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ライター 林 公代 Kimiyo Hayashiライター 林 公代 Kimiyo Hayashi

宇宙旅行で実感する「地球への畏敬の念」—ベゾス氏が語る宇宙進出の意味

7月11日、スペースシップ2船内で浮遊するリチャード・ブランソン氏。(提供:Virgin Galactic)

中継をドキドキして見守っていた。7月11日(日本時間12日未明)のヴァージン・ギャラクティックの飛行では、初めて4人の乗客と2人のパイロット、合計6人が宇宙船スペースシップ2に乗り込んだ(これまでは最大3人)。そして7月20日のブルーオリジンの宇宙船ニューシェパードの飛行では、有人初飛行にも関わらず、4人もの乗客が乗り込んだのだから。しかもそれぞれの宇宙船には創業者が乗り込んでいる。もし失敗したら‥そのダメージははかり知れない。

この果敢なチャレンジを両社は全世界に生中継した。そして見事に成功を果たしたのである。スペースシップ2は高度約85kmに、ニューシェパードは高度約107kmに到達した。先に飛んだヴァージン・ギャラクティック創業者リチャード・ブランソン氏は「私はかつて星を見上げる子どもだった。大人になった今、私は宇宙船の中にいて、美しい地球を見下ろしている。次の世代の夢見る人たちよ、宇宙旅行が現実になった今あなたが何ができるか想像してみて下さい」と宇宙船内からメッセージを送った。71歳にして夢を叶えた男は地球を見つめながら「信じられない」と繰り返した。その笑顔の清々しさは羨ましいほどだ。

ヴァージン・ギャラクティックは多数のカメラを船内に搭載し、歴史的フライトのクライマックスを様々な角度からとらえていた。スペースシップ2の船内から地球の光景に見入るブランソン氏や社員たちの様子をとらえた動画は、着陸後まもなく公開された。

(提供:Virgin Galactic)

一方、ブルーオリジンの宇宙旅行が興味深かったのは、飛行前から着陸までノーカットで生中継されたこと。4人の搭乗者たちが打ち上げ45分前に西テキサス州にある発射場内訓練センターから出て、同35分前に発射台の階段を歩いて登り(!)、宇宙船へと通じる通路を鐘をならして渡る(乗船時に鐘を鳴らすのは海軍の習慣と思われる)。

リフトオフ後ぐんぐん上昇する宇宙機、宇宙機から撮影した大地、宇宙到達後パラシュートを開きカプセルがタッチダウンする様子。着陸後10分も経たないうちに、カウボーイハットをかぶったジェフ・ベゾス氏が元気に船外へ。18歳の青年オリバー・デーメンさん(史上最年少の宇宙旅行者)、82歳(同史上最年長)のウォーリー・ファンク氏、そしてジェフ・ベゾス氏の弟のマークさんが続いた。まるで「ちょっとそこまで行ってきた」かのような気軽さに驚いた。

だが肝心のニューシェパード船内の様子は中継されなかった。世界が注目した船内映像が公開されたのは、着陸後の記者会見でのこと。だが私が関心を抱いたのは、ジェフ・ベゾス氏が饒舌に語った宇宙飛行についてだ。

7月20日、宇宙飛行中のニューシェパード船内で。ジェフ・ベゾス氏(写真右)と弟のマーク氏(中央)は手のひらに「HI MOM」とお母さんへのメッセージを。左端は史上最年長で宇宙を飛んだファンクさん。(提供:Blue Origin)

無重力環境はPeaceful(平和)—人間が進化したように感じた

10分半の宇宙飛行、そのうち無重力状態は約4分間。その体験は「高い期待を劇的に超えていた」とベゾス氏は振り返る。まず「大きな驚きだった」のは無重力体験。

「(無重力状態にいることが)、当たり前(normal)に感じた」と彼は表現する。まるで、人間が無重力という環境に適応し「進化したかのように」。そんなことは不可能だと頭ではわかっていたのだが、「とても穏やかで平和な気持ちに満たされた」と。「無重力状態で浮遊していることは(地上の)1G環境下にいるよりも、格段に良い感覚だった」と続けた。

これは想像できる。私も数年前に無重力飛行を体験した。無重力状態に入ってすぐ、実際は無重力になる直前の0.1~0.2Gぐらいで身体が浮かび上がり始めた瞬間、重力から解放され、なんともいえない自由と幸福感に包まれるのだ。地上の重力環境下にいる時が特殊な抑圧された状況で、宇宙の無重力状態が生物本来の姿なんじゃないかと思えるほどに。

地球に感じた「畏敬の念」

着陸後、クルーカプセルの窓越しにサムズアップして見せるジェフ・ベゾス氏。(提供:Blue Origin)

そして、ベゾス氏にとって最も深淵なる体験は、地球を見ること、地球の中でもとりわけ「地球の大気を宇宙から見ること」だった。

「宇宙に行った人は誰もが、地球の美しさと同時にその儚さに心打たれ、『畏怖の念』を感じ、変わらずにはいられない」。それは自分も誓って言えるとベゾス氏。「頭で知識として理解していることと、自分の眼で実際に見ることはまったく別の体験でした」。

具体的には「地球の大気層の中にいる時は自分の存在はとても小さく、大気は大量にあると感じていた。だが実際に宇宙から見ると、大気層はとても小さく薄く、はかないものだった。私たちは地球内を移動することによって、そのはかない大気にダメージを与えているのです」

そしてこう続けた。「私は宇宙への道を切り拓く。なぜなら地球は太陽系で唯一の素晴らしい惑星だから。私の子どもやその子供たちの未来のために、地球を美しいままにしておかなければならない」。そのために宇宙にインフラを築くのだと。地球から脱出するためではなく、地球を守るために宇宙に行くことを強調した。

ベゾス氏「大きなプロジェクトは小さくスタートする」

ベゾス氏のいうインフラとは何か。数々のインタビューで彼は壮大な計画を語っている。宇宙旅行直後のCBSのインタビューでは「重工業や環境を汚染するような産業は地球から遠ざけ、宇宙で行う。そのために何百万人もの人たちが宇宙で生活し働くインフラを作りたい」。ベゾス氏の言葉に「それはファンタジーでは?」とCBSのインタビュアーが突っ込むと、ライト兄弟が1903年に動力飛行機で初飛行を行ったときも、幻想に見えたはずだと反論。今はファンタジーに見えるかもしれないが、それは必ず実現できる。自分の生きている間ではないかもしれないが、と。

記者会見では、壮大なプロジェクトは小さく始めることが大事だとも語った。「amazonを始めた時と同じように」。そして、宇宙船ニューシェパードは、その先に続く彼の宇宙計画の最初のステップであることを説明した。

「ニューシェパードがなぜ垂直離着陸という飛行形態をとっているか、なぜ高度100kmまで往復するだけなのに最高性能の燃料である液体酸素/液体水素を使っているのか。それは、地球周回軌道用ロケット『ニューグレン』の練習台になるからです」と語る。

宇宙飛行後、ブースターの様子を見に来た4人。ニューシェパードのブースターの技術は地球周回用ロケット「ニューグレン」の2段目に活かされる。(提供:Blue Origin)

ブルーオリジン社は高度100kmまで往復する宇宙機「ニューシェパード」、地球周回軌道に衛星や有人宇宙船を打ち上げる「ニューグレン」、その先には「ニューアームストロング」ロケットを開発する計画だが、これらはその名の通り、アメリカ人で初めて弾道飛行したアラン・シェパード飛行士、同様に初の周回飛行を成し遂げたジョン・グレン飛行士、初の月面着陸を達成したニール・アームストロング飛行士の名前に由来している。(ニューシェパードの初飛行にはアラン・シェパード飛行士の2人の娘さんが招待されていた)ジェフ・ベゾス氏が過去のレジェンドの名前をロケットに使っているのは、その歴史を未来に繋いでいくという意思の表れであろう。

ニューグレンロケットの2段目はニューシェパード宇宙船が基本となる。そしてニューグレンもニューシェパードと同様に垂直離着陸を行い、ブースターは再使用する。そしてニューグレン、ニューアームストロングは燃料に液体酸素・液体水素を使う。すべては未来を見越した技術開発なのである。宇宙を目指すビジョンと戦略。スペースX社のイーロン・マスクは「火星移住」や「太陽系の複数の惑星に住むこと」を宇宙開発の目標に掲げるが、彼らは宇宙を目指すビジョンを掲げ、発信している。

宇宙を目指す他社との競争について聞かれたベゾス氏は、こう答えている。「競争ではない。近い将来もっとたくさんの宇宙企業が出てくるだろう。お互いに切磋琢磨し競いあい、多くの勝者が出る可能性があるのです」と。

ベゾス氏は年内にあと2回、ニューシェパードによる有人宇宙飛行を行う予定だと発表。今後、宇宙旅行をいくらで販売するかについては明言をさけたが、「売り上げは1億ドル(約110億円)に近づいており、宇宙旅行の需要は非常に大きい」と発言。今後ブースターを量産し、飛行頻度をあげる運用に取り組んでいくと述べた。

9月、クルードラゴンで民間人だけの飛行で「宇宙旅行時代」が本格化

今年9月、クルードラゴン「レジリエンス」で3日間の地球周回飛行を行う予定で訓練中のメンバーたち。(提供:Inspiration4)

高度約100kmのサブオービタル飛行は来年にも、商業フライトが始まるだろう。そして今年の9月には新たな旅先で注目の宇宙旅行が予定されている。以前の記事で紹介したクルードラゴン「レジリエンス」号による商業宇宙飛行だ。このフライトが画期的なのはプロの宇宙飛行士が搭乗せず、4人の民間人だけが搭乗すること。これも歴史的に刻まれる飛行になるはずだ。

プロが搭乗しない宇宙飛行が可能なのか。7月に行われた記者会見で、「レジリエンス」号に実際に搭乗した野口聡一宇宙飛行士に尋ねた。

「(自分たちが乗った)クルードラゴン運用初号機Crew-1の成功がもたらしたのは『宇宙旅行時代』です」まず野口さんはそう高らかに語った。クルードラゴンはトラブルがなければ、基本的に自動操縦で打ち上げから帰還まで飛行する。野口さんらの飛行中には「自動操縦がうまくいっているかの確認、マニュアル操縦への切り替えなどをテストした。宇宙飛行の経験者がまったくいない飛行は(1961年の)ガガーリン以来、久しぶり。うまくいくと思うし、うまくいくことを期待しています」と語った。

野口さんによると、9月に飛ぶレジリエンス号のセールスポイントは「巨大な天窓」。今回の飛行ではISSにドッキングしないため、ドッキング装置を取り外して、かわりにドーム状のガラスをとりつけた。どんな眺めが堪能できるのだろうか。米国の動画配信サービスNetflixがこのミッションをほぼリアルタイムで取材、ドキュメンタリー番組として配信することを発表。こちらも楽しみだ。9月の飛行が成功すれば、「レジリエンス号」は今後、宇宙旅行用の機体として使われることだろう。2022年には「プロの宇宙飛行士がガイドするISSへの旅」がクルードラゴンを使って実施される予定だ。

ヴァージン・ギャラクティック船内からの地球の眺め。この体験が人々の意識を変えないことがあるだろうか。ちなみに無料で同社の宇宙飛行に参加できるチャンスがある(詳しくは欄外リンク参照)締め切りは9月1日。(提供:Virgin Galactic)

様々なタイプの宇宙船で旅行先もコースも複数選べる時代になっている。しかし、共通しているのは、「地球の外にでて、自分の眼で地球を眺める」という体験。この体験が、人々の意識を変え、様々な分断が起こりつつある地球の現状を変えてくれるのではないか。それを私は心から期待している。

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