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ライター 林 公代 Kimiyo Hayashiライター 林 公代 Kimiyo Hayashi

ついに宇宙旅行の扉が開く!
ヴァージン VS ブルーオリジン 徹底比較

2021年は「宇宙旅行元年」になると以前の記事で書いた。2021年の中でも7月は宇宙旅行の「勝負月」になりそうだ。宇宙の入口への旅(サブオービタル飛行)実現を目指すBig2、ヴァージン・ギャラクティックとブルーオリジンがガチンコ勝負に出る。先陣を切るのはヴァージン・ギャラクティック。リフトオフは7月11日。7月20日にはブルーオリジンが続く。注目は創業者リチャード・ブランソン氏、ジェフ・ベゾス氏がそれぞれの宇宙機に乗り込むこと。飛行の安全性を身をもって示し、宇宙体験がいかに素晴らしいものかを全世界に伝えることになるだろう。

面白いのはヴァージン・ギャラクティックとブルーオリジンが提供する宇宙旅行が、宇宙機の形状も飛行スタイルもまったく異なること。旅行は「目的地」に辿り着くだけでなく、どんな機体に乗ってどんな体験ができるのか、その過程も含めた全体が楽しみですよね?複数の選択肢から「どちらの宇宙船にしようかな」と選ぶときから旅は始まっていると言ってもいい。そこで、2社の宇宙旅行の特徴を徹底解剖。あなたは、どちらの宇宙旅行を選びますか?

ヴァージン・ギャラクティックの宇宙旅行。飛行機のように宇宙へ

まずは7月11日に打ち上げられるヴァージン・ギャラクティックの宇宙飛行から。

「宇宙船」
宇宙船スペースシップ2は乗客6人+パイロット2人。母船ホワイトナイト2にパイロット2人が搭乗。

「スペースポート」
ニューメキシコ州南部に同社が建設した「スペースポートアメリカ」から発着。宇宙旅行客6名はここで同乗する旅行客やパイロットと顔合わせ。訓練や健康診断を約3日間行う。

ニューメキシコ州のスペースポートアメリカ上空を飛ぶヴァージン・ギャラクティックの機体。(提供:Virgin Galactic)
7月11日の有人飛行ではヴァージン・グループCEOリチャード・ブランソン氏(右から3人目)を含む同社の4人のミッションスペシャリスト、パイロット2人がスペースシップ2「ユニティ」に登場する。アンダーアーマーとコラボした宇宙服を着用。(提供:Virgin Galactic)

「旅程(飛行プロファイル)」

飛行時間は全体で約2時間。まず母船の下に宇宙船が吊り下げられた状態で、水平に離陸。離陸約45分後に高度約15kmに達し、宇宙船を切り離す。

高度約15kmで母船から宇宙船を切り離したところ。(提供:Virgin Galactic)

ロケットエンジンを点火。マッハ約3.3で上昇するが、この時、約3.5G(体重の3.5倍)の重力加速度が約90秒間かかる。

エンジン燃焼が修了すると無重力状態が訪れる。約4分間の無重力状態を全身で体感するとともに、窓の外の宇宙空間や地球の景色を堪能しよう。帰還時は最大約6Gの重力加速度が約90秒間かかる見込み。シートベルトをきっちり締めるのをお忘れなく。

宇宙の漆黒の闇、地球表面を覆う薄皮のような大気層、生命の躍動に満ちた地球の光景を目に刻もう。(提供:Virgin Galactic)
宇宙船内部。17の窓があり、16台のカメラがHDで宇宙体験のすべてを詳細に記録する。(提供:Virgin Galactic)

離陸から約2時間後にスペースポートアメリカの滑走路に水平着陸。

「旅行代金」
1名25万ドル(約2800万円)。すでに約600人の申し込みがある。

「経緯」
同社が宇宙旅行を目指して開発を始めたきっかけは2004年。高度100kmの宇宙を目指す民間賞金レース「アンサリXプライズ」の勝者が登場したことだ。レースの条件「3人乗りの宇宙機で2週間以内に2度、高度100kmに達すること」をスケールド・コンポジッツ社の宇宙船スペースシップワンがクリアし、1000万ドルの賞金を手にした。スペースシップワンの技術供与を受けて、ヴァージン・グループが宇宙旅行の実施を発表。当初は2007年の宇宙旅行スタートを目指していた。

だが、そもそも3人乗りのスペースシップワンから乗客6人を乗せる旅行用機体の開発は難航。2014年の有人飛行試験では副操縦士の操縦ミスなどで空中分解、死亡事故を起こした。原因究明と対策を施し、2018年12月に有人初飛行に成功。その後2019年2月、2021年5月と合計3回の有人飛行に成功している。飛行最高高度は89km(米空軍の定義では高度80kmからが宇宙とされている)。

「特徴:元は『飛行機野郎』が設計した機体」
ヴァージン・ギャラクティックの機体の元となったスペースシップワンは、航空機による無給油・無着陸世界一周を世界で初めて実現した「飛行機野郎」バート・ルタン氏が設計したもの。そのため水平離着陸する航空機の技術がベースになっている。宇宙空間到達後、尾翼をバドミントンの羽根(シャトルコック)のように立てることで、大気と摩擦する面を広くとり短時間で降下速度を減速させる(葉っぱが揺れながら落ちていくような動き)のもルタン氏のアイデアだ。

「今後」
2021年6月末、米連邦航空局(FAA)はヴァージン・ギャラクティックに対して、乗客を宇宙へ運ぶ商業宇宙旅行の開始に許可を与えた。FAAが公式にスペースライン(宇宙旅行を実施する会社)としてライセンスを与えたのは同社が初めてだ。ただし、今回を含む3回のテスト飛行に成功しなければならない。

過去の3回の有人飛行では最大3人が搭乗していたが、今回は6人。人数が増えても安定した飛行ができるかに注目。リフトオフは7月11日22時(日本時間)。飛行の様子は同社ウェブサイト(欄外リンク参照)等で初めて生中継される。

ブルーオリジンの宇宙旅行 垂直発射+カプセル帰還。特徴は自動運転と大きな窓

ブルーオリジンの創業者で7月頭に米アマゾンCEOを退任したばかりのジェフ・ベゾス氏が、ニューシェパード初の有人飛行に搭乗する。(提供:Blue Origin)

続いて、7月20日に飛行予定のブルーオリジンの宇宙旅行を紹介しよう。

「宇宙船」
ニューシェパードは「ブースター」と上部の「カプセル」からなる。カプセルは6人乗りでパイロットはいない。乗客それぞれのシートの横に大きな窓があるのが特徴だ。

ブースターの上部に乗客が乗るカプセルが搭載される。打ち上げ時には3Gの重力がかかる。(提供:Blue Origin)

「スペースポート」
米国テキサス州の西部にある専用発射場から離着陸。乗客は発射2日前までに射場入りし、ロケットブースターの見学や訓練を実施する。

「旅程(飛行プロファイル)」
全行程11分の宇宙旅行。
発射約2分後 3Gの重力加速度を受ける。
発射約3分後 カプセルを切り離して無重力状態に。シートベルトを外そう。
発射約4分後 最高高度(高度100km以上)に到達。
発射約6分後 下降を始める。大気圏突入に備えてシートベルトを締めよう。
発射約9分後 3つのパラシュートが開き、ゆっくり降下。
発射11分後  着陸。

乗客が乗り込むカプセル。大きな窓が特徴。中央に緊急脱出装置。(提供:Blue Origin)
パラシュートで降下する。(提供:Blue Origin)
これまで15回の無人飛行を繰り返し、マネキン人形で身体にかかる負荷等のデータを得ている。(提供:Blue Origin)
打ち上げに使われたブースターはカプセルとは別に着陸し、再使用される。(提供:Blue Origin)

「旅行代金」
商業宇宙旅行の価格はまだ発表されていない。7月20日の飛行では乗客1席分がオークションにかけられ2800万ドル(約31億円)の高値がついたが、科学教育のために財団に寄付される。

「乗客」
今回はオークション落札者、ジェフ・ベゾス氏と弟のマーク・ベゾス氏、そしてゲストとして、82歳の女性パイロット、ウォーリー・ファンクさんが搭乗することが話題だ。

ベゾス氏のインスタグラムではファンクさんと宇宙船搭乗を喜びあう姿が投稿されている。

ファンクさんは1960年代、女性宇宙飛行士の健康状態をテストする民間プロジェクト「マーキュリー13」(Women in Space)に参加。13人の女性パイロット中、最年少卒業生だった。当時、米国初の有人宇宙飛行計画マーキュリー計画で選ばれた宇宙飛行士たちと同様の生理学的・心理的テストなどをクリアしたものの、宇宙に飛ぶ夢はかなわなかった。その後、ファンクさんは女性初のNTSB(米国家運輸安全委員会)安全調査官、女性初のFAA検査官などを務めたが、「マーキュリー13」から半世紀以上の時を経て、ついに夢が実現する。これまでジョン・グレン氏の77歳が宇宙飛行時の最年長記録だった。82歳の宇宙飛行は史上最年長という意味でも快挙となる。

「経緯」
ブルーオリジンは2000年にジェフ・ベゾス氏が創業した企業。ニューシェパードの飛行試験は2015年から15回、無人で行われている。当初は非公開で飛行実験が行われていたが、途中から生中継が実施されるようになった。パイロットが搭乗せず、完全に無人で行われていることで安全性を不安視する声もあるが、中継映像では振動もなく安定した飛行だ。近年はNASAの実験装置を搭載、宇宙実験を行っている。緊急時に備えて飛行中のブースターから有人カプセルを分離させる実験も3回実施し、「安全がブルーオリジンのトップミッション」と安全性を強調している。

「特徴:パイロットのいない自動飛行」
ヴァージン・ギャラクティックが水平離陸・水平着陸であるのに対して、ブルーオリジンの宇宙飛行はブースターによる垂直打ち上げ、パラシュートによる帰還と対照的。ロケットで打ち上げるという「宇宙飛行士気分」を味わいたい方には適しているだろう。最大の特徴は飛行が高度100kmのカーマンラインと呼ばれる高度を超えていること。国際航行連盟は高度100kmから上空を宇宙と定義している。(ヴァージン・ギャラクティックはまだ高度100kmを超えていない)。どこからが宇宙という定義は様々あるが、ブルーオリジン関係者はカーマンラインを超える体験は全く違うと、語っている。約10分で高度100kmと往復する体験はめまぐるしいはずだ。写真を撮るよりも全身でその体験を感じることを強くお勧めする。

注目はこれまで一度も有人飛行を行っていない同社が、初めて行う有人飛行であること。その飛行にジェフ・ベゾス氏が搭乗することは安全性・信頼性への自信の表れとも言えるだろう。ベゾス氏は5歳から宇宙に行くことを夢見ていたという。

宇宙レースは開発を加速させる。だが、何よりも重視されるべきは安全性だ。リチャード・ブランソン氏は「宇宙をすべての人が行ける場所にすることが夢だった」と語っている。宇宙に夢を抱くすべての人のためにも、安全に宇宙飛行を成功させて、私たちにその扉を開いて欲しい。

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