DSPACE

DSPACEメニュー

読む宇宙旅行

ライター 林 公代 Kimiyo Hayashiライター 林 公代 Kimiyo Hayashi

宇宙飛行士、文系も応募OK?
—「皆さんの意見次第」とJAXA

(提供:JAXAオンラインイベント「宇宙探査時代の新たな宇宙飛行士選抜への挑戦」より)

2021年秋、日本で13年ぶりの宇宙飛行士募集がスタートする。「宇宙飛行士にはスーパーエリートしかなれない。応募条件すら満たさないし、どうせ無理」と諦める方がいるかもしれない。だが、今回はちょっと違う。

今、注目は「文系」でも応募できるかも!ということ。過去5回の日本の宇宙飛行士選抜では応募条件に大学で「自然科学系」を学んでいることとされたが、その条件が大幅に緩和される動きがある。もし「文系」にも門戸が開かれることになれば、世界の宇宙機関で初のことになる。(例外は、1986年にスペースシャトルで打ち上げられた教師クリスタ・マコーリフさん。彼女は「Teacher in Space」という枠でNASAに採用された唯一の文系出身の宇宙飛行士)

しかし、文系OKが本当に実現するの?もし実現したとしても実際に文系が採用されるの?2月18日、若田光一宇宙飛行士、JAXAの宇宙飛行士候補者選抜担当者らが記者会見で回答した。

まず、JAXA有人宇宙技術部門事業推進部長、川崎一義さんが同日開催された宇宙飛行士募集に関するオンラインイベントで示した資料を見てほしい。応募条件の見直しが検討されている内容の例が示された。

(提供:JAXAオンラインイベント(同上)より)

注目は一番上の項目。前回は大学(自然科学系)卒業以上になっていたが、見直し検討中の案では「分野は問わない」となっている。3年以上の実務経験が問われるのは同じだが、その分野も自然科学系でなくてかまわない。また一番下の欄にも注目。これまでは宇宙飛行士候補者に選ばれると前職を退職してJAXAの職員になる必要があったが、たとえばフライト時だけJAXA職員になるなど多様な雇用形態を検討中だという。

若田飛行士は「毛利衛さんや向井千秋さんは1990年代、NASAの『ペイロードスペシャリスト(PS)』という枠で宇宙飛行している。PSはNASAの飛行士でなく大学の研究職や専門職の方がパートタイムで宇宙飛行士の仕事をして、飛行後は元の職場に戻るというもの。そういった形も今後はありうるのではないか」と答えた。「ちょっと宇宙で仕事してきます」というパートタイム宇宙飛行士。兼業や副業が当たり前になった今、よりフレキシブルな雇用形態も実現しそうだ。

1998年、スペースシャトルで宇宙実験の専門家として植物実験を行った向井千秋さん。(提供:NASA)

ところでなぜ今回、応募条件の緩和を検討しているのだろうか。川崎氏によると、「応募者のすそ野を広げるため」。前回(2008年)のJAXAの宇宙飛行士候補者募集では、963名の応募から3名が選ばれた(倍率321倍)。だが同時期に募集が行われたESA(欧州宇宙機関)では合格者5名に対し8413名が、2016年のNASA宇宙飛行士募集では12名に対し約18300名が、同年のカナダの募集では2名に対し3772名(1683倍!)の応募があったという。日本はこれらに比べると応募者が少ない。川崎氏は「他国と比べて日本は敷居が高すぎるのではないか。もっと応募しやすい形で(条件を)広げたい」という考え方が出てきたと語る。

その根拠となる職業がパイロット。「パイロットの世界でも文系出身の人が多い。求められる資質を決めた上、入り口で文系か理系かと区別することは全く考えていない」(川崎氏)

パブリックコメントに意見を!締め切りは3月19日

現在、NASAは宇宙飛行士選抜を進行中だし、ESAは3月末に募集を開始する予定だが、いずれも応募できるのは「理系」。今回、JAXAが宇宙飛行士の応募条件で自然科学系の条件を外せば、職業宇宙飛行士の募集では「世界初の文系OK」が実現する。

だが、これはまだ「検討中」の段階。どうしたら決定されるのかと言えば「皆さんのご意見を聞きたい。(パブリックコメントで)『文系を』という声が大きかったら、議論して決定する」と川崎氏。

具体的にはJAXAウェブサイトに「宇宙飛行士候補者の募集・選抜・基礎訓練に関する意見募集(パブリックコメント)について 新しいウィンドウが開きます」というページがあり、3月19日まで意見募集している。

「コメントはすべて目を通して吟味します。今後は5年に1回定期的に募集する計画ですから、5年後に向けてのコメントでもいい。色々な意見を頂ければ」(川崎氏)。ぜひ、「文系にも門戸を開いて!」「年齢制限をなくして!」などの声を届けよう。声が大きければ、応募条件はどんどん緩和されていくに違いない。

取材する側にとって注目は、宇宙飛行士の選抜過程をできるだけオープンにする計画だという点。たとえば「事前に同意がとれた受験者の顔・出身・職業等を Web ページ等で公開するなどのアイデアがある」そうで、これに対する意見も募集している。実際、カナダの宇宙飛行士選抜では応募者が絞り込まれた段階で、応募者の氏名や顔写真、出身地、職業まで公開。国民的な関心事となったようだ。

「成人ならOKにしては?」「不合格者へのフィードバックを」

JAXAイベントでは、多様な参加者から宇宙飛行士選抜に関する意見が出された。TVクリエイター加藤幸二郎さん(上段右端)は、自身の会社で「愛されるお馬鹿さん」を募集した例を披露。(提供:JAXAオンラインイベント(同上)より)

18日のイベントでは宇宙飛行士選抜に対して、実際に宇宙飛行士に応募したNASA研究者やJAXA技術者、人材キャリアの第一人者など様々な分野から意見が交わされた。私が拍手喝さいを送ったのは第2部。「世界の果てまでイッテQ!」をプロデューサーとして立ち上げたTVクリエイター加藤幸二郎氏の発言だ。

「(宇宙飛行士選抜は)条件を極度になくすこと。成人だったらOKというぐらいに。JAXAの話題になるし、わくわくする。みんなが共有して話し合うようになる」。実は加藤氏自身も高卒。「僕自身がへんてこな入り方をしている。よそ者馬鹿者若者がイノベーションを作る。結果的に選ばれるのがパイロットでもいい。最初の入り口に意味がある。いかにみんなが集まってくれるかを大事に考えてほしい」

この意見に対し、リクルートワークス研究所主任研究員の中村天江さんは「応募条件撤廃に賛成」と賛同し、過去にソニーが『学歴不問』という採用を実施した例をあげた。「ものすごく門戸を開いたし、ソニーの姿勢に支持が集まった。結果的に学歴も高くて優秀な人、学歴がないけど優秀な人が採用できた。厳しい選考をするなら、門戸をできるだけ開いてほしい」。

誰でも宇宙飛行士に応募できるとなれば、それこそ夢が広がり、大きな話題になるだろう。応募者が殺到することが予想される。そんなことが可能なのか?この点についてJAXAに聞くと

「応募条件をすべてなくすのはなかなか難しい(笑)。初回は色々検討した結果、狭い範囲の募集になるかもしれないが、5年に1回募集を行うので少しずつ広げていく方向で考えていきたい」(川崎氏)

これまで不定期でいつ募集があるかわからなかった宇宙飛行士選抜。5年に1回の定期募集となれば、具体的な目標となる。何度も応募することだって可能だ。その時に課題となるのは「もし不合格だったとき、その理由が開示されるか否か」。

2008年の宇宙飛行士選抜で約1000人から最後の10人のファイナリストに残ったJAXAの内山崇さんは「不合格の理由は開示されなかった。なぜダメだったのだろうと(ファイナリストの中で)長く引きずる人はいた」という。

中村圭子さんはNASA飛行士選抜時の貴重な経験を披露。現在NASAで働き、小惑星サンプルリターン計画「オシリスレックス」とJAXAの「はやぶさ2」に携わる。(提供:JAXAオンラインイベント(同上)より)

一方、NASAで研究者として働き2012年のNASA宇宙飛行士選抜では応募者18300人からトップ100人に選ばれたNASA地球外物資探査科学部門の中村圭子さんは「NASAの宇宙飛行士選抜では(不合格者に対して)希望者に限り、なぜ自分が落ちたのか、次の試験までにどういうスキルアップをすればいいのかフィードバックが得られる。NASAは過去に何度宇宙飛行士に応募したかを追跡していて、あきらめず宇宙飛行士になりたい人を積極的に選んでいる」と語る。

この点についてもJAXA川崎氏に確認した。「不合格だった時のフィードバックは当然かける方向で考えている」とのこと。様々な点で宇宙飛行士選抜は大きく前進しようとしている。

欧州、パラアストロノートへの挑戦—障がい者を宇宙へ

ESA(欧州宇宙機関)は世界初の試みとして「PARASTRONAUT(パラアストロノート)」を募集する。(提供:ESA)

多様性を重視し、あらゆる人を宇宙へ、という考え方は日本だけではない。ESAは3月末から宇宙飛行士の募集を開始するが、注目は史上初めて立ち上げた「PARASTRONAUT」プロジェクト。身体的な障がいのある方を募集する。

ESAは過去にも障がいのある方数名による無重力飛行を実施。宇宙飛行実現に向けた研究を続けてきた。今回の募集では最大6名の宇宙飛行士のほかに約20名のリザーブ宇宙飛行士を選ぶ。その中にパラアストロノートも含める。

選抜と並行して身体的な障がいのある方が宇宙に行くために、宇宙船や支援器具に何が必要なのか、ハードウェアや国際的な調整の枠組みについての研究も開始する。パラアストロノート計画はフィージビリティスタディの一環と位置付けており、現時点で飛行が約束されているわけではないが、「近い将来、パラアストロノートの宇宙飛行を実現させたい」とESA担当者は会見で語る。

地球の重力下で障がいがあって動きにくかったとしても、無重力の宇宙環境では動きやすくなる。例えば足に障がいがあって地上で手や腕で移動していた方は、筋肉が発達し宇宙では健常者より動ける可能性だってあるかもしれない。これはあらゆる人の可能性を広げ眠っていた能力を開花させる画期的チャレンジ。心から期待し注目していきたい。

殻を破って外へ!これからあなたにできること

さて、応募の間口が広がったとして、1000倍を超えるであろう宇宙飛行士の狭き門で求められる資質とはどのようなものなのか。

今回の募集でJAXAが具体的にあげた人物像は下記3つ

(提供:JAXAオンラインイベント(同上)より)

1番目の協調性、2番目の極限環境での的確な判断・行動は従来と変わらない。今回強調されたのは3番目。人類未踏地での経験を世界中の人と共有する発信力だ。

新時代の宇宙飛行士は、月面着陸や月周辺の宇宙ステーションに滞在する予定だ。求められる新たな条件について、若田光一宇宙飛行士は「月に行くと距離は遠くなり、通信が難しくなる場合もある。冷静沈着に対応する必要がある。また技術進歩だけでなく時代の変化にも敏感にフレキシブルに対応できる能力が必須。ISS(国際宇宙ステーション)は15か国が参加したがもっと多くの国と仕事をしていくことになる。柔軟にだれとでもチームを組み、新しいことに躊躇なく対応できることが、新しい宇宙飛行士により強く求められる」と発言。キーワードは「柔軟性」だ。川崎氏も今後10年~20年、ミッションがどんどん変わっていく可能性を示した。月軌道だけでなく地球周回低軌道での活躍する可能性があるそうだ。

ISSの展望室キューポラで、地球を眺める野口飛行士。月探査だけでなく地球周回低軌道も新しい宇宙飛行士の活躍の場だ。(提供:NASA)

イベントで(公財)日本ラグビーフットボール協会専務理事岩渕健輔氏から示されたラグビー選手に求められる資質も、宇宙飛行士と共通点があり興味深かった。「ピンチでパニックにならない人、失敗しても笑って次に行ける人。変わっていく力を持っている人を選手の選考で大事にしている」と。

宇宙飛行士への応募を考えている人は今、何を準備すべきだろう。若田飛行士はこのように答えた。「多様性こそがイノベーションを生む。心地よい領域に留まるのでなく殻を割って外に出る力。知らない領域の人と話すこと。どんな職業にも必要なことだと思います」

NASA中村圭子さんの回答は「NASA宇宙飛行士に応募した時、NASAが最初に行ったのが主人に電話をかけてきたことです。私の人となりを聞き、彼がどのような心構えでいられるかが聞かれました」

この二つ、相反するようでとても示唆に富む。身近な家族との関係を良好に保てない人が、ほかの人との関係を良好に保てるはずがないのだから。

春です。殻を割って新しい世界に飛び出そう。その先に宇宙が広がっています。

  • 本文中における会社名、商標名は、各社の商標または登録商標です。