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ライター 林 公代 Kimiyo Hayashiライター 林 公代 Kimiyo Hayashi

それぞれの道で月へ、その先に広がる未来
~ ispace 氏家亮 × JAXA 内山崇

株式会社ispace CTO(最高技術責任者)氏家亮さん(左)と、JAXA自動ドッキング技術実証プロジェクトチーム・ファンクションマネージャ内山崇さん(右)。2人はJAXAでともに働き、今はそれぞれの立場で月を目指す「同志」。

9月7日、H-IIAロケット47号機が打ち上げに成功!JAXAの月着陸機SLIMの月への旅が始まった。SLIMは2024年1~2月に世界初のピンポイント月着陸を目指す。インドは8月末、2回目の挑戦でついに月着陸成功。そしてispaceは来年、2回目の月着陸に挑む。NASAや日本などが進める有人月探査プロジェクト「アルテミス」も来年、初めて有人月周回飛行を行う予定だ。世界は今、月着陸ラッシュなのだ。

ispace氏家亮氏×JAXA内山崇氏の対談後半では、アルテミス計画に貢献する日本の宇宙船について、そして「ともに目指す月」について聞いた。

月周回基地に自動ドッキングしてモノを運ぶ宇宙船!

月周回有人拠点ゲートウェイ(中央)に自動ドッキングするゲートウェイ補給機(左)(※画像はHTV-X)。(提供:JAXA)
内山さんが今、なさっている仕事を教えてください。
内山崇(以下、内山):

今、JAXAではISS(国際宇宙ステーション)に荷物を運ぶ新しい宇宙船「新型宇宙ステーション補給機(HTV-X)」を開発中ですが、HTV-Xの2号機で技術実証する予定の自動ドッキングシステムの開発プロジェクトをやっています。

もう一つがHTV-XG。アルテミス計画で月周回有人拠点ゲートウェイ(Gateway)に自動ドッキングシステムを使って物資を届ける日本の補給機を、HTV-XGと呼んでいます。HTV-XGプロジェクト立ち上げ前の概念検討をしています。

内山さんと言えば、2020年までISSへの物資補給で活躍した宇宙船「こうのとり(HTV)」フライトディレクタの印象が強いですが、フライトディレクタの仕事は卒業なさったんですね。「こうのとり」はISSにいる宇宙飛行士がロボットアームでキャプチャ(捕まえること)していました。ゲートウェイには自動ドッキングするんですか?
内山:

はい。ゲートウェイは常時人がいるISSと違って、必要な時だけ人がいます。HTV-XGが行ったときに人がいない可能性が高い。だから宇宙飛行士にアームで捕まえてもらうことができず、自律的に自動ドッキングする必要があります。この検討を彼(氏家さん)とやっていました。

氏家亮(以下、氏家):

はい。2014年頃、最初の検討をやってましたね。自動ドッキングのシミュレータも作っていました。その時は正直、自動ドッキングは海のものとも山のものとも言えないなと思ってましたが、ちゃんとプロジェクト化されたんだなと。色々な障壁もあって苦労されているのをわかっていたので、すごい良かったなと思いました。

内山:

自動ドッキング技術の獲得には色々な方法があって、外から買えるものは買ってくればいいという考え方もある。でも我々は、自分たちの技術としてもつべき重要な技術だと思っているので、ドッキング機構も開発するという決断をして進めています。過去にトラブルが起きたとき苦労しているので、ブラックボックスでなく自分たちで作ろうという選択です。

SpaceXがISSに荷物を運んでいるカーゴドラゴンも自動ドッキングしていますよね。あのドッキング装置みたいなものですか?
内山:

中身の作り方はちょっと違いますが、基本的には同じです。彼らはドッキングシステムだけを売ることはしませんが、我々はドッキングシステムを販売できるように国際標準の要求を満足するものを作る。うまくいけば他国の宇宙船に買ってもらえるように。

そうですか!HTV-X2号機ではどんな実験を行う予定ですか?
内山:

まず、ISSへ物資を届けるときは、通常通り宇宙飛行士がロボットアームでキャプチャします。そのあとでいったんISSから離れて、再度アプローチして自動ドッキングする。世界で初めてキャプチャ方式とドッキング方式を一機で行います。

楽しみですね~どんなところが難しいですか?
内山:

従来のキャプチャ方式だとISSの10メートル真下に相対停止させるのがゴールで、その先は宇宙飛行士に任せます。自動ドッキングの場合は、宇宙船が自ら安全に衝突する。着陸と近い。ドッキング直前に何かあっても引き返せないポイントがあるんです。そのポイントでどんな二つの故障の組み合わせが起こっても、ISSを壊してしまうような重大な事故を起こしてはならない。

自動ドッキングはゲートウェイに人がいないときに行うわけですよね。それでも安全要求は有人レベルで変わらないんですね。
内山:

同じです。基本的に人がいる施設なので、その要求は変わらないんです。

氏家:

HTV-Xは人が絡んでくるので、我々のような無人の着陸機とはまったく異なる次元の話が出てきますよね。有人だと、すごく厳しい安全要求の中で成立するものを作らないといけない。審査するのはNASAの人たち。NASA審査の経験がありますが、とんでもない人数で審査されるわけで、ispaceの月着陸機開発とは違う種類の大変さがあると思います。

2022年11月5日、JAXA筑波宇宙センターで実施した自動ドッキング技術実証試験の様子。ISSやゲートウェイ側が画像上、宇宙船側が画像下。内山さんによると、下からにょきにょきとのびているのが、宇宙船のドッキングを低衝撃で受け止めながらソフトキャプチャ(仮固定)できるドッキング機構システム。(提供:JAXA)
NASAでも自動ドッキングの試験を実施。NASAにはドッキングの際の無重力状態での宇宙船の挙動を模擬できる巨大なドッキング実験設備があるという。(提供:JAXA HTV-宇宙ステーション補給機 X(旧ツイッター)より)
自動ドッキングの試験を行っているんですね?
内山:

2021年度からつくばで予備試験をスタートし、2023年にはNASAで本格的な試験をしています。2023年3月まで試験を重ねて、かなり色々なことがわかってきました。

HTV-Xの2号機は今どんな段階ですか?
内山:

詳細設計フェーズです。まもなく設計を固めてフライト品の製作に入る予定です。HTV-Xの既存システムに、自動ドッキングシステムを追加するシステム設計を行っています。アームでキャプチャする時とドッキングでは、宇宙船の向きも違う。またISSの10メートル下に停止する制御と、宇宙船を立てた状態で衝突(ドッキング)しにいく制御は全く異なります。同じ機体をソフトウェアで切り替えて、キャプチャと自動ドッキングを実現します。

様々なルートで月へ

HTV-X2号機でキャプチャ方式と自動ドッキングの両方見られるのは楽しみですね。ゲートウェイに日本の宇宙船をドッキングできると、どんな世界が広がるのでしょう。
内山:

今まではISSまでしかモノを届けられませんでしたが、月周回拠点にモノを届けることができる。さらにほかの惑星にモノを届ける軌道間輸送機が、「こうのとり」から脈々と続く技術を拡張することで実現できます。

氏家さんはどう思われますか?
氏家:

ispaceは月面輸送を実現し、地球と月でエコシステムを作っていくというビジョンがある。それを自分たちだけでできるとは思っていません。ゲートウェイができてモノや人が地球から運ばれてきて、そこから月面にアクセスする。逆に月面からゲートウェイ経由で地球に戻る。そういうルートができることはエコシステムを発展し、地球と月の経済圏を作るための重要な要素だと思っています。

なるほど、色々なルートができることは重要ですね。
氏家:

はい。我々がやっているような月面に直接アクセスするサービスと、ゲートウェイを介して人やモノが行き来する世界ができると、物流とか人の流れができる。技術は違うが、行きつくところは同じなのかな。行きつく先で会えるといいかなと。

その先は?
内山:

今後、民間企業が参入して商業宇宙ステーションができたり、月探査が拡大したりすれば、商業宇宙ステーションや月にモノを運ぶ機会が増える。JAXAが一度しっかり技術開発できれば、それを活用して民間企業がどんどん安く、スピーディに輸送を行う世界が広がりますよね。

日本から人を宇宙へ!

ISSや月からネットショッピングができて、地上から荷物が届くかも・・
内山:

笑。さらに私はやっぱり有人、人の輸送にこだわりたい。貨物、つまり無人の輸送は実現できています。無人輸送技術に加えて有人輸送に必要な主な技術は、ロケットが打ち上げに失敗したときでも人が安全に脱出できる「アボート(緊急脱出)技術」と、人を宇宙から地上に帰す「帰還技術」です。すでに技術の蓄積があるので、それらの技術を獲得できれば人を乗せる安全性を高め、有人輸送の世界を切り拓けるんじゃないかと思っています。

日本は有人宇宙船を開発する技術はあると思うのに、開発の方針をとってこなかったですよね。
内山:

ところが今年6月に内閣府で閣議決定された宇宙基本計画で「有人輸送などに必要となる要素技術の開発を進める」と明記されたんです。

内閣府宇宙政策委員会宇宙輸送小委員会第二回会合(令和5年6月27日実施)資料より。有人宇宙輸送に必要な5つの技術要素のうち、獲得した技術と今後取り組む必要がある技術が整理されている。
それは画期的ですね!宇宙基本計画に明記されたことは、やらなければならない。
内山:

はい。他国の状況を見ても、インドも欧州も有人輸送に向けて具体的に動き出しています。日本も有人輸送にとりかかれるだけの技術的蓄積はあると思っています。何とかしたい。でも、これまでのように国だけが主導するやり方ではなく、民間と一緒にオールジャパンで進めるのが日本の一番いいやり方なんじゃないかと思います。既に、日本各地でスペースポート構想が出てきて、様々なビジョンが描かれている。国もそれをしっかり支援して、共に立ち上げていく道が一番効率的な進め方ではないかと思います。

ともに目指す月

JAXAと民間の役割分担については?
内山:

お互い強みと弱みがあると思っています。JAXAは組織の位置づけ上、動きが遅い一方、ispaceで氏家さんが苦労したような「何もないところからどうすればいいんだ」というのはなくて、どこかに巨匠がいて、「あの人に聞いてみたらいい」という人が必ずいる強みがある。うまく連携をして使えるところは使ってもらいたい。例えば、民間企業にJAXAの保有技術を使って、スピーディに進めてJAXAに先んじて実績を出してもらうとか、様々な連携の仕方があると思う。官民両輪で日本の宇宙産業の底上げをして発展させていきたい。

そういえば、ispaceさんのHAKUTO-Rミッション2のフライトモデル試験のためのランダー組み立てもJAXAの筑波宇宙センターで開始されたんですよね?
内山:

そのスピード感もすごくて。4月26日の着陸失敗会見の当日夕方に彼から連絡が来て「今度、筑波に行くのでお願しまーす」と。「あれ?何時間か前に、会見で涙流してたよな」と(笑)夕方にはもう復活して次に向けて動いている。

HAKUTO-Rミッション2の月着陸船フライトモデルの試験に向けた組み立てを、JAXA筑波宇宙センターで開始!(提供:ispace)
さすがのスピード感ですね。氏家さんはJAXAからispaceに転職して5年、打ち上げまで4年という短期間で月着陸を技術的に率いました。改めて振り返っていかがですか?
氏家:

そうですね。メンバーたちとコミュニケーションをとって方向を自分たちで決めて、常にスケジュールに追われる。やることだらけで、むしろやらないことを決めないといけなかった。やりがいはすごくあって、自分には合っていたのかなと思うけど大変でした。

内山さんから氏家さんへのエールを
内山:

スピード感もすごいですが、何より月着陸に日本の一民間企業がトライするところまできたこと自体、日本として喜ぶべきことだと思う。オールジャパンで日本の宇宙産業を盛り上げていっている中でものすごいことが起きた。絵に描いた餅じゃなくて、実際にミッションを行って、あそこまで行けた。次は必ず月着陸に成功できると思っています。

氏家さんから内山さんへのエールを
氏家:

最初に言いましたが、内山さんは志のある人。その志は有人宇宙船だと思っている。人類がどこまで到達できるのか?というのは一つの哲学。日本の中で実際どこまでやるのか。志を貫いてほしいし、できると思っています。私は私の目指すところがあるので、お互いにサバイブして独立して生き抜いていく中で、またいつか交わる機会があれば理想的かなと思っています。

氏家さんのやりたいこととは?
氏家:

今はispaceで月の着陸をやっている。実際に達成することが私の仕事だと思っている。石にかじりついても砕けちるまでやる。

最後に、月に行ってみたいですか?
内山:

私は行ってみたいですね。

氏家:

月かぁ…ランダーを着陸させたら、そのあとに自分が作った着陸船が本当に着陸してるか、「わぁ、着陸してるわ」と見に行ってみたい。

その時は内山さんらが進めた日本の有人宇宙船でぜひ。ありがとうございました。
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