まだ間に合う!? 宇宙の旅人—レモン彗星・スワン彗星・恒星間天体の注目点
太陽系の外縁部から、そして遥か彼方の恒星間空間から。10月下旬~11月にかけて次々と宇宙を旅する天体たちが地球近くにやってきている。
まずはレモン彗星(C/2025 A6)。2025年1月3日にアメリカ・アリゾナ州にあるレモン天文台で発見された。発見当初はそれほど明るくならないと予想されていたが8月中旬に急増光し、10月下旬~11月初めにかけて3~4等の明るさになると予想されている。計算上、前回、地球を訪れたのは約1300年前。次に訪れるのは約1100年後。約1000年に一回の観測チャンスというわけだ。
地球に最接近したのは10月21日、そして太陽にもっとも接近するのが11月8日(日本時間)。国立天文台によると10月下旬から11月上旬がもっともレモン彗星が見やすい時期になるそうだ。夕方の西の空低くで観察できる可能性がある。
レモン彗星の地球最接近は過ぎてしまったが、太陽に近づくにつれて彗星の尾は長くなるかもしれない。私たちにもレモン彗星を楽しむことができるのか? DSPACEで星空の楽しみ方について、わかりやすく教えてくださる大川拓也さん(国立天文台広報普及員やJAXA宇宙科学研究所などの勤務を経て、フリーランスで天文関係のお仕事を精力的に展開中)に聞きました。
経験者と一緒に。あるいは公開天文台で
- —レモン彗星、話題ですね!私たち一般の人でも楽しむことができるでしょうか?
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大川拓也さん(以下、大川):
すごく話題になっていますよね。知名度の高さに逆に驚いています(笑)。でも一般の方が、市街地で双眼鏡を向けて「あった~!すご~い!」とはなかなかならないと思います。
- —なぜですか?
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大川:
一番は気象条件、そして市街地の光害(ひかりがい)。彗星の光ってぼんやりと淡いじゃないですか。彗星の見え方は、空気中の水蒸気量とか、街の明かりにすごく影響されます。レモン彗星は10月下旬に3~4等の明るさに達していますが、恒星の3等星や4等星よりも見た目に暗く感じます。だからまずはとにかくよく晴れている場所へ、そして市街地からなるべく離れて空の暗いところに行った方がいいですね。見える位置が低いことと、観察に適した時間帯は日の入りから1時間後頃からの約1時間ぐらいしかないので、のんびりしていると、見つけられないうちに沈んでしまう。
- —うーむ、なかなか厳しそうですね。大川さんはどうやって見つけているんですか?
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大川:
私は目印になる星座の星をまず見つけて、そこからあらかじめレモン彗星の位置の目星をつけておいて、双眼鏡で探しました。10月下旬はなかなか天気がいい日がなくてやっと10月17日に確認、10月23日には富士山の近くで撮影することができました。
- —これは素晴らしい! どんな感じに見えましたか?
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大川:
18時ごろ、双眼鏡をのぞいて今日の彗星の方向に向けるとすぐにレモン彗星が見つかりました。都会から離れた場所での観察でしたので、双眼鏡で淡い尾が少し伸びている様子も確認できました!
- —羨ましい! コマの緑色っぽい感じも写っていますね。緑色は炭素を含む成分が光っているそうですね。私たちがレモン彗星を楽しむにはどうしたらいいでしょうか?
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大川:
彗星を初めて見るよという方にはなかなか見つけにくいので、天体観測の経験のある人と一緒に行って、位置を教えてもらうのがいいですね。または各地の公開天文台などレモン彗星の観察イベントをやっている施設の情報が掲載されているので、近くで開催されていれば参加するのもよいと思います(欄外リンク参照)。
- —彗星を見るときに注目点はありますか?
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大川:
彗星には一つ一つ個性があります。レモン彗星は太陽に近づくにつれて2種類の尾が日々変化してます。イオンの尾とダスト(塵)の尾があって、太陽に近づくにつれて尾が長く伸びたり、イオンの尾が形を変えたり、ダストがたくさん放出されたりして尾のすがたが変化しています。宇宙飛行士の油井亀美也さんがISS(国際宇宙ステーション)から撮影したレモン彗星は大気の影響もほぼ受けないので、尾がうしかい座の頭のほうまで長くきれいに写っていますよね。
おはようございます!
— 油井 亀美也 Kimiya.Yui (@Astro_Kimiya) October 20, 2025
今日もレモン彗星の写真です。
運動の合間に、機会がありましたので撮影しました。
昨日よりだいぶ明るくなった気がします。
イオンと塵の2種類の尾も識別できますね。
皆さんが彗星を見るためにも、H3によるHTV-Xの打上げの為にも、早く天候が回復する事を祈っています。 pic.twitter.com/xnFkjrsVXV
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大川:
じつはいま、もう一つ、望遠鏡で見られる彗星があるんです。それはスワン彗星(C/2025 R2)。10月下旬に7等前後と、レモン彗星よりもさらに暗い彗星ですが、いま夜半前に観察しやすい位置(11月初旬まではみずがめ座のあたり)にありますので、カメラや望遠鏡を使う方はレモン彗星とスワン彗星、両方観察できるチャンスがあります。レモン彗星をみたあとにスワン彗星を探すとよいと思います。
3つめの恒星間天体
- —レモン彗星とスワン彗星は、太陽系の外縁部からやってきた天体。もう一つ、話題の天体がありますよね。
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大川:
恒星間天体アトラス彗星(3I/ATLAS)ですね。あれも面白い天体ですよね~。
- —2017年に観測されたオウムアムア、2019年のボリソフ彗星に続いて3つめの恒星間天体ですよね。どんな天体ですか?
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大川:
今年の7月1日に発見された小天体で、IはInterstellar(恒星間)の意味です。ガスやダストを放出する彗星活動が観測されています。レモン彗星のような長周期彗星は太陽系の外縁部からやってきますが、彗星の中には二度と戻ってこないものもあります。太陽系以外の他の恒星のまわりでも同じようなことが起こっているとすれば、弾き飛ばされてはるか彼方に行ってしまい、やがて別の恒星の近くを通るものもあるのでしょう。そのような天体が長い時間をかけて恒星間飛行をして、よその系から私たちの太陽系にも進入しきているって考えると、ロマンがありますよね。複雑な有機物が含まれているかもしれませんし。
- —ESAのウェブサイトによると、3I/ATLASの軌道から、これまで観測された中で最も古い彗星かもしれないと推測されているようですね。太陽系の年齢は46億年ですが、この彗星は太陽系よりも30億年古い可能性があると。 太陽系の天体は共通の起源を持つが、3I/ATLASのような星間彗星は異質で、惑星系の形成に関する手がかりを運んでくると書かれています。
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大川:
そうですね。ただ3I/ATLASはちょっと暗くて、小型の望遠鏡での観測は難易度高めです。大型望遠鏡をもつ天文台や火星探査機などから観測されています。こうした一度きり、もしくは長い周期をもつ彗星(長周期彗星)に接近して、直接よく調べようという目的で、ESA(欧州宇宙機関)は長周期彗星探査計画コメット・インターセプターの打ち上げを2029年に予定しています。この探査機には日本も協力する予定で、注目したいと思います。
- —それは楽しみです。どんなミッションですか?
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大川:
太陽ー地球系のラグランジュ点(L2点)に探査機を待機させて、未知の天体を最大3~4年待って、もし飛来した場合は親機と2機の超小型探査機(子機)で天体の周りを飛行しながら多点観測します。JAXAは3機の探査機のうちの子機1機を担当し、可視カメラ、水素コロナ撮像器などで彗星の観測を行います。
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大川:
数年に一度くらい訪れる、双眼鏡で楽しめるような彗星の接近は、宇宙へのさらなる興味をかき立ててくれます。「見えた・見えない」だけでなく彗星の変化や個性を感じられるようになれば、一期一会の彗星の姿をより深く味わうことができるでしょう。
- —そうですね。地球接近に伴って観測画像が今後出てくるでしょうから、それぞれの天体の変化や個性に注目したいと思います。ありがとうございました。
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