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星空の散歩道

国立天文台 副台長 渡部潤一 Junichi Watanabe国立天文台 副台長 渡部潤一 Junichi Watanabe

 Vol.133

火星大接近

火星が近づいてきた。7月末には15年ぶりの大接近を迎える。すでに、夜空ではとても明るく、そして赤く輝いているので、お気づきの方も大勢いるはずだ。

火星は地球のすぐ外側を回る惑星である。地球は公転速度が火星よりも速いために、約2年2ヶ月ごとに火星を追い越す。そのたびに地球は火星に接近する。そのため、火星の接近そのものは珍しくはない。しかし、火星の軌道は惑星の中でもかなり歪んだ楕円のため、地球が追い越すタイミングによって、その接近距離が大きく異なる。特に、今年のように日本が夏に火星を追い越す場合には、その接近距離は6000万kmを割り込む大接近となる。普段から、そこそこ明るい火星なので、それが近づけばとても明るく、目立つようになって、一般の人の目を引くことになるわけだ。逆に、日本が冬に火星を追い越すときには、その接近距離は1億kmを越えてしまうので、あまり目立たない。小接近と呼ぶ所以である。(ただし、天文学上で大接近、小接近という言葉が正確に定義されているわけではない。)

今年の火星の大接近は7月31日。地球との距離は5,759万kmとなる。前回の大接近時、15年前の接近距離5576万kmには及ばないものの、かなり近い条件と言えるだろう。そして明るさはマイナス2.8等となり、夜空では木星や土星よりも目立つ星となるのだ。ただ、大接近と聞くと、なんだかその日だけが眺めるチャンスと思われがちだが、けっしてそうではない。実は地球が火星を追い越す大接近前後、マイナス2等以上で明るく輝く状況は6月から9月頃まで続くからである。いや、むしろ夏休みの子どもたちにとっては、大接近後の方が観察条件が良くなるといえるだろう。

実は大接近時には太陽ー地球ー火星とほぼ一直線に並んでいるため、火星が南の空に高く上ってくるのはちょうど深夜となる。つまり、かなり夜遅くならないと火星は十分な高さまで上ってこないのである。しかし、半月後だと、これが1時間早くなり、8月末になると2時間ほど早くなる。つまり、夏休み後半ほど火星が上ってくる時間が早まるのだ。8月後半には、日没後暗くなればすぐに南東の空に輝き出す。夏休みの自由研究に切羽詰まって、なにかをしなくては、という子どもたちにとって、火星はうってつけのターゲットといえるだろう。そんな大接近をした火星をつかった自由研究のテーマを二つ紹介しよう。ひとつは火星の位置の変化を追うことだ。火星の動きは速いので、星座を背景にした火星の運動をスケッチしたり、デジタルカメラで撮影すれば、よくわかる。「惑星」の所以である、火星の動きを観察するのは、手っ取り早い自由研究のテーマになる。

もうひとつが天体望遠鏡での火星の表面模様の観察だ。こちらは、天体望遠鏡が必要となるのが難点ではあるが、もし望遠鏡が活用できれば、ぜひ火星に向けて、その表面を観察して欲しい。適切な望遠鏡で、気流が落ち着いていれば、何かが見えるはずである。最も見やすいのは火星の極冠。大気中の二酸化炭素がドライアイスとなって凍り付いて、太陽の光を反射してぴかぴか光っている様子が見えるかもしれない。運がよければ、表面にある明暗模様も見えるかもしれない。暗く見えるところは、玄武岩台地で風化を受けていない場所で、明るく赤い領域は赤い砂で覆われている場所である。火星の赤さは、砂に含まれる鉄分が酸化して、赤さびになっているためである。天体望遠鏡がない場合は、近くの公開されている天文台や、科学館などに問い合わせると良い。火星の観望会が企画されているはずである。申し込み制が多いので、もし抽選などに外れてしまったら、幕張で開催される「火星観望会」(8月1日、2日)に行こう。こちらは申し込み不要で、天体望遠鏡を多数並べて、見せる予定である。

2003年の大接近時の火星。(提供:国立天文台)