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星空の散歩道

国立天文台 副台長 渡部潤一 Junichi Watanabe国立天文台 副台長 渡部潤一 Junichi Watanabe

 Vol.142

ブラックホールが見えた!

ブラックホール。どんなものでも飲み込んでしまう、モンスター天体だ。あまりにも重力が強いので、簡単に言えば光さえも出てこられないので、黒い穴:ブラックホールなのである。ただ、一口にブラックホールといっても、その重さ(=大きさ)は様々だ。宇宙初期にはごくごく小さなブラックホールも理論的には存在したと思われていて、そういった小さなブラックホールは、あのホーキング博士によれば、飲み込むだけで無く、エネルギーを吐き出すことによって消滅してしまうことがあったかもしれない、という。現在は、そのような極小ブラックホールの存在は確認されていないが、太陽の何十倍もあるような恒星の生涯の終わりに生まれたようなブラックホールの存在は確認されている。こうしたものを恒星質量ブラックホールと呼ぶが、われわれの近くにある代表的なものが、はくちょう座X-1である。これは太陽の15倍程度の重さのブラックホールとされているが、その名前からわかるように強力なX線を放っている。

ブラックホールは何でも吸い込むはずなのに、どうしてX線が出ているかと疑問を持つ方もいるかもしれない。実は、ブラックホールが大量の物質を飲み込む時には、しばしば降着円盤というものをつくり、その中で物質が押し合いへしあいのおしくらまんじゅう状態になる。このとき物質は高温になって電波やX線を放つのだ。いってみれば、飲み込まれる前の"悲鳴”のようなものである。

さて、ブラックホールはものを飲み込み続けるとどんどん重く、大きくなる。そんな巨大なブラックホールが、銀河系の中心部にある。その質量は太陽の400万倍と言うから想像を絶する。銀河系よりも大きな銀河の中心には、さらに大きなブラックホールがある。かつて、われわれ国立天文台の研究者が暴いたのが、りょうけん座の銀河M106の中心にある巨大ブラックホールで、太陽の3600万倍というから凄まじい。このくらいの大きさになると、物質が飲み込まれていれば、逆にまわりの物資が光っているために、ブラックホール本体がシルエットになって見えるかもしれない。ブラックホールから光が脱出できない球面をイベント・ホライズン(事象の地平線)と呼ぶ。いわばあの世とこの世を分け隔てる面である。巨大ブラックホールでは、ある程度の大きさになるため、まわりには落ち込もうとする物質が高温で電波やX線で光っているので、巨大ブラックホールのイベントホライズンなら、それを背景に黒く浮かび上がるはずだ。

ブラックホールを直接、見てみたい。そんな夢に挑んだプロジェクトがイベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)プロジェクトである。国立天文台が欧米と共にチリで運用しているアルマ望遠鏡を中心に、アメリカ・ハワイ、アリゾナ、メキシコ、スペイン、そして南極など、世界各国の8つの電波望遠鏡を地球規模で組見合わせることで、空間分解能をあげて、月面に置いたゴルフボールが見えるほどの視力300万を達成し、初めてブラックホールの観測に挑んだのである。そして、その成果が4月10日に発表された。見事に、おとめ座銀河団の中心にある巨大な楕円銀河M87の中心に存在するブラックホールがついに見えたのだ(下画像)。その重さは、なんと太陽の65億倍だという。今後も、われわれの銀河系の中心にあるブラックホールが見えてくるかもしれない。われわれ人類はついにブラックホールを直接観測する時代に入ったのである。

イベントホライズンテレスコープで観測した銀河M87の中心の巨大ブラックホールの影(提供:EHT Collaboration、国立天文台)