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星空の散歩道

国立天文台 副台長 渡部潤一 Junichi Watanabe国立天文台 副台長 渡部潤一 Junichi Watanabe

 Vol.149

田部井淳子さん、冥王星の山に命名

星の名前、あるいは小惑星や彗星などの名前は公式には国際天文学連合のみが扱えることになっている。しばしば、月の土地を売るとか、星に名前を付けて、それなりの代金をとっている業者もあるが、すべて本物らしいようには見えても、実質的には遊びであり、国際天文学連合では、このような行為を一切認めていない。

一方で、研究をする上でも星や天体に名前がついていないと不便である。恒星の場合、番号や記号はそれなりに機械的に付けることができるが、何しろ味気ないし、長い事も多い。おおいぬ座の一等星、シリウスのカタログ名は、たくさんあるが例えばヘンリードレーパーカタログでは、HD 48915であるが、赤外線の2MASSカタログになると、J06450887-1642566となる。これでは論文に書くときも不便で仕方ない。ちなみに国際天文学連合は恒星の固有名称も決めはじめている。

新発見の天体、彗星や小惑星あるいは探査によって明らかになった天体の表面地形に関する命名のルールは厳格に決まっている。こうした天体や地形は、新しいものであり、名称を早くつける必要もあり、命名に関わる作業部会も結構、忙しい。探査が成功し、その表面が明らかになると、そこで研究論文を書き始めるわけだが、やはり特徴のある地形には名前が欲しいわけである。それで、五月雨式に命名提案がやってきて、それについて審議をすることになる。実は私は小天体の地形の命名に関する作業部会のメンバーなのだが、最近は冥王星探査機「ニューホライズンズ」チームからの提案審査で嬉しいことがあった。

冥王星については、すでに地形には「宇宙探査ミッション、歴史的探検家、冥王星やカイパーベルトに関わる科学者や技術者、神話に因むもの」とテーマ設定されており、2017年9月に最初の14の地形について命名を承認している。冥王星の発見者に因む「トンボー領域(Tombaugh Regio)」や、旧ソ連の人工衛星からの「スプートニク平原(Sputnik Planitia)」、登山家のシェルパ、テンジン・ノルゲイとニュージーランドのエドモンド・ヒラリーにちなむ、「テンジン山とヒラリー山(Tenzing Montes and Hillary Montes)」などが承認された。日本に因む名前として「ハヤブサ大陸(Hayabusa Terra)」が認められたのは嬉しいことだった。しかし、今回2019年10月に提案されたのが、日本の誇る登山家・田部井淳子さんの名前を冥王星の巨大な山につけることだったのだ。田部井さんと言えば、エベレスト登頂を女性で初めて成し遂げた偉人である。

ハート型の領域、スプートニク平原の南端にある山塊を「タベイ山(Tabei Montes)」とすることを提案してきた。ニューホライズンズ探査機チームによれば、冥王星の山はほとんどがスプートニク平原に集中しているが、この山塊だけ平原の外側にあるそうで、冥王星の山の起源を探る上で重要であるとのことで、命名を早くしたかったようである。

冥王星の表面の地形とこれまで命名された場所。中央の白いハート型のスプートニク平原の南にTabei Montesがある。(提供:NASA/Johns HopkinsUniversity Applied Physics Laboratory/Southwest Research Institute)

ところで、山の名称にはMonsとMontesとがあるのだが、単独の山の場合は前者を、大きな山脈に連なるような山塊には後者を用いることが多い。今回のタベイ山の場合は、直径だけで105kmもあるので、英語では後者になったが、日本語では山地、山塊、山どれでも間違いではない。

いずれにしろ、この提案が国際天文学連合の小天体の表面地形命名作業部会に提出され、委員に回覧がはじまったのは10月25日だった。その後、委員の先生方から一切の異論は無く、満場一致で採択された。田部井さんは、筆者と同じく福島県出身であり、とても誇らしく、そして嬉しく思ったものだ。田部井さんは2016年に星になってしまったが、いまごろ彼女の魂が、この山に上っているかもしれない。

Tabei Montesの拡大図。直径が105kmもある巨大な山塊。(提供:NASA/Johns HopkinsUniversity Applied Physics Laboratory/Southwest Research Institute)

さて、いよいよ次回は150回目の最終回である。先日の書道家・武田双雲氏との対談の様子も紹介して筆を置きたいと思う。