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星空の散歩道

国立天文台 副台長 渡部潤一 Junichi Watanabe国立天文台 副台長 渡部潤一 Junichi Watanabe

 Vol.143

月や火星にも地震がある?

われわれ日本人にとって地震はおなじみだが、しばしば国立天文台にやってくる海外の方の中には、イタリアや台湾など地震国を除いて、結構、小さな地震にとても驚いたりする方もいる。慣れていないと、相当に驚くのである。

さて、そんな地震であるが、他の天体にもあるというと驚く人もいるかもしれない。実は地質学的活動がほとんどなくなっていると考えられている月でも地震(月の場合はしばしば月震とも呼ぶ)はある。アポロ計画では、月に地震計を持っていって、観測を行ったのだが、結構な頻度で観測されてきた。しかも、複数の地震計である程度の震源の深さもわかっている。深発月震(震源の深さが800〜1100キロメートル)、浅発月震(深さ300キロメートル前後)、表面月震(隕石などの衝突によるもの)に分けられる。深発月震は、マグニチュードでいうと1〜2程度で地球の地震に比べると小さいが、7年間で3000を超える例が見つかっている。かなりの頻度でおこっていること、起こり方が29.5日周期をもつことから、地球との位置が関係している。これに対して、浅発月震は、マグニチュード4に達するものもあり、規模が大きいが、7年間の観測でも28例しかないので、その起源はよくわかっていない。また、震源がよくわからない例も7000例を超えている。

ごく最近になって、浅発地震の一部が、地質学的に新しく形成された表面の地形と関係があることをアメリカの研究者グループが突き止めた。水星の表面にあるリンクルリッジと呼ばれる崖のような地形は、形成初期から水星が縮んだことを示しているが、月も同様に縮んでいて、その結果、水星ほどではないが表面に「しわ」ができ、それが断層となって浅発地震を引き起こしているようだ。彼らが特定した例のひとつは、月の北極近くに位置する氷の海。月探査機ルナー・リコナイサンス・オービター(LRO)が撮影した画像の解析と、アポロ計画で得られた月震のデータを照合した結果、ここが水星のリンクルリッジに相当するという。氷の海はもともと大きなクレーターの一部である。内側が冷えて収縮すると、表面も縮もうとするが、クレーターのようなもろい地殻の部分にしわ寄せがくるため、地殻の一部が隣接する地層の上へと押し上げられる、いわゆる衝上断層が発生する。こうした断層活動が今も活動している可能性はかなり高いようだ。28例の浅発地震のうち、7例は、こうした比較的、若い断層と思われる地形の地殻で起きているという。

地震が発生している地球以外の天体は月だけではない。2018年11月に着陸に成功した火星探査機インサイトが、はじめて火星の地震をキャッチしている。インサイトは、移動することができない探査機だが、ロボットアームによって着陸機近くの地面に地震計「SEIS」に設置した。強風や温度変化を避けるためのシールドとして半球状のカバーに覆われている。そして2019年3月14日、4月6日、10日、11日に弱い地震を検出したという。これは明らかに表面の風による震動とは異なっており、内部で発生した地震と断定し、震源を突き止めるべく、データの分析が続けられている。今回検出された地震は、揺れの大きさや継続時間が長く、アポロ計画で観測された月震の特徴とも一致している。火星でも地球のようなプレート運動が無いために、月と同様に天体そのものが冷えて収縮するのが原因の地震と考えてよいだろう。

観測機器を地面に設置した状態の火星探査機インサイトのイメージ図。手前の半球状のカバーに覆われている機器が地震計「SEIS」。(提供:NASA/JPL-Caltech)

この観測により、”火震学”という新たな分野が幕を開けたといってもよい。もともとの探査機の名前からわかるように、インサイトの目的は火星の内部を調べることにある。地震計「SEIS」も、その観測装置のひとつである。アポロ計画の時のように複数の地震計が設置されているわけではないため、震源の特定はなかなか難しいだろうが、波形などの分析で、内部構造に関するヒントが得られることは間違いない。