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読む宇宙旅行

ライター 林 公代 Kimiyo Hayashiライター 林 公代 Kimiyo Hayashi

急増する衛星群、溢れる人工光
—「光害」の星空への影響は?

天の川と石垣島天文台。(提供:国立天文台)

ある研究によると、世界で80%以上の人々が「人工光に汚染された」夜空の下で生活しているという。人工衛星が撮影した夜の地球の画像を解析、作成した夜空の明るさの世界マップ研究から導かれた数字だ。また、世界人口の三分の一以上(北アメリカでは約80%)、日本でも人口の約70%が天の川を見られない環境で生活しているという。

人工光に汚染された夜空(Light polluted skies)とはショッキングな表現だが、24時間営業のコンビニ、必要以上に明るい看板や照明…これら人工の光に私たちは慣れ過ぎているのかもしれない。取材で種子島に行き、街灯がほとんどない夜空を覆う天の川を見上げると、はっとする。「こんなに多くの星があったのか」と。そして広大な宇宙の片隅に生きているという事実を思い出し、畏怖の念にかられるのだ。

国立天文台の平松正顕さんは2022年10月末、「星空を守るためのnote」を始めた。冒頭で、こう語りかける。「街明かりはあってのよいのです。虚空に向かう光だけを抑えれば。エネルギー価格が高騰する今、光を空に捨てているのはもったいないですし、明るすぎる人工光は様々な動植物に影響を与える可能性があります」と。平松さんのnoteで不適切な明かりで周囲や空が照らされることによって起きる害を「光害(ひかりがい)」と呼ぶことを知った。光害は天文学や私たちの生活にどんな影響があるのか、平松さんに聞いた。

「スターリンク衛星」の脅威

2019年11月12-13日、チリのセロ・トロロ汎米天文台で観測中、19機のスターリンク衛星の光跡が写り込んだ。(提供:CTIO/NOIRLab/NSF/AURA/DECam DELVE Survey CC BY 4.0

平松さんは長くアルマ望遠鏡の広報を務め、昨年6月から天文情報センター周波数資源保護室の仕事に就く。国立天文台に周波数資源保護室ができたのは2019年。主たる仕事は電波天文学に人工の電波が影響しないように、国内外で協議や調整を進めることだった。ところが近年、電波に加えて「光」も対象になった。なぜだろう。

「2019年に打ち上げられた(スペースX社の)スターリンク衛星が一つの大きなきっかけだと思っています。十分な規制もないし環境基準もないのにどんどん打ち上げられて、今は3500機ぐらい上がっているはず。最大で4万2千機という計画になっている。天文業界としても対応を考えなければならないと」(平松さん)

スターリンク衛星が与える天文学への弊害とは、どんなことでしょう。

「天体望遠鏡が撮っている画像のなかで、衛星が写り込んだところに銀河があれば、明るさを計ることができないし、形もよくわからなくなります。衛星が通った軌跡1本だけなら『ここは使えません』と(部分的に)捨てることもできますが、たくさんあると画像データ全部を捨てないといけなくなる。一本の明るい衛星の光跡があると、光がにじんで周りに影響が出るため、高い割合で画像全体が使えなくなる場合もあるでしょう」。結果的に観測の効率が落ちてしまうのだという。

長野県野辺山の夜空。左上から右下に向かう飛跡はスターリンク衛星。(提供:Shogo Nagayama,国立天文台)

人気のある望遠鏡で観測を行う場合、天文学者はプロポーザル(観測提案書)を書き、高い競争率を勝ち抜いてようやく観測時間を手に入れる。その貴重な観測時間に多数の衛星が通れば、天文学者にとって、さらに望遠鏡や天文学全体にとって大きなロスになる。スターリンク衛星は低軌道(約550km)を飛行するため、より高い軌道を飛ぶ衛星に比べて、太陽光を反射した時に明るく見える(一方で軌道が高いと、太陽光を反射して見える時間が長くなるという問題点もある)。天文月報2020年3月号の大石雅寿・国立天文台周波数資源保護室長の記事(「巨大通信衛星網による天文観測への影響」)によると、スターリンク衛星の等級は2~7級(肉眼で見えるのは6等級から。数字が小さいほど明るい)。その後スペースXも反射光を軽減する対策をとったりしているが、十分に暗くなったとは言えず、肉眼で見えるケースも多くあるという。

「変動しない銀河だったら(観測に再挑戦すればいいため)まだいいが、超新星爆発などの突発天体が出ている可能性もある。そういう千載一遇のチャンスが邪魔される可能性がなくはない」(平松さん)。実際、2019年5月25日にローウェル天文台で撮影されたりょうけん座の銀河NGC5353の画像にはスターリンク衛星の多数の光跡が写り込んでおり、超新星爆発が衛星の光跡の隙間に存在していた。

1957年に人類初の人工衛星スプートニクが打ち上げられて以来、多数の衛星が打ち上げられている。だが、スペースXが打ち上げる「衛星の数は桁違いに多い」と平松さんは指摘する。同社は最大4万2千機の衛星を打ち上げる計画を発表。しかも、衛星群を計画するのは同社だけでない。アマゾンのカイパー計画など複数のプロジェクトが存在する。これらが予定通り実現すれば、地上から見える夜空の範囲に数百機の衛星(人工星)が見える計算になるという。「衛星群がガンガン打ち上げられる前に考えないと」。平松さんら天文学者は危機感を募らせる。

スペースXの対策—暗く、日よけをつけた衛星も今は白紙に?

スペースXは1回の打ち上げでスターリンク衛星約50機以上を軌道上に放出する。写真は放出直前の様子(提供:SpaceX CC BY-NC 2.0

2019年5月のスターリンク衛星打ち上げ直後の6月3日、国際天文学連合(IAU)は、巨大衛星群による天文観測への懸念を表明する声明を発表。この声明を受けて、スペースXは対策に乗り出した。まず取り組んだのは、衛星表面に黒色塗装を施したダークサット衛星。2020年1月に打ち上げた。石垣島にある国立天文台のむりかぶし望遠鏡ではダークサットを観測、明るさの調査を実施した結果、通常のスターリンク衛星に比べて太陽光の反射率が半分程度であることがわかったという。

ただし、ダークサットの黒い塗装は熱を帯びやすく周辺機器に影響が出る。そこでスペースXが次に取り組んだのは、太陽光の反射を抑える日よけ(バイザー)をつけたバイザーサット衛星。2020年8月以降の打ち上げはバイザーサットに切り替えられた。

ところが平松さんによると、最近スペースXはバイザーサットの打ち上げをやめたという。「スターリンク衛星間を光通信で結ぶため」がその理由らしい。衛星間で光通信を行うことで、スターリンク衛星単体では捉えられなかった地上アンテナと衛星群が繋がり、サービス可能な範囲が広がる。光通信を行うにはバイザーが邪魔になるという理由でバイザーの取り付けが中止されたようだと。さらに平松さんが懸念するのは、衛星の大型化だ。

「スペースXはV2.0と呼ばれる次世代型スターリンクを計画中で、開発中のスターシップロケットで打ち上げるようです。衛星が大きくなれば反射光が大きくなるはず。次世代型スターリンクで反射光に対してどんな対策がなされるのか。同社からは情報が出ていないので、よくわからないのです」

どういった対策を?

一口に光(電磁波)といっても、周波数によって対応は異なる。電波天文学では周波数についてシステムが非常にきっちり決まっていて、国際電気通信連合(ITU)が世界的な枠組みを決め、その中で各国の実情に合わせて周波数を分配する。日本では総務省が担当し、例えばWi-Fiで新しく「この周波数を使いたい」という申請があれば、審議会で関係者がお互いに影響がないか確認する。ところが、光赤外の観測については国際的な規制機関が存在しない。衛星群が天文学などに与える影響について、どう対応していくのだろう。

「アメリカではFCC(連邦通信委員会)が人工衛星の認可や周波数の割り当てを担当します。これまでは、スターリンク衛星群の反射光やスペースデブリの問題については、電波通信に問題がなければ認可していたそうです。ところが最近、アメリカの会計検査院がFCCに対して、十分な環境評価をせずに例外扱いしていたと指摘。例外扱いが適切であったか再検討するように勧告しました」(平松さん)

国立天文台天文情報センター周波数資源保護室の平松正顕さん。平松さんの「星空を守るためのnote」は欄外リンクをぜひ参照してください。

平松さんによると、天文関係者の今後の焦点は「環境評価の内容。具体的には反射光が含まれるか否か」だという。FCCは衛星が機能しなくなったら5年以内に大気圏再突入させるというガイドラインを作っている。それを守るか否かが環境評価の対象かもしれない。「FCCの環境評価の項目を注視して、アメリカの天文学者経由で要望をあげていかないといけない。また、国際天文学連合(IAU)にCPSという機関ができました。スペースXやアマゾンも参加し、衛星業界と協力して衛星群の影響を評価し、影響をなるべく少なくすることを目標にしています。重要なのは企業と協力すること。だが彼らがビジネスを行っているのであり、どのくらい(天文学のために)対策を実施してくれるのかわからない。特にスペースXはビジネス展開が早くて、(衛星群の影響についての)研究が全然追いついていないのです」。

国際天文学連合(IAU)に2022年4月に設置されたCPS(IAU centre for the protection of the dark and quiet sky from satellite constellation interference)。ウェブサイトトップに掲載されたイメージ画像。(提供:NOIRLab/NSF/AURA/P. Marenfeld CC BY 4.0

スターリンクについては、地上で通信障害が起こった地域へ衛星通信を即座に提供するなど、その効果も世界的に認識されている。情報格差解消への期待も高い。日本でもサービスが始まった。それだけに反射光など環境に対する適切な対応が望まれるところだ。

光害を科学的に評価する

2021年2月27日、ISS(国際宇宙ステーション)から撮影した夜の東京。(提供:NASA)

光害をもたらすのは衛星群だけではない。街中では照らす必要のない方向に光がもれたり、必要以上に照明が明るかったりする。平松さんは「蛇口から水が流れっぱなしだともったいないと思うのに、不必要な方向に不必要な強さで出ている光はもったいないとあまり気づかない。でもエネルギー価格が上がっている今は実にもったいない」と指摘する。

動物や植物に対する影響も小さくない。人間の体内リズムが乱れ、ウミガメや渡り鳥など月や星の明かりを頼りに行動する動物への影響もありうる。イネは屋外照明のために穂が出るのが2週間近く遅れたことが報告されている(環境省の「光害対策ガイドライン」に詳しい)。もちろん、安全で快適な暮らしのために光は欠かせない。「適切な場所で、適切な時間帯に、適切な明るさで適切な方向に光を出す照明を工夫すれば、光害を抑えた上で快適な光環境を実現することができる」。平松さんはそう訴える。

課題は、光害に対する科学的なデータの検証がまだ十分でないこと。「どの照明が光害に影響があって、どれを暗くしたらどのくらい空が暗くなるか。科学的に正確に空の明るさをはかって、対策につなげたい。環境省が年に2回、星空調査を実施したデータが約30年分ありますし、日本に300~400ある公開天文台やアマチュアの天文同好会でも光害の観測や対策をしているところもある。色々な人たちと協力できれば」

海外では街灯を暗くする実験を行ったところ誰も気づかなかった、街灯を数パーセント暗くしても犯罪率が上がらなかったなどの調査結果も報告されている。「日本でも光害に関する調査は数多く行われているが、ほとんど論文になっていない。情報をまとめれば、どのくらい暗くしても大丈夫という光害対策の検討材料になるでしょう」

夜の地球については衛星データがあるが、どの施設がどういう明るさで光害に影響を及ぼすかについて詳細に調べようとすれば、50m以下の分解能はほしい。光害の観測について、超小型衛星が大いに寄与できるのではないだろうか。

月の裏側の「静かな環境」を守るために

平松さんは、スイス・ジュネーブで行われる国際電気通信連合(ITU)の会合にも参加している。驚いたのは、ITUが月面での電波天文学についての規則を早々と国際条約『無線通信規則』に記しているという事実。

「月の裏側は地球からの電波が届かないので、電波的に静かな環境です。地球では観測できない低い周波数の観測もでき、天文学的なメリットが大きい。『電波的に静かな環境を守りましょう』という内容が、ITUの国際条約に明記されています。ただし科学研究に必要な通信は除くと記されている。何が必要な通信かは自由度があります。携帯電話回線を月に張り巡らせるという計画を出しているアメリカの通信会社もあります。そうなる前に、周波数の規制について早く準備を進めなければ」。月面での周波数を巡る攻防は既に始まっているのだ。

月の裏側で電波天文学が行われる日を想定した議論が、すでに始まっている。(撮影・画像処理:長山省吾、提供:国立天文台)

一人一人の力では、光害を抑えるのは難しいかもしれない。まずは余計なライトを照らさないこと、電波の周波数は有限の資源であり、携帯電話など日々の生活で便利に使っている一方で、電波天文学で宇宙の謎を解くためにも使っていると知ること。「そういう認識をもってもらうだけでも、全然違うと思います」(平松さん)。秋の夜長、夜空を見上げながら、まずは身近な光に関心を持つことから始めてはどうでしょう。

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