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星空の散歩道

国立天文台 副台長 渡部潤一 Junichi Watanabe国立天文台 副台長 渡部潤一 Junichi Watanabe

 Vol.107

接近する火星を眺めよう

深夜を過ぎると夏の星座が、ずいぶんと高く上ってくる季節になった。そんな頃、南の空低くを眺めると、赤い星が一際目立っているのに気づくに違いない。地球に接近中の火星である。火星は地球のひとつ外側を回る惑星で、約2年2カ月ごとに地球へ接近する。ただ、接近の度に、その距離は異なる。というのも、地球の公転軌道はかなり円に近い形をしているのだが、火星の軌道は少しつぶれた楕円形をしているからである。そのため、接近時の距離も変化するのである。

今回、火星が地球に最接近するのは5月31日。その最接近時の火星と地球の間の距離は約7500万キロメートルである。夏に近づくときには、この接近距離は6000万キロメートルを割り込むほどの、いわゆる「大接近」となり、非常に明るくなって、世間の注目を浴びる。しかし、今回はそれほどの大接近ではなく、いわば「中接近」である。その意味で、それほど世間は騒がないだろう。ちなみに次回、2018年7月末には約5800万キロメートルにまで近づく大接近となる。

火星最接近時の位置関係(2014年〜2027年)(提供:国立天文台)

それでも、これだけの中接近となると、火星の輝きは全天のどの一等星よりも明るくなる。5月末の明るさは、マイナス2等に達する。ちょうど夏の星座であるさそり座からてんびん座にかけて動いているところなので、その赤さは、さそり座の一等星であるアンタレスとよいライバルとなる。アンタレスは赤色超巨星とよばれる種類の恒星で、もともとその名前も火星と赤さを競う敵という意味で、アンチ・マーズに由来している。ただ、アンタレスは1.0等なので、その差は3等。つまり16倍ほどの違いがあるので、火星の存在感にアンタレスも勝てない。

ちなみに、今年はこのあたりは賑やかである。というのも、もうひとつ別の惑星がいるからだ。ほぼ30年で太陽を一周する土星である。火星やアンタレスとは異なり、落ち着いた褐色っぽい色で、アンタレスよりもやや明るく、火星より暗い0等で輝いている。火星と土星はお互いにアンタレスに接近したり離れたりと、まるでダンスをしているかの如く、夜ごとに位置を変えていく。毎夜眺めていると、その変化が追えて楽しめるだろう。

接近中の火星を天体望遠鏡で眺めるのも楽しい。このくらい近づくと、その表面模様が見えるからだ。もともと火星の直径は地球の半分程度と小さいため、遠い時は天体望遠鏡でも表面の模様が見えるほど大きくならないのだが、今回のような接近になると、観察条件が良ければ、表面模様を見ることができるはずだ。 地球との最接近を迎える頃の火星のみかけのサイズは、19秒角ほど。これは土星の本体と同じ大きさである。ちなみに、火星の接近前後の数週間は、地球と火星の距離はそれほど大きく変わるわけではない。5月から6月にかけて、接近中の火星を天体望遠鏡で観察するチャンスとなる。

この機会に、ぜひ火星を望遠鏡で観察してほしい。赤く丸い火星の円盤模様の上に、暗緑色に見える模様や、極に白く輝く氷の極冠が見えたらラッキーである。ついでに、今年は近くにある土星も楽しめる。今年の土星は環が大きく開いていて見応えがあるはずだ。望遠鏡を持ってない人は、各地の公開型天文台でも、火星の観望会が企画されるはずなので、問い合わせてみるとよいだろう。そういったところで、大きな望遠鏡で火星を見せてもらえれば、感激も大きいかも知れない。