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ライター 林 公代 Kimiyo Hayashiライター 林 公代 Kimiyo Hayashi

明け方の空に太陽系オールスターズ—惑星全集合を見よう

6月18日、日の出1時間前の東京の星空。下旬まで7惑星の集合や月との共演が楽しめる。(提供:国立天文台)

6月中旬~下旬はぜひ早起きして、空に太陽系の惑星たちを見つけてみませんか?たとえば6月18日、日の出1時間前。南の空には満月を過ぎた月齢18.6の月が輝く。その月から東に目を向けると土星が煌めき、さらに東の地平線に向かって海王星、木星、火星、天王星、金星、水星が並ぶ。足元の地球を含めれば太陽系の8惑星、つまり「太陽系オールスターズ」が大集合というわけ。

早起きはしばらく続けて欲しい。なぜなら日を追うごとに細くなっていく月が、惑星の間を移動していく様子を楽しめるから。梅雨時の今、お天気が心配でもある。でも「梅雨の合間の雨上がりの空は透明度が高く、晴れると綺麗に見えることもある。あきらめずに早起きしてチェックしてほしい」。そう語るのは昨年、皆既月食を解説して下さった大川拓也さん。天文雑誌編集長、国立天文台広報普及員などを経て、現在はJAXA宇宙科学研究所でお仕事をされている。宇宙や天文に関する知識が豊富でその解説はわかりやすく、何より「多くの人に星空を楽しんでほしい」という天文愛にあふれる。小学生の頃から惑星の配列を観察、記録してきた大川さんに惑星集合を楽しむコツや、過去の惑星集合のエピソードを聞きました。

2022年6月18日東京の日の出1時間前の空。「肉眼での観察はできない暗さですが、NASA探査機が接近した小惑星ベスタ、『はやぶさ2』が目指す小惑星2001CC21、NASAの小惑星探査機がサンプルを持ち帰る小惑星ベヌーなども」。黄色い線は太陽が一年かけてめぐる天球上の通り道「黄道」を表している。(提供:大川拓也、星図は StellaNavigator / AstroArts で作成)

今回、明け方の空に勢ぞろいする太陽系の惑星たちの中で、肉眼で見える明るさなのは水星、金星、火星、木星、土星の5惑星。ただし大川さんによると「水星は空の低いところにあるので、地平線近くまでよく晴れていないと見つけにくい。双眼鏡で探すのがよいでしょう」とのこと。

国立天文台のウェブサイトによると、天体を観察しやすい目安は地平線から10度以上。6月18~27日まで、日の出30分前の水星の高度は8度を超える(東京の場合)。ただし27日以降、高度は低くなるが明るさは徐々に増すという。水星を見つけるコツは?「東の地平線近くまで開けた場所を探した上で、まず明るい金星を見つける。その左下方向に水星を探しましょう。なかなかチャレンジングですが、太陽系の惑星すべてを目撃するには、水星を確認できたかどうかがポイントになる。トライしてみてはどうでしょう」(大川さん)

天王星の明るさは約6等。目の良い人が最高条件の空のもとでも確認できるかどうかというギリギリの明るさだ。「今回、惑星が勢ぞろいする時間帯は明け方で空が明るくなり始めているので、肉眼で見るのは厳しい」と大川さん。位置をしっかりと確認した上で、双眼鏡や望遠鏡で見るのがよいでしょうとのこと。海王星は約8等なので望遠鏡向きだ。

「木星・土星・天王星・海王星はこれから夏や秋、夜中の方が真南によく見えます。火星は今年12月に地球に最接近するので、冬にはもっと明るく見やすくなります」。大川さんは、今回の惑星大集合で惑星に興味をもったら、それぞれの惑星の観察に適した時期や時間帯に、改めてじっくりと見るのがいいでしょうとアドバイスする。

2022年4月末~5月初旬は夕方の西北西の空に「すばる(プレアデス星団)」と水星が見えていたそう。大川さん撮影。(提供:大川拓也)

ところで今回の惑星大集合は、夜空にほぼ一直線上に見えていることに気付くだろう。これは惑星たちが太陽の周りのほぼ同じ平面上を公転していて、それを同じ平面上にある地球から見ているから。「黄道面と呼ばれますが、その平面付近を惑星だけでなく、小惑星も含めた多くの天体が回っている。惑星も小惑星も、元々は太陽系を誕生させた巨大なガスやチリの円盤(原始惑星系円盤)の中で生まれてきたもの。約46億年前にあった一つの大きな円盤が、惑星などの天体に変化した姿を今見ているのだと頭に描きながら眺めてみましょう」。星空が違って見えてくるかもしれない。

おすすめは月と惑星との共演―月×金星×プレアデス星団も

惑星大集合を最大限に楽しむために、大川さんのおすすめは「惑星と月との共演」だ。

「まずは6月22日。月と木星が並びます。木星はこの時期マイナス2.4等とかなり明るく輝きます。『早起きしていいものみたな~』とお得感があるような眺めが見られるでしょう」。翌日23日、月は火星の近くへ。明るさは0.5等で火星としてはまだそれほど明るくないけれど、「月が並ぶことで火星が見つけやすくなる」そう。

6月22日の日の出約1時間前の空(東京では3時半頃)。月と木星が並ぶ。「早起きしてよかったと思えるはず」と大川さん。(提供:大川拓也、星図は StellaNavigator / AstroArts で作成)

そして大川さんイチオシは6月24~26日の月と金星の接近。「26日には月齢26.3のうんと細い月の近くに、ものすごく明るい金星がある。綺麗な眺めになるはずです。双眼鏡がある方は近くのプレアデス星団(和名すばる)にもぜひ向けてみて下さい」(大川さん)。「天空の宝石箱」とも呼ばれる「すばる」。星が集まっている様子が見られる美しい星団だ(低空にある時は双眼鏡を使うのがおすすめ)。早起きして、3つの天体のランデブーを目に焼き付けたい。

2022年6月26日明け方、金星と細い月、近くに「すばる」。(提供:大川拓也、星図は StellaNavigator / AstroArts で作成)

過去には「大地震が起こる」と大騒ぎ—天文学用語でない「惑星直列」

惑星が夜空に集い、一望できる惑星集合。過去には「惑星直列」などという言葉でセンセーショナルに取り上げられ、大騒ぎになったことがあった。例えば1982年。当時の新聞記事を保管していた大川さんに見せて頂くと、「3月に太陽から見て、太陽系9惑星が95度の中にすっぽりと入ります」(当時は冥王星も惑星に含まれていた)とし、95度の扇の中に全惑星が入るのは180年ぶりと説明。米国の天文学者らが「惑星直列」によっておこる潮汐力の変化が地殻に影響を与え、ロサンゼルス郊外で大地震が起こるという仮説を発表したが、否定的な意見が多く「そのような影響を受けることは考えられない」という東京天文台(現在の国立天文台)のコメントを紹介している。

別の新聞記事では「惑星直列」の震源地アメリカでは、天文台に問い合わせが殺到、著名な天文学者を動員して天変地異説の打ち消しに務めるものの騒ぎが収まる気配はなく、避難しようとした人まで現れたと書かれている。

ありがちな太陽系のイメージ図。太陽系の惑星が完全に一直線に並ぶことはありえない。(提供:NASA/JPL)

大昔ならともかく、たった40年前にそんなことが⁉︎と驚くだろう。そもそも天文学的に惑星が完全に直列する現象はありえないし、「惑星直列」という言葉自体、天文用語にはない。

しかし米国だけでなく、日本でも(避難するほどではないが)同様の騒ぎが起こっていた。例えば2000年5月、「惑星が直列する」というニュースについて、国立天文台に問い合わせが殺到した。世紀末という時期も影響したかもしれない。当時、大川さんは国立天文台広報普及室で、一般からの質問に答える電話番を担当していた。

「受話器を置いたらすぐ鳴るという感じで、一般からもメディア関係者からも問い合わせが殺到しました。『何年ぶりですか』『地球に影響ありますか』などの質問が多く、そのたびに複数の惑星が完全に一直線上に並ぶわけではないという事実や、過去に地球への影響があるとする説が世間を騒がせたことがあったが、その根拠は否定されていることなどを説明しました」と大川さん。国立天文台は「直列」と言いたがるメディアの対応に追われた。一般の人の中には、自分の身の回りに起こったことが惑星直列の影響ではないかと考える人もいたそうだ。

こうした誤解を解こうと、国立天文台は天文ニュースでしばしば不安を払拭する情報を発信している。例えば2000年3月2日の天文ニュース(330)。「まず知っていただきたいのは、たくさんの惑星が完全に同一方向にくることは、過去も将来もあり得ず、直列といっても見かけ上せいぜい数10度の範囲に集まるにすぎないことです。さらに、その時の潮汐力などの合計が地球に災厄を及ぼすレベルには遠く達しないことも忘れてはなりません。『惑星直列によって災害が起きる』という心配は全く無用のことです」と言い切っている。

「惑星直列」や惑星の集合について、次はいつか、どのくらいの頻度で起こるかもよく寄せられる質問だと同ニュースに書かれている。それは「どのくらいの範囲に集まった時を直列とみなすのか」という定義によって異なり、一概に答えられないとの答え。確かにその通りである。

ちなみに2つの惑星について考える時には、太陽から見て2惑星の方向が一致する「会合」という瞬間があり、会合から次の会合までの時間間隔を会合周期という。「それぞれの惑星の会合周期を考え、その最小公倍数をとれば、それが(惑星直列の)周期になるはずだといわれる方もおります。しかし上記5惑星(水、金、火、木、土)で計算しただけでも、217億年という宇宙年齢よりも大きな値が出てきますから、これは現実的な回答にはなりません」(国立天文台・天文ニュース(330)より)。5惑星の会合は計算では217億年と出るが、事実上起こらないと言える。

しかし、次の惑星集合はいつ見られる?と気になる気持ちもよくわかる(しつこい)。私を含むそんな人のために、大川さんがとっておきの惑星の並び方を見つけてくれた。それは2098年6月30日。なんと宵空に「月火水木金土」の曜日の順番に、月と惑星が並ぶ。(ちなみに日没前昼間なら太陽を含めて「日月火水木金土」の順番に並ぶそう)。今から76年後。ぜひ長生きして、見たいものです。

2098年6月30日、日の入り70分後の西の空(東京)。西北西から西南西の方向に向かい、月から土星までが曜日順に並ぶという稀有な眺めをぜひ見たい。(提供:大川拓也、星図は StellaNavigator / AstroArts で作成)

11月に今年大注目の天文現象。皆既月食中に天王星が月に隠れる「天王星食」

最後に、今年後半に向けて注目すべき天文現象について大川さんに聞いた。「今年大きな話題となるのは、11月8日に起こる皆既月食です。月食中の月に天王星が隠れる『天王星食』が一緒に見られるという、大変珍しい現象です」とのこと。「全国の公開天文台は、11月の皆既月食に向けて盛り上げようとしています。各地で観測が行われ、生中継やネット配信で盛り上がるでしょう」とのこと。

天王星はNASAの観測画像でしか見たことがない方も多いはず。「望遠鏡で眺めると、青緑色の独特の色をしています。天王星を見たことがない人も、月に隠れる前と後はじっくりと見られるチャンスです」(大川さん)

まずは6月の惑星大集合から。早寝早起きを習慣にして、夜明け前の空に惑星を探してみましょう。「惑星は日々動いています。太陽系の惑星すべてが夜空に一度に見渡せるのは貴重な機会。これをきっかけに夜空に目を向けてみませんか」と大川さんは呼びかけている。

雲間からとらえた5月3日明け方の惑星たち。大川さんが都内で撮影。6月中旬からはさらに多くの惑星が加わる。(提供:大川拓也)
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