ぎで体重も増えていますと(地上の医師に)言い続けて、ようやく3ヶ月目に食べさせすぎましたと謝ってもらい(笑)、そこから適正な食事にコントロールしました。それでも帰る時のソユーズ宇宙船のシートはお尻がきつかったです(笑)。

宇宙での体の動かし方—ゆっくり動こう、たどたどしさを楽しもう

宇宙での空間のとらえ方は何か変化がありましたか?
金井:

三次元のとらえ方が変わります。自分の体を横にしたりさかさまにすることで天井は床になるし、床が壁になったりする。脳がそう処理するんです。だから世の中の見え方が変わりますよ。自分が重力下でとらえていた空間の見方だけでなく、別の見方があると。

今、地上でもそんな風に空間をとらえているのですか?
金井:

いいえ。無重力空間になると切り替わります。でも、たぶんこの部屋(JAXAの記者会見室)も自分が見ている形だけの世界ではないんだろうな、上(天井)が床になりうると意識的に考えを働かすことができます。

宇宙的な視点を手に入れたみたいですね。身体の使い方は宇宙ですぐに慣れましたか?
金井:

すぐにはなじまなかったですね。身体を移動させるときに胸の間ぐらいに動きの中心があって、息が上がってしまうような、はたから見ていると素人っぽいたどたどしい飛び方をしていたのではないかと思います。

でも、4、5ヶ月経って、おへその下の丹田を中心に、自由自在に体のバランスをとったまま、効率的に華麗に飛び回れるようになったのではないかなと思います。

宇宙に行って最初の頃の動きの中心は胸のあいだあたりだったという金井飛行士。
金井さんが学ぶ居合道では横一文字に水平に切りつけるのが基本。宇宙到着後1ヶ月ぐらいは目をつぶって横一文字をしようと思っても、腕が上にあがってしまった。
4、5ヶ月ですか。一週間の宇宙旅行で、身体の使い方をアドバイスするとしたら?
金井:

たどたどしい宇宙での身体の動かし方を、逆に楽しめるのではないでしょうか(笑)。無重力空間ってこういうことなんだと。あとは安全のためにゆっくり動くことですね。勢いをつけて、びゅーんと飛ぶととんでもないところに飛んで行って頭をぶつけてしまったりするので。

宇宙での宙返りって難しいんですか?
金井:

3ヶ月ぐらいかかります。壁を蹴って天井にぶつかってしまうんですよ。その場で回るのが難しい。歯を磨きながら毎晩練習しました(笑)。

記者会見で宙返りしないかなと記者同士で話してましたが、そんな涙ぐましい努力が!福井との交信イベントで縄跳びの八重飛びを見せて頂いた時は感動しましたよ!
金井:

いやぁ、お恥ずかしい。あの時もちょっと床を蹴っていますよね。蹴らないでそっと浮かんでいれば十重飛びは余裕でいけましたね。

2018年2月23日、福井市との交信イベントで8重跳びを披露。子供たち大興奮!(NASAテレビより)

宇宙での楽しみ方は「お地球見」

宇宙生活でお勧めの楽しみ方はなんでしょう?
金井:

やはり「お地球見」、地球を見ることですかね。海の上を飛んでいるだけで面白みはないのでは?と行く前は思っていましたが、ちょっとした光の加減や海面の反射で色々な種類の雲を見たり、本当に飽きることがないんです。ISSはすごいスピードで飛んでいますから、すぐに撮影スポットがきます。カリフォルニアだ、カナダの雪の大地だ、氷河が!氷河が!とか「あの山はなんだ?」とかむっちゃ忙しいです。

宇宙旅行に持って行くといいものは?
金井:

宇宙ステーションでは許されていないですが、地球を見ながらお酒を飲めたらいいなと思いますね。カメラは絶対に必要です。

船外活動—真剣をもって相手剣士と立ち会う緊張感で

船外活動中の金井飛行士。足場もない状態で、両手を離すのが怖かった。(提供:JAXA/NASA)

「宇宙生活は驚くほど普通」と言った金井さんが、極限の緊張感を味わったのが2月中旬に行われた船外活動。船外活動について記者会見で質問すると「非常に緊張感があった。私は居合道をやっているが、真剣をもって相手の剣士と立ち会うような、本当に極限の作業だと感じた」と凄まじい緊張感の中での作業だったことを明かした。

船外活動をやることが決まった時はどういう気持ちだったのですか?
金井:

宇宙到着後、(船外活動を)やることが決まったと聞いた時は「いよいよ来たか」と。死ぬかもしれないなという一抹の不安を抱きながら、ミッションに挑みました。

死ぬかもしれない、と?
金井:

もちろん、船外活動は安全な運用のためのルールがあって、安全はしっかり守られています。そうは言っても、宇宙服一つで宇宙空間に出る。宇宙船内にいるのと違ってリスクは高まるわけで、覚悟をしました。

覚悟、ですか。
金井:

死ぬ覚悟ではないですが、それぐらい危険な作業に出るんだという覚悟です。

何が怖かったのでしょうか?
金井:

船外活動訓練は、プールの中で行われたくさんのサポートダイバーがいてにぎやかです。でも本番では自分とパートナーの二人だけ。安全のために命綱をつけて宇宙空間に出ますが、ひもが絡まったり道具が壊れたり、あってはならないが命綱が外れれば、宇宙の構造物から手の届かないところに投げ出されてしまう。自分を助けられるのは自分とパートナーの二人だけです。特に両手を離して作業するとき、二度と帰ってこられないような、そんな怖さを感じましたね。

金井さんの相棒の宇宙飛行士はロボットアーム先端の足場に乗って作業をしていましたが、金井さんは命綱でつながれて作業をすることが多く、移動も大変そうでした。
金井:

命綱につながれている(私の)方がまだ怖くないと思います。私のパートナーはアームの先端に乗るのは非常に怖いと言ってました。足が抜けたらどこかに飛んでいってしまうのではないかと。だからがっつり足に力を入れて外れないようにしたと。外れることはないんですけどね(笑)。ロボットアームの先端に乗ることを星出さんは「ひとりタイタニック」と言ってました(笑)。

星出飛行士は船外活動でロボットアームに乗って移動。「ひとりタイタニック」状態。
(提供:JAXA/NASA)
金井さんの船外活動中の姿勢は上下さかさまで足場もない作業が多く、アクロバティックに見えました。
金井:

自分では頭がある方が上に見えるので、上下反転とかアクロバティックとは思わないんです。ただ両手を離して作業をするのがすごく怖くて、なかなか離せない。手を離しても命綱がついているからすぐに飛んでいくわけではないし、命綱をたどれば(たとえ飛んでいっても)元の構造物に戻れるけれど、やっぱり恐怖感がある。

でも作業の時は両手を使わざるをえない・・・。
金井:

怖さを感じ緊張しながら、集中集中と言い聞かせていました。怖くてぎゅっと手すりをつかんでしまったり周りが見えない状況でとにかく、仕事に集中しました。だから本当の意味で船外活動を体験していない気がするのです。もう1回やりたいですね。

スケジュールは前倒しで進んで、すごく順調に見えましたが。
金井:

結構頑張りました。実は、この時間までにある作業が終わらないなら残りの作業はやらないという、タイムプレッシャーがあったんです。時間との勝負でギリギリ時間内にできました。そこでようやく少し安心してペースを落としました。最後は力尽きましたね。予定の作業はすべて終わり、余裕があればやるエキストラ作業の一部を実施した後、「帰らせて」と船内に帰らせてもらいました。

5時間57分、緊張の連続だったのですね。でも「帰らせて」と言えるのはさすが金井さんです(笑)。
金井:

「なかなか言えないよ」とみんなに驚かれました。後から思い返したら、ヒーハーいいながらでもやるべきだった、と少し後悔しました(笑)。

きっと次回は余裕ですね。ところで9月に打ち上げ予定の「こうのとり7号機」は回収カプセルの実験をしますね。
金井:

初めての試みなので将来に向けて素晴らしいデータがとれるのではないかと期待しています。日の丸宇宙船の計画はまだありませんが、それに向けて貴重な経験になると思います。

宇宙生活での相棒、船内ロボのイントボールくんと。
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