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ライター 林 公代 Kimiyo Hayashiライター 林 公代 Kimiyo Hayashi

日本発宇宙旅行、将来は宇宙経由で海外へ!? 急げ「法整備」

日本発・宇宙経由・NY行き

ブルーオリジンの宇宙船は大きな窓が特徴。7月20日の有人初飛行に、約30億円で落札した落札者とともに、ジェフ・ベゾス氏兄弟が搭乗することも話題だ。(提供:Blue Origin)
2021年4月に行われた15回目の無人飛行試験では打ち上げ前後に同社スタッフがカプセルに搭乗。宇宙飛行士リハーサルを実施した。(提供:Blue Origin)

今年は「宇宙旅行元年」になりそうだ。米アマゾン創業者のジェフ・ベゾス氏率いるブルーオリジンが、オークション落札者と共に宇宙船ニューシェパードの初飛行を7月20日(現地時間)に行うと発表。ライバルのヴァージン・ギャラクティック社は5月に3度目の有人宇宙飛行を成功させ、ヴァージン・グループCEOリチャード・ブランソン氏が年内に飛行する予定だ。

ブルーオリジンとヴァージン・ギャラクティックの宇宙旅行は、飛行スタイルや機体の形状は大きく異なるものの、高度約100kmの宇宙まで往復する点で共通。このタイプの宇宙旅行は「サブオービタル飛行」と呼ばれる。サブオービタル初飛行の成功を、世界中のスペースポートや宇宙関係者が待ち望み、既に機体の誘致合戦をスタートさせている。

その理由は、宇宙旅行の先にある。「サブオービタル飛行は『富裕層が宇宙旅行するだけじゃないか』と思われがちです。最初はそうかもしれません。でも将来的に各国が狙っているのは、(今、海外に行く際に使う)飛行機が、宇宙を経由して地上の2地点を移動するスペースプレーンに置き換わる『2地点間輸送』です。人の移動手段が変わる時代が必ずやってくる。サブオービタル飛行が米国でどんどん始まろうとしている今、日本が2地点間輸送のハブ空港をとらないと、NYから日本を飛び越えてシンガポールや中国に飛んでしまう」

危機感を募らせるのは一般社団法人Space Port Japan(スペースポートジャパン、以下SPJ)理事の新谷美保子弁護士だ。日本からサブオービタル宇宙旅行を実現させ、将来的に2地点間輸送のハブ空港となるために今、大急ぎで整備する必要があるのは、「人を飛ばすための法律だ」と力説する。

「日本には人工衛星の打上げなどに関して宇宙活動法という法律がありますが、有人宇宙飛行を全く想定していません。今の日本は、人工衛星など人が乗らないものしか宇宙に送れない。人が乗るものについては、許可すら出せないのが現状です」(新谷弁護士)。

新谷美保子弁護士。一般社団法人Space Port Japan設立理事。文部科学省「革新的将来宇宙輸送システム実現に向けたロードマップ検討会」委員など多数の政府委員会委員を務める。

日本は無人のロケットによる人工衛星などの打ち上げには「宇宙活動法」が、人が乗る飛行機には「航空法」が適用されている。だが、人を乗せて宇宙に運ぶことに関しては法律が存在しない。新谷弁護士によると、有人宇宙船が今にも飛びビジネスの段階に入り、「世の中の土壌が整った」と判断されないと、立法するのはなかなか難しいという。米国でサブオービタル飛行が実現間近となり、ビジネスに乗り遅れないように日本でも人を飛ばす法律を作るには、この「立法が必要なレベルのビジネス実現可能性」が必要だ。

「日本からサブオービタル機を飛ばそうとするスタートアップはいくつかあって、とても頑張っています。ただ日本独自の宇宙船の完成を待ってから立法するのでは、世界はどんどん先に行ってしまう」(新谷弁護士)

日本に「アジア初スペースポート」を開いてしまう!

一般社団法人スペースポートジャパンは、日本にアジア初のスペースポートを作り、日本を宇宙旅行ビジネスの拠点にすることを目指す。(提供:2020 canaria, dentsu, noiz, Space Port Japan Association.)

そこで新谷弁護士は知恵を絞った。「『アジア初のスペースポート』を掲げ動いてしまおう」と志を同じくする様々な分野の人たちに声をかけ、2018年、一般社団法人Space Port Japanを立ち上げる(代表理事は山崎直子氏)。ANAホールディングスや大手ゼネコン、商社などが参画。「まずはスペースポートを中心に地べたの産業を興そうと。そうすればヴァージン・ギャラクティックやブルーオリジンなど海外から黒船が来て、日本で飛ぶことも受け入れられる。最初は機体がどこの国のものであっても構わない。宇宙船をオペレーションできる国になることが大事。立ち上げ当時、具体的なプロジェクトは一切ありませんでしたけどね(笑)」。もちろん、日本の有人宇宙船を飛ばすのが最終ゴールだが、現実的な準備を進めておこうという戦略だ。

具体的には海外から宇宙船を誘致し、飛ばすことができるスペースポートと、法整備を含めた環境を整える。既にSPJは将来を見据えた大きな一歩を踏み出している。航空機からロケットを空中発射し、人工衛星を放出するヴァージン・オービット社から日本で打ち上げたいという相談を受け、2020年4月、SPJの会員である大分県とヴァージン・オービット社がパートナーシップを結んだ。同社は2020年代前半に大分空港からの打ち上げ実現を目指す。SPJは大分県などと連携しながら、法整備を含め実現に向けて協力している。

ヴァージン・オービットはボーイング74「コズミックガール」からロケットを空中発射。ロケットはエンジンを点火し宇宙空間に到達、超小型衛星を軌道に投入する。(提供:Virgin Orbit)

ヴァージン・オービットが大分空港から打ち上げを実現できれば、将来的に同じヴァージン・グループであるヴァージン・ギャラクティックの有人宇宙船打ち上げの突破口になるのだろうか。「理論上は可能です。ただ大きく異なるのは、(ヴァージン・オービットのような)無人ロケットについては日本には宇宙活動法があり、打ち上げができる。ただ有人宇宙船打ち上げについては法律がない。ヴァージン・ギャラクティックの宇宙船を日本で打ち上げたいという話になったとき、日米間で政府間協定を結んで米国の法律で飛ばすことができるかと言えば、おそらく難しいでしょう。政府間協定を行いつつ、日本も国内法として有人宇宙に関する法律を作る必要があるだろうと思います」(新谷弁護士)

2020年代前半に法整備—政府の二つの動き

2021年5月末、ヴァージン・ギャラクティックは米国ニューメキシコ州の宇宙港スペースポート・アメリカから有人初飛行に成功。(提供:Virgin Galactic)

日本には現時点で人を宇宙に飛ばす法律は存在しない。だが、各国がサブオービタル宇宙旅行やその後の2地点間輸送に向かう世界情勢を見て、国も動き出している。たとえば2020年12月に内閣府が示した宇宙基本計画工程表にはこう明記されている。「小型衛星の空中発射や宇宙旅行などへの活用が検討されているサブオービタル飛行については、官民協議会を中心に、2020年代前半の事業化を目指す国内外の民間事業者における取組状況や国際動向を踏まえつつ、将来のビジネス展開に資する環境整備の検討を加速する」。

官民協議会とは内閣府の「サブオービタル飛行に関する官民協議会」であり、年に1回開催されている。さらに文部科学省には「革新的将来宇宙輸送システム実現に向けたロードマップ検討会」がある。2040年代前半にサブオービタル宇宙旅行や2地点間輸送などを可能とする実用機打ち上げを目標に、2030年代初めに民間主導で飛行実証を行うことを目的に掲げる。新谷弁護士はこの検討会の委員も務める。

これらの動きについて「宇宙基本計画工程表に、サブオービタル飛行の環境整備について明記された意味は大きい。2020年代前半に高度100kmまで人を送るための法律は立法されると期待している。また文部科学省の検討会の議論が本当にワークすれば、有人宇宙飛行に関する法律が制定される後押しになるのでは」と語る。

世界は動いている—イギリスの場合

ヴァージン・ギャラクティックによる2021年5月の有人飛行の動画。パイロットたちの興奮が伝わる 。(提供:Virgin Galactic)

世界の情勢はどうか。宇宙機の誘致合戦は既に始まっている。「海外の宇宙機を自国に持ってきて飛ばそうとしている国の多くは、(有人宇宙飛行に関する)国内法があります。もし国内法がなく、国家間協定により米国FAA基準に従った打ち上げを行う場合、ロケット燃料が運ばれたり、打ち上げを見にきた観客に危険が及んだりしたときに米国の保障だけでいいのか。主権国家としてどう考えるのか。私は日本は国内法を整備すべきだと思います」(新谷弁護士)

新谷弁護士がお手本にすべきと語るのは、イギリスだ。イギリスはコーンウォールにスペースポートをもち、米国ヴァージン・オービット社と連携締結を結んでいる。「イギリスは有人宇宙飛行やスペースポートに関する素晴らしい法律(Space Industry Act)を作りました」。実はイギリスには宇宙関連企業があまり育っていない。育てる時間も資金も乏しいため、優秀な企業を海外から誘致すべく法律を完備するという戦略をとった。

素晴らしい法律という意味は?「これからの世代に必要な宇宙活動を想定して、自国に宇宙産業が育っていようがなかろうが、産業振興を目的として国内法を整備してしまったことが一点、融通が効く法律であることが一点です」。本当に誘致したい海外企業に許可を出せるよう、許可基準の中でケースバイケースで判断できる項目があるなど、誘致についても戦略的に柔軟に行えるような法律になっているそう。

「日本は宇宙先進国として、長年大型ロケットを打ち上げ続けている。でも、世界でサブオービタル飛行が進み、2地点間輸送に向けてどの空港にどうやって乗り入れをするかという国際間の議論が行われるときに、人を飛ばす法律を持たない国がその議論に参加できるとは思えません。議論に参加するためにも法律を作った方がいい」(新谷弁護士)

つまり、人を飛ばす法律を持っていることは、人を飛ばす技術が高いレベルにあるのと同じぐらい「宇宙先進国の証」なのだ。

飛行機かロケットか、自己責任か否か

ヴァージン・ギャラクティックが飛行機のように水平に離着陸するのに対し、ブルーオリジンは垂直に打ち上げ、有人カプセルを宇宙で分離後、パラシュートで帰還する。(提供:Blue Origin)

では、現実的に日本で人を宇宙に飛ばすための法律を作る場合の課題は何か。 一つは組織的な課題。現在は、人を乗せて飛行機(有翼)のように飛び立つサブオービタル飛行を検討する場合、航空法に基づく有人旅客輸送を管轄する国土交通省、宇宙活動法に基づいてロケット打ち上げを管轄する内閣府にそれぞれ権限が分かれている。つまり、サブオービタル宇宙機の打ち上げから離陸まで、一貫して責任をもつ組織がない。

「米国の場合、日本の国土交通省にあたるFAAの中に商業宇宙輸送オフィスAST(Office of Commercial Space Transportation)という宇宙専門部隊があります。ASTはNASAの人が大量に出向する特別部隊です。同様の組織を日本にも作り、内閣府と国交省の両方からノウハウをもった人材が協働する場ができることが一番いい形だと思います」(新谷弁護士)

そして二つ目の課題が、インフォームドコンセント。つまり乗る人の安全性の問題だ。米国の法律では、安全性を重視しすぎて黎明期の宇宙産業の芽を摘まないような内容にしている。具体的には運航者が旅行に伴うリスクを明らかにし、質問の時間を十分にとった上で、旅行者はそのリスクを認識し署名。つまり自己責任で飛ぶ。

このような自己責任の考え方は日本でなじむのだろうか?「完全に私見ですが、インフォームドコンセントの考え方は日本にはなじみにくいと思います。米国は自己責任の国ですが、日本は消費者を保護する法律があり、米国と同様の仕組みがそのまま日本で有効かどうかは検討が必要です。一方で、企業もどこまでも責任を負うのでは、ビジネスが成り立ちません。企業側が責任をもつ限度額を設け、企業は保険を活用するという責任限定の考え方が良いのではないかと考えています。」(新谷弁護士)

日本の強みはどこにある?

SpaceXによる、宇宙経由地上の2地点間輸送の動画。StarshipでNYから上海まで約39分。日本は2地点間輸送のハブ空港となれるのか。(提供:SpaceX)

加速度的に成長が見込まれる宇宙旅行ビジネス。文部科学省の資料によれば、サブオービタル機を活用した「2地点間輸送」については、既存の旅客航空機の一部が取って替わる場合、日本発着ベースで2040年に年間5.2兆円程度の市場規模となる可能性があるという。

日本がアジア地域で2地点間輸送のハブとなることができるのか。日本の強みは?「海外の宇宙関係者からたびたび言われますが、商社やメーカーなど宇宙を本業としていない『非宇宙産業』がここまで充実して宇宙産業をサポートする国には世界中どこにもない。層が厚く、一丸となった時の突破力があります。非宇宙産業の技術力やパワーを取り込めることができれば、日本には勝算があると思っています」(新谷弁護士)

6月18日に閣議決定された政府の成長戦略でも宇宙が重要分野の一つに入り、「宇宙港の整備などアジアにおける宇宙ビジネスの中核拠点化を目指す」と明記された。宇宙を経由して日本から世界へ。数十年後に、そんな未来を引き寄せるためにも、技術と両輪で法律の整備を急がねばならない。

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