7500年に一度のチャンス!2029年に接近する小惑星アポフィス探査へ
今年はじめ、小惑星2024 YR4が2032年12月22日に地球に衝突する確率がある、と大騒ぎになったのを覚えているだろうか。もし衝突した場合は、トリノスケール(衝突確率と被害の大きさを表す尺度)11段階のうち3番目で、大きな被害をもたらす可能性があるとされた。衝突確率は日に日にあがり、2月18日には3.1%に達し、報道は過熱した。その後、衝突確率は急降下し、話題になることも減った。現在は月に衝突する可能性があるそうだ。この小惑星は2028年後半まで観測できないため、軌道が確定するのはその頃になるだろう。
小惑星2024 YR4は、40~90mと推定される小さな天体だ。数十m規模の小惑星の衝突はおよそ100年に1回の頻度で起こる可能性がある。たとえば、2013年2月15日、約17mのチェリャビンスク隕石が落下、建物の被害が広範囲(南北180km×東西80km)にわたって起き、約1500人が負傷した。その約100年前の1908年6月30日には、シベリアのツングースカ上空で50~60mの天体(彗星とみられる)が爆発、約2000平方キロメートル(東京都の面積に匹敵する)の範囲で樹木がなぎ倒された。
そして、2029年4月14日6時46分(日本時間)には、地表から約3万2000kmの距離を小惑星アポフィスが通過することがわかっている。その大きさは約340m。地球に衝突すれば大きな被害をもたらすだろう。これほどの大きさの天体が静止軌道(約3万6000km)内側という近距離を通過するのは、観測史上初めて。同様の貴重な機会は今後7500年はないだろうという見方もある。
ESA(欧州宇宙機関)は、このきわめて稀な機会を逃さないため、アポフィスにランデブーし、高解像度の観測を行うRAMSES(ラムセス)ミッションを計画している。ミッションは11月のESA閣僚級会合で正式に承認されるが、日本はRAMSESへの参加を目指している。
現時点の計画ではRAMSESの打ち上げは2028年度。アポフィスに到着するのは2029年2月。アポフィスが地球に最接近する前の3月1日~4月11日は20~1kmの距離に、4月12日~14日の最接近時は5kmの距離までアポフィスに接近し観測する。最接近時にはアポフィスの形状や表面の変化を、分解能10センチメートルの高解像度観測を実施する予定だ。地球重力の影響で、アポフィスの公転軌道、自転軸や速度が変化する可能性がある。さらにアポフィスで地滑りや地震、変形が起きるかもしれない。こうした小惑星の変化を把握することで、今後、小惑星が地球に接近した時に、どう対処したらいいかという対策に役立てる。
日本がRAMSESに参加を検討しているのは、主に3つ。まずはRAMSES探査機の打ち上げをH3ロケットで行うこと。次に熱赤外カメラの搭載、そして薄膜太陽電池パネルの提供だ。
熱赤外カメラは、実績のあるカメラだ。小惑星探査機はやぶさ2や欧州のHera探査機に搭載されている。Heraは現在小惑星ディモルフォスをめざして飛行中であり、2026年12月に到着、高度約2kmから小惑星の高解像度観測を実施する。2024年10月の記事に詳しく紹介したが、小惑星ディモルフォスはNASAのDART探査機が2022年9月に体当たり実験を実施した大きさ160mの小さな天体。DARTの体当たりによって軌道を33分遅くすることに成功したが、衝突後の小惑星の詳細な変化を観測するのがHeraの目的であり、熱赤外カメラは温度を計測することで天体の物性などを知る。
小惑星の地球衝突に備え、被害を未然に防ぐ活動は「プラネタリーディフェンス」と呼ばれ、国際的に活発化している。小惑星が衝突するとわかった場合、「数十m以上、300m以下なら探査機をぶつけることで軌道が変えられる」とJAXAの吉川真プラネタリーディフェンスチーム長は昨年の記者説明会で語った。ただし準備には10年以上の時間が必要になる。アポフィスのような小惑星を近くで観測できる機会は、プラネタリーディフェンス活動にとって、貴重な機会なのだ。
ALEが米国企業のアポフィス探査ミッションに参加
この貴重なアポフィス接近の機会をとらえようと、世界の宇宙機関や企業が探査ミッションを計画している。その一つが米国カリフォルニア州の宇宙探査企業ExLabs社の「ApophisExL」ミッション。探査機を接近させ、表面や内部構造の変化を科学的に観測する国際プロジェクトで、日本の企業ALEは、微小物体をアポフィスの表面に衝突させる「低エネルギーマルチインパクト実験」の搭載を予定している。
ALEと言えば「人工流れ星」の実現を目指してきたスタートアップ。今回の小惑星探査プロジェクトはその延長線上にある「挑戦」だという。人工流れ星で用いられる小さな物体を宇宙空間で正確に目標へみちびき、衝突させる。ただしそのエネルギーは小さく、アポフィスの軌道を変化させるものではないそうだ。
衝突によって、アポフィスを覆う砂レゴリスの結合度や岩石の強度、宇宙風化の影響などを評価し、将来のプラネタリーディフェンスや宇宙資源探査に向けた基礎データの取得に貢献する。このインパクト実験の実現可能性を検証するため、ALEは東京大学と共同研究を行う。
ExLabs社はこのミッションにあわせて、世界的なドキュメンタリー制作やリアルタイム配信などのメディア展開も予定している。科学・エンターテインメント・教育が融合する新しい宇宙探査の形を目指す取り組みに、ALEも参画するそうだ。人工流れ星の技術が小惑星探査に活かされるとは、さすが天文学を学んだ岡島さんらしい発想だ。「一つひとつの挑戦を積み重ねながら、科学と社会をつなぐ新しい道を切り拓いていきます」と岡島さんはコメントしている。
RAMSESもApophisExLもそのほかの探査機も、さまざまな観点や技術的アプローチで、7500年に一度の貴重な小惑星接近の機会をとらえてほしい。
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