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ライター 林 公代 Kimiyo Hayashiライター 林 公代 Kimiyo Hayashi

コロナ禍で実現、理想の旅生活
—衛星データで日本全国移住の旅

長引く緊急事態宣言。テレワーク飽きた・・旅に出たい!と思う方も多いのではないだろうか。そんな方に「コロナ禍だからこそ実現できた」という、ある女性の移住旅生活を紹介しましょう。

まず、このツイートを見て欲しい。

このツイートは2020年9月6日、北海道の積丹半島から投稿されたもの。そして2021年3月の今、彼女、城戸彩乃さんは北海道から南に遠く離れた、沖縄の恩納村にいる。海まで歩いて行ける場所に住み、毎朝波の様子を見にお散歩。2021年2月末にやって来た沖縄には4月末まで滞在予定。「船舶免許とダイビングのライセンスを取ろうと思っています。海を理解して航行できるようになりたい」。羨まし過ぎます!

城戸さんは2020年7月から約2か月おきに日本を移動しながら暮らしている。仕事も、更に副業もこなしながら。今までに住んだ場所は長野県駒ヶ根→北海道小樽市→香川県高松市(2か所)→大分県別府市→沖縄県恩納村(←今ココ)。

パートナーと2人分の荷物はコンテナ3つとキャリーバッグ2つ。お気に入りの掃除機と睡眠用マットレスを車に積んで、移動・移住する生活を続けて約8か月。「新しい旅の形で自分に合っている」と城戸さん。北海道から沖縄まで移住する中で多くの出会いと発見があり、将来定住したい場所も見つかっている。

小樽の海辺でテレワーク中。(提供:城戸彩乃)

そもそもなぜ移動する旅生活を?

ところで、城戸さんはなぜ移住生活を始めたのだろう。城戸さんはさくらインターネットの社員。主な仕事は同社が経済産業省受託事業として開発・運用する衛星データプラットフォーム「Tellus」の事業開発であり、衛星データをより多くの人に使ってもらうためのサービス開発などを行っている。新型コロナウイルスの感染が拡大する前は東京のオフィスに毎日通勤する生活。しかも、オフィス近くのシェアハウスに引っ越したばかりだった。ところが2020年3月ごろから仕事はリモートワーク前提になり、3月に会社に出社したのは1~2日だけ。

「シェアハウスで自分に与えられた個人スペースは5.5畳。ずっと籠ってパソコンの画面を見ていると、『私何をしているんだろう』って。(会社に行かなくていいのだから)ここにいる必要はないと思い始めたんです」。

元々城戸さんは海が好き、山が好き、カフェが好き。いつか自然に囲まれた場所でカフェを作るのが夢だし、キャンプやちょっとした野営にもはまっていた。

渓谷でテレワーク。長野県駒ヶ根で。(提供:城戸彩乃)

会社側は「必要な業務がある場合、可能な範囲に拠点があること」という条件をクリアすれば現時点でどこに住んでいても構わないという。城戸さんは神奈川県の実家を拠点とした多拠点生活という事で会社のOKを得た。さくらインターネットの社長もダイビングが趣味で沖縄に拠点を持っているというから、理解も得やすかったのかもしれない。

理想の移住先を求めて、城戸さんは動き始める。パートナーと相談し、1か所の移住期間は2か月とし当面1年間の予定で全国を回ると決めた。2か月に決めた理由は?「移住期間が3か月だと1年に4か所しか回れないし、一つの季節が1か所に限定されてしまいますよね。もっと多くの場所を見て回りたかった」。

で、どうやって移住先を探したのか。

移住先探しのノウハウー衛星データを活用

城戸さんがユニークなのは、移住先探しに本業を最大限活用したことだ。Tellusには無料で使える様々な衛星データがある。ユーザの一人としてデータを活用し、移住先を絞り込んで実行に移してみようと思い立った。衛星データがどこまで使えるか、自らが実験台として。

詳細は宙畑というメディアに掲載された記事(欄外リンク参照)を見て欲しいが、城戸さんはまず移住先の条件をあげた。条件は4つ。「いい感じに涼しい場所」「海か山が近くて自然豊かな場所」「空が綺麗(星が見えること)」「災害リスクが少ないこと」。

その条件を満たす場所はどこなのか、衛星データをはじめあらゆるデータを使って客観的に絞り込んでいく過程が実に面白い。

「いい感じに涼しい場所」という条件について、NASAの衛星のMODIS地表面温度データから場所を絞り込んでいく。(提供:NASA,JAXA,さくらインターネット,Tellus)

「いい感じに涼しい場所」については最高気温が30度以下、最低気温が20度程度とし、NASAの衛星のMODIS地表面温度データを活用。空が綺麗という条件については夜間の光の害が少ない場所をNASAの夜間光データから探し当てた。

「NASA World View」から「Earth at Night」を選択。夜の地球の光量を見ることができる。(NASA,JAXA,さくらインターネット,Tellus)

そして「災害リスクが少ない場所」というポイントについては、国土地理院のハザードマップポータルサイトを調べた。すべての条件をクリアした場所から、7月頭、長野県駒ヶ根へ行くことに決定!

長野県駒ヶ根で。いい感じに涼しい。あちこちにキャンプ場。(提供:城戸彩乃)
長野県で天の川を見ることができた!(提供:城戸彩乃)

移住生活の実際—大当たりだった場所は?

駒ヶ根は、星空がダントツに綺麗だった。「都心ではなかなか見ることができない美しい星空に心も洗われた」と城戸さん。天の川を撮影することもできたし、「良い感じに涼しい」という条件もクリア。

ただし想定外の事態も。「到着後1か月間ほとんど雨だったんです・・」。長野県は令和2年7月豪雨災害に見舞われた。城戸さんもバケツをひっくり返したような大雨に遭遇。長雨による土砂災害や河川氾濫の危険性から警報が頻繁に出されたが、住む場所をハザードマップから選んでいたおかげで、避難する事態にはならなかった。「災害リスクが少ない」という条件はクリアしたものの、その後の移住先の条件に「雨が少ない事」を追加。

次の小樽ではキャンプ生活を満喫。「至るところにキャンプ場があるし、単なる公園でもキャンプしている。プチキャンプみたいな感じで椅子やテーブルを出してバーナーでご飯作ったり、毎週のようにやってましたね」

そして大当たりは次に訪れた香川県だった。「香川県に滞在した10月末~12月末で1、2日ぐらいしか雨が降らなかった。圧倒的に晴れが多い」。年間降雨日数という指標があり、瀬戸内海に面した広島、香川、岡山などは雨が降る日数が全国でもかなり少ないそう。「海や山があってキャンプ場がある。山に行けば星もいっぱい見える。暮らしの点では徳川親藩の松平家が統治していたこともあり、地元の人によると高松は、『四国の江戸』らしい。中心地には東京にある店も多いし、東京の会社の支店が香川に集結しています。ちょっと田舎に住めば自然もあるし、高松に出れば仕事にも便利。(将来の定住地として)バランスがよさそうと思っています」

小樽の海辺で朝焼けを見ながら。(提供:城戸彩乃)

移住生活で初めてわかったこと

香川県三豊市、父母ケ浜の夕陽。ここは「日本のウユニ塩湖」と呼ばれるらしい。(提供:城戸彩乃)

旅×移住生活をして初めてわかったことや「手ごたえ」があったと城戸さんは言う。

「学生時代、海外に行ったときに『日本いいよね』と言われても、東京と祖母の住む京都しか知らないし、旅行でその土地の人と喋ることもあまりなく、日本の魅力を知らなかった。でも長野に住んで山の暮らしの良さを実感したし、香川は山も海も近い。その土地の良さを知ることができました。」

本業の衛星データの利用についても新たな発見があった。「長野県で市役所の方と話をする機会を頂いて、広大な森林管理の大変さや、効率的に育つ作物に作付けを変えていくがために特産物が衰退していく悩みなど課題を伺うことができました。何より広大な畑を東京では見たことがなかった。長野は土地が広大で、確かに人が日々畑を管理するのは大変です。ここ沖縄も山が多いけれど、長野と違って木の一つ一つまで細かくは管理されていないようです。大きな自然を目の当たりにして、その管理に衛星データが一助になるかもしれないと感じました。『困っている人が何に困っているか』を少し実感できるようになったと思います」

データで見ていた現場に実際に行ってみて、肌で感じ、現場の人に困りごとを聞く。「全国に友達ができた」ことも大きな収穫であるようだ。でもたった2か月の滞在でどうやって?

「最初に美容院に行きます(笑)2か月に1回移動するので、ちょうど髪の毛を切るタイミングなんです。美容師さんから良さそうなお店や観光地、暮らし方を聞けます。もちろん伝手を思い出したり発信したりもします。実は長野県にいるときにTV番組『ガイアの夜明け』に出て『小豆島に行きたい』と言ったら小豆島の方から『案内します』とご連絡を頂いたんです。小豆島に行ったら、その方が飲み会をセットして移住した方たちと繋いで下さって、すごく仲良くなった。車や部屋も貸して頂いて、小豆島がすごくお気に入りの場所になりました」

コロナ禍で出会えた「理想の旅のスタイル」

香川県高松市の男木島で。(提供:城戸彩乃)

出会いを楽しむことこそ旅の醍醐味。実は城戸さんは学生時代、高校生向けの宇宙フリーマガジン「TELSTAR(テルスター)」を制作・発行する大学生団体を立ち上げた人物。チャレンジ精神旺盛な城戸さんだから、移住生活を始めたと知っても納得していた。学生時代もさぞかし旅慣れていたのでは?と聞くと意外な答えが返ってきた。

「性格上、バックパッカーで放浪したのではとみられがちですが(笑)ちょっと引いてしまうというか、気にしいなところ、神経質なところもあるタイプで。人とコミュニケーションをとるのは好きですが、一人で落ち着きたい時もある。バックパッカーでドミトリーを泊まり歩くのは無理な気がします。今の移住生活は家具付きのマンスリーマンションとかAirbnb(エアビーアンドビー)を使って、こだわりの家具や雑貨を持ち込んで、ほぼ自分の家みたいに好きなものに囲まれています。安心できる拠点があるという感じ。(バックパッカーのように)数日間で思い切り情報収集して次の場所に移動、というスタイルではく、2か月時間があるからゆったりもできる。この新しい旅の形が自分には合っているなと思います」

コロナ禍でリモートワーク主体になったからこそ、実現できた新しい旅の形。マイナスに捉えがちな状況をしなやかにプラスに転換している。

#衛星データで日本全国移住の旅 のススメ

ちなみに城戸さんは今、東京に住んでいた頃とほぼ同じ生活費で、沖縄で2LDKの広い家に住んでいる。日中はリモートで本業、21時以降は副業(宇宙ビジネスの芽を育てる人材育成事業を行う(株)sorano me)の代表取締役として仕事。

目標は大学生の頃からぶれていない。「宇宙ビジネスを日本の誇る産業にすること」。「日本の宇宙開発って面白い、ユニークだね」と言ってもらえるよう、本業は衛星データの観点から、副業は人材的な観点からアプローチ。電車で移動していた時間もオンラインミーティングできて副業もやりやすくなった。「近所に沖縄料理を食べに行けば、ランチだって旅になる」。そして週末はキャンプへ、海へ。仕事もプライベートもめちゃくちゃ充実しているではないですか!

城戸さんはツイッター@Kclutch3 で #衛星データで日本全国移住の旅 というハッシュタグを作り、時々移住旅の様子をツイートしている。このハッシュタグを使っているのは現時点で城戸さん一人。「2人目が出ないかな」と期待する城戸さんに、移住旅をしたい人へのアドバイスを頂いた。

「自分にとって譲れないものは何か、ここは譲ってもいいやという線引きを普段から意識して考えておくことで、こういう暮らしになっても比較的快適な生活にできると思います」。

荷物を厳選しているから荷造りは2時間。大分県別府市で。(提供:城戸彩乃)
車に全家財を詰め込んだ状態。(提供:城戸彩乃)

絶対に持ちたいものは何か生活の中で見直す。城戸さんの場合は、睡眠用マットレス、PC、デスク、観葉植物だった。「照明とかベッドとか、ありとあらゆるものを持ち運ぶとなると大変ですよね。自分にとって心地いいラインを探していくことで、移住生活が合うかどうか判断できると思います」。

衛星データを使って移住する方法については「私に相談してください!」とのこと!旅生活に憧れながら、なかなか実現できない人(私も含め)は城戸さんのスタイルを参考に、自分に合うスタイルを見つけてみてはどうだろうか。

ドライブ中にたまたま見つけた大分県の九重“夢”大吊橋で。日本一高い天空の散歩道。(提供:城戸彩乃)
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