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ライター 林 公代 Kimiyo Hayashiライター 林 公代 Kimiyo Hayashi

月から「地球見」する日—アルテミス計画って?
日本の役割は?

月が美しい季節です。10月18日は十三夜で「後の月」または「栗名月」とも呼ばれる。「中秋の名月」と合わせて十三夜にもお月見をするのは、日本独自の文化。二つの名月を「二夜(ふたよ)の月」と呼ぶのは、以前の記事で紹介しましたね。

さて、その月に再び人類は降り立たとうとしている。米国が中心となり欧州、カナダ、日本などが参加する「アルテミス計画」だ。日本人が月面に降り立つ可能性もある。そして民間企業も2022年以降、次々と月着陸を実現しようとしている。38万Kmの距離を超え、地球から「月見」をすると同時に月から「地球見」する日は遠くない。まずは、アルテミス計画の全体像や日本の役割についておさらいしていこう。

人類は21世紀、再び月に降り立とうとしている。(提供:NASA)

アルテミス計画とは?

アルテミス計画の「アルテミス」とはギリシャ神話に登場する「月の女神」であり、アポロの双子とされている。2019年にNASAが発表した計画によると、2024年に米国人女性飛行士を月面に着陸させること、その場所はこれまで人類が足を踏み入れていなかった月の南極になること、民間企業や国際パートナーと協力し月に拠点を築き、科学的発見を行うとともに経済活動の基盤を構築、火星に人類を送るという究極の目標のための最初のステップであることが明記されている。

1960年代のアポロ計画との違いは何か。当時は米ソの宇宙レースのただなかにあり、月への一番乗りが目標だった。今回は「月に人類の活動の拠点を築くこと」が主目的だ。そして、月周回軌道上に国際協力によって有人拠点「ゲートウェイ(Gateway)」を建設することも新しい。

アルテミス計画では月周回にあるゲートウェイを拠点に月面に有人活動を展開していく。(提供:文部科学省宇宙開発利用部会 国際宇宙ステーション・国際宇宙探査小委員会(第42回)2021年6月30日開催資料「アルテミス計画に関する各国の開発状況について」より)
将来的に月面で電源や燃料プラント、居住棟を築く。(提供:文部科学省宇宙開発利用部会 国際宇宙ステーション・国際宇宙探査小委員会(第42回)2021年6月30日開催資料「アルテミス計画に関する各国の開発状況について」より)

ゲートウェイ
—1年に10~30日宇宙飛行士が滞在する月周回ステーション

月周回有人拠点ゲートウェイは、地球上空400kmを周回する国際宇宙ステーション(ISS)のようなもの。だが、異なる点も多い。まず、その軌道が特徴的だ。2019年の文部科学省の資料によれば高度4000km×75000kmという楕円軌道。なぜこの軌道かと言えば、地球との通信が常時確保されること、有人活動拠点候補である月の南極の可視時間が長く、通信や中継に都合がよいこと、地球からの到達エネルギーが月低軌道までの70%程度で、輸送コストが比較的小さくなるという利点があるためだ。

大きさはISSの約6分の1。居住空間がISSは9つに対してゲートウェイは2つ。物資補給がISSは1年に8回に対して年1回。そのため宇宙飛行士は1年に10~30日程度ゲートウェイに滞在予定で、残りの期間は無人となる。

ゲートウェイ全体のイメージ図。大きさはISSの約6分の1。(提供:NASA)
ゲートウェイの詳細。(提供:文部科学省宇宙開発利用部会 国際宇宙ステーション・国際宇宙探査小委員会(第42回)2021年6月30日開催資料「アルテミス計画に関する各国の開発状況について」より)

ゲートウェイはISSと同様、数回に分けて打ち上げられる。最初の打ち上げは2024年ごろ。PPE(電力・推進系・通信系)モジュールと、HALOと呼ばれるミニ居住棟の打ち上げ。その後、2025年を目標にI-Habと呼ばれる国際居住棟、2026年にロボットアーム、2027年にESPRIT-RM(燃料推進系+クルー用窓)、2028年にエアロックを打ち上げる予定。将来的には、地球から宇宙飛行士を運んできたオライオン宇宙船がゲートウェイにドッキング、月離着陸船に乗り換える。日本などの物資補給船もドッキングする計画だ。また、ゲートウェイでは様々な科学実験が検討されている。たとえばミニ居住棟(HALO)内外に宇宙天気観測装置、宇宙放射線線量計、Human Reserchとして眼底検査機などの器材の搭載が決定している。教育や広報、商業利用などにも活用されていくだろう。

日本は何をする?

開発中の新型宇宙ステーション補給機(HTV-X)の発展型は、ゲートウェイへの補給機として使われる予定だ。(提供:JAXA)

さて、気になるのは日本が何をするのか、ということ。日本は2019年10月、アルテミス計画への参加を表明。2020年7月には月探査協力に関して、NASAと文部科学省が共同宣言に署名した。日本はゲートウェイ居住棟への機器の提供、補給、探査機による月面データの共有、与圧ローバーの開発を中心に月探査に協力することになる。

具体的にはゲートウェイについてはミニ居住棟(HALO)へのバッテリなどの提供、国際居住棟(I-Hab)の居住機能(環境制御・生命維持装置)の提供。さらに、2020年代中ごろ以降、HTV-X発展型をH3ロケットで打ち上げゲートウェイへの物資や燃料補給を実施予定。

また、有人月面着陸については、どの場所に降りるか着陸地点の選定について日本の探査機のデータを提供する。2022年度に打ち上げ予定の小型月着陸実証機SLIM、2023年度に打ち上げを目指す月極域探査ミッション(LUPEX)のデータや技術を共有する。

月の「神酒の海」にピンポイントで着陸する小型月着陸実証機SLIM想像図。(提供:JAXA)

そして、月面に初期の有人拠点が築かれれば、日本の民間企業の力を結集した与圧ローバーの出番。科学的に興味深い月面の5つの地点を探査する予定で、総走行距離は1万kmになるという!月面での活動領域を飛躍的に広げてくれるだろう。

将来の月面基地イメージ図。農場も見える。(提供:JAXA)

まずは「アルテミス1」に注目

2021年後半に打ち上げが計画されるアルテミス1の飛行プロファイル。(提供:NASA)

さて、2024年の米国人女性飛行士の月面着陸は宇宙服の開発が間に合わないなど、様々な側面から黄色信号が灯っている。ただし一足飛びに月面着陸は実現しない。月着陸はアルテミス1~3の3段階で行われ、実はその3回ともゲートウェイは経由しない。

アルテミス1はオライオン宇宙船を搭載し、SLSロケットで打ち上げられる。開発が遅れていたSLSロケットについて、NASAは10月頭、アルテミス1に向けた設計認定レビューを終えたと発表。オライオン宇宙船は4人乗りだが、アルテミス1では無人。その代わりマネキン人形ムーニキン(Moonikin)がコマンダーとして搭乗。月面に着陸せず、月を周回飛行する。ミッション期間は26日~42日間。飛行中、データを計測し、続く有人ミッションに役立てる予定だ。 打ち上げは2021年11月ごろに予定されているが、遅れる可能性も大きい。

アルテミス1では、日本の二つのキューブサット(OMOTENASHI、EQUULEUS)がSLSロケットに搭載される。OMOTENASHI(おもてなし)は11×24×37cm、質量約14kgと小型ながら、月着陸を目指す。着陸時の速度は秒速50m、約1万Gもの衝撃がかかるため衝突と言った方がいい。着陸時の衝撃データを地球に送信してミッション終了。一方、EQUULEUS(エクレウス)は地球から見て月の裏側にあるラグランジュ点まで飛行し、月の裏面における月面衝突閃光の観測などを行う。小さな二つのキューブサットの活躍にも注目したい。

アルテミス1が成功すれば、アルテミス2はいよいよ有人飛行となる。4人の宇宙飛行士が約10日間飛行する予定で、そのうちの一人はカナダ人宇宙飛行士。今回も月には着陸せず、月を周回飛行して地球に帰還する。現在のところ、2023年に飛行予定だ。

有人着陸への流れ。アルテミス1(無人)、アルテミス2(有人で月周回)のあと、ゲートウェイが建設開始、月面着陸船を月周回軌道へ送った後、アルテミス3でオライオン宇宙船と月面着陸船がドッキングして月着陸へ。(提供:2022年NASA budget Request Summery)

NASAの資料によるとアルテミス2のあと、ゲートウェイの最初のモジュールが2024年に打ち上げられて建設開始。その後に月面着陸船(SpaceXが選定された)を月周回軌道へ。その後、アルテミス3ミッションでオライオン宇宙船が打ち上げられる。既に月周回軌道にある月面着陸船とドッキングし、月面着陸へ。1972年にアポロ12号の宇宙飛行士が月面を去ってから半世紀を経て、人類は月に還ることになる。

アルテミス1~3と並行して、NASAが民間企業に委託した月への商業輸送サービス(CLIPS)が2022年にも始まろうとしている。そして独自に月を目指す日本の民間企業もある。今年末から来年にかけて、月探査がめちゃくちゃ熱いというわけ。そんなことを想いながら、十三夜には月を愛でてみませんか。

設計認定レビューを終えたSLSロケット。2021年9月、NASAケネディ宇宙センターのスペースシャトル組み立て棟(VAB)で。(提供:NASA / Frank Michaux)
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