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ライター 林 公代 Kimiyo Hayashiライター 林 公代 Kimiyo Hayashi

宇宙から『ふんわり』地球へ
—「こうのとり」7号機で日本初!回収実験

2018年9月11日(火)午前7時32分、過去最大となる6.2トンの荷物を載せて、国際宇宙ステーション(ISS)へ貨物便「こうのとり」7号機が打ち上げられる予定だ。7号機はNASAや欧州宇宙機関の大型実験ラック4台、ISSを運用するために欠かせないバッテリ6台、そして超小型衛星や生鮮食料品などを運ぶという重要任務を担う。現在、ISSへの貨物便は日米露の4つの貨物便が担っているが、これほど大型で大質量の貨物を運べるのは「こうのとり」だけである。

そして今回の最大の目玉は、「小型回収カプセル」を搭載していること。ISSで行われた宇宙実験のサンプルを地上に持ち帰る技術実証実験を行うのだ!成功すれば、日本はISSから初めて物資を回収することになる。

大気圏に再突入する小型回収カプセルのイメージ図。(提供:JAXA)

「これまで『こうのとり』はISSに物を運ぶが、最後は燃え尽きて、地上に戻るところがなかった。最後がミッシングピースで輪が閉じ切れていない。(回収実験で)最後の見つからなかったピースを見つける。輪がようやく閉じる」とJAXA・HTV技術センター長の植松洋彦さんは7月28日に行われた記者会見で語った。

日本はISSでタンパク質結晶生成実験をはじめ、様々な宇宙実験を精力的に行っているものの、実験の結果得られたサンプルを回収する手段については、他国に頼らざるを得ないのが悩みの種だった。なるべく早く、自分たちの手で研究者の手元にサンプルを渡したい。今回の実験はその悲願を実現するための第一歩となる。具体的にはタンパク質結晶生成実験と静電浮遊炉実験のサンプルを持ち帰る。

「こうのとり」7号機に搭載される前の小型回収カプセル。(提供:JAXA)
カプセル内部。下のほうに電子機器や推進系、中心部に実験サンプルを入れる収納容器、その周囲にパラシュート。ふんわりとGを抑えて再突入する機体としては世界最小レベル。(提供:JAXA)

小型回収カプセルは直径84cm、高さ66cmの円錐形。質量は約180kgで実験試料を約20kg(内部容量は約30リットル)搭載することができる。今回はタンパク質実験のサンプルを4℃に保つ必要があり、真空二重断熱容器と保冷剤を搭載するため、回収できる試料は5リットル程度となる。

回収カプセルの最も大きな特徴は、「ふんわり」と飛行して洋上に着水すること。サンプル回収で日本は小惑星探査機「はやぶさ」の実績はあるものの、「はやぶさ」は深い角度で大気圏に突入したため、高いG(重力加速度)を受けた。一方、今回の回収カプセルでは将来の有人宇宙船も視野に入れ、人が乗っても安全な4Gを目指している。今年、ソユーズ宇宙船で帰還した金井宣茂宇宙飛行士によると、これはソユーズ宇宙船帰還時のGと同等だという。

「小型回収カプセルは誘導制御系、推進系を搭載し、自分の姿勢を変更しながら揚力をコントロールすることで、ふんわりやさしく降りてくる。これは『はやぶさ』ではやっていなかった、一つのキー技術」とHTV搭載小型回収カプセル開発チーム・田邊宏太さんは今回の特徴を説明する。

さらに、大気圏に突入する際の約2000℃になる高温環境から機体を守るために、軽量のアブレータ(熱防護剤)を新たに開発した。

ISSでサンプルを入れてから筑波で研究者にわたすまで、最短4日

この回収実験が行われるのは11月初旬から中旬の予定。実験の流れはこうだ。「こうのとり」7号機がISSから分離する前に、まず宇宙飛行士が「こうのとり」与圧部入口のハッチ(扉)部分に、回収カプセル専用の構造体を取り付ける。そこに実験で得られたサンプルを詰めた回収カプセルを固定する。

ISSでの宇宙飛行士の作業を検証する大西飛行士。真空二重断熱容器の周りには、約4日間4℃に保つために保冷剤を入れる。(提供:JAXA)

ISSから「こうのとり」7号機を分離後、高度を下げていき、大気圏再突入の噴射をした後に、小型回収カプセルを放出。高度130km付近からカプセルは揚力飛行を開始する。高度7km~14kmでパラシュートを開き、南鳥島周辺の海域に着水。浮袋で浮かんでいるカプセルを船で回収。南鳥島からさらに航空機でサンプルを運ぶ。ISSでサンプルを入れてから筑波で研究者に渡すまで「最短で4日」が目標だという。

日本初となる高度400kmからのサンプル回収を成功させるため、チームでは様々な実験に取り組んできた。北海道大樹町では総合的な試験としてヘリコプターで高さ数kmから落下させパラシュートを開き着水、浮袋がちゃんと膨らむかなどを検証。また洋上に浮いた状態のカプセルを回収船で回収するリハーサルも行い、昼でも夜でも回収できることを確認した。

2018年3月、洋上に着水した小型カプセルを、ミッションで実際に使う回収船で回収するリハーサルの様子。山口県下関市蓋井島沖(日本海)域で。(提供:JAXA)
小型回収カプセルの実験の様子や組み立て作業、宇宙飛行士による検証作業など。(提供:JAXA)

どうやって実際に生かすの?エアロックからカプセルを放出?

この小型回収カプセル実験は1回きりで終わらない。「今回の結果を反映して最短で「こうのとり」9号機でも実験を行うことを検討中」と植松センター長は意気込む。では回収の技術が得られたとして、今後、具体的にどうやってISSからのサンプル回収に生かしていくのか。JAXA内では様々なプランを検討している。一つは「こうのとり」に搭載する案。しかし、「こうのとり」はほぼ1年に1回しか飛行しないのでサンプル回収の機会は限られてしまう。

そこでもっとカプセルを小さくして「きぼう」のエアロックから放出する案も検討しているそう。そうすればサンプル回収の機会が自由に得られる。ただし問題は、高度を下げるための逆噴射機能を新たに搭載する必要があること。いずれにしても、様々なアイデアと技術で、宇宙実験の成果を日本独自の手段で地上に持ち帰ることができれば、ユーザーにとっても宇宙利用の魅力が格段に増すはずだ。

ところで、小型回収カプセルが地上にかえってくるとき、もしかしたら流れ星のように見える可能性があるという。再突入の飛行ルートは南下ルートか北上ルートが検討されている。南下ルートの場合は日本上空を通ることになる。ただし、プラズマができて光り始めるのが高度80~100km。その際に夜の時間帯であるなど、いくつかの条件がそろう必要がある。

「これまで『こうのとり』は帰りに燃え尽きてもったいないと言われてきた。ようやく回収カプセルを搭載できたのは喜ばしい。回収技術を獲得することは次の宇宙開発に大きなステップになる。地球低軌道から物を回収できるし将来的には有人宇宙船につながる技術だと思っている。なんとしてもミッションを成功させたい」(田邊さん)

今回もみどころいっぱいの「こうのとり」7号機、そして小型回収カプセルに注目しましょう。

打ち上げを待つ「こうのとり」7号機。(提供:JAXA)
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