テーマは「つなぐ」。諏訪理飛行士2027年、宇宙へ。その強みとは
新年早々、嬉しい宇宙ニュースが飛び込んできた。DSPACEで何度も紹介してきた諏訪理宇宙飛行士が、2027年、ISS(国際宇宙ステーション)に滞在することがJAXAから発表されたのだ。
諏訪理さんは2023年2月、4127名の応募者から米田あゆさんと共にJAXA宇宙飛行士候補者に選ばれ、同年7月にJAXA入社。様々な訓練を経て2024年10月に宇宙飛行士に認定された。それからわずか約1年3か月後に宇宙飛行にアサイン(任命)されたことになる。宇宙飛行士認定から約1年3か月後のアサインは、現役飛行士の中で油井亀美也飛行士と並び最速だ。
諏訪飛行士自身も「3年前の今頃は、宇宙飛行士候補者の最終選抜に挑んでいた。当時、まさか3年後にこんな機会を頂けるなんて本当に思っていなかった」とふり返る。
アルテミス2への想い
改めて、諏訪理さんのこれまでの歩みを紹介しよう。1977年生まれの諏訪さんが宇宙飛行士を仕事として意識したのは、小学5年生の時。アポロ17号の船長だったサーナン飛行士とNASAで直接話したことだった(この時、幸運にも私は同席させて頂いた。詳しくは欄外リンクの記事で)。だが好奇心旺盛な諏訪さんは、宇宙飛行士だけでなく地球科学や国際開発にも興味をもつ。東京大学やプリンストン大学大学院で地球科学を学び、卒業後は青年海外協力隊員としてルワンダへ。その後は世界気象機関(WMO)や世界銀行で国際開発の仕事に従事する。宇宙飛行士への応募は2度目で合格を手に。つまり、諏訪さんは3つの目標のすべてを叶えたことになる。どれもハードルの高い目標だが、アポロ計画最後の船長となったサーナン飛行士からタスキを受け継ぎ、月を目指す宇宙飛行士になったという事実に胸が熱くなる。
諏訪さんが選ばれた際の2021年度宇宙飛行士候補者募集要項には、「日本人宇宙飛行士が月面でも活躍することを想定し、新たな宇宙飛行士の候補者を募集します」と明記され、搭乗業務には「月面での滞在」「月面での船外活動」が並んでいる(計画の変更により宇宙飛行できない場合もあります、とも書かれている)。つまり、諏訪さんは21世紀の月探査計画アルテミス世代の宇宙飛行士なのだ。
NASAはこの2月にも、アルテミス2ミッションで4人の宇宙飛行士による月周回飛行を予定している。およそ半世紀ぶりに人類が月に戻る、「月探査新時代」の幕開けだ。諏訪さんのアルテミス2への期待を聞いた。
「NASAのアルテミス2のクルーオフィスは私たちのオフィスのちょうど隣で、よくお顔を拝見したり、ちょっと話したりする機会もあります。いよいよ人類がまた月に戻っていくんだという高揚感がありますね。最後の月着陸は1972年、それこそサーナン飛行士のアポロ17号以来の月周回軌道への帰還。宇宙飛行士たちが何を見て、どういう言葉で我々地球人類に語ってくれるのか、かたずをのんで見守りたいと思っている」とのこと。
日本はアルテミス計画の一環として、宇宙飛行士が乗って月面の長距離を移動する有人与圧ローバーの開発を進めているが、諏訪さんは乗る可能性がある。操作する宇宙飛行士の立場から、NASA飛行士と共に諏訪さんは「本当にこれで自分の安全性が保たれるのか」という安全性の観点、また「こういうところが操作しにくい」「改善したほうがいい」など操作性の観点からフィードバックを行っている。
「つなぐ」に込めた想い
月を目標に掲げつつ、ISSへの長期滞在が決まったことについて問われた諏訪さんは、こう答えた。「まずはISSのミッションを成功させることに全力を注ぐ。月へのミッションは一段と難しいミッションになると思う。それを成功させるのは一人の宇宙飛行士の責任というよりは、団体戦。日本人宇宙飛行士の誰が行っても大丈夫という状況を作ることで、成功が見えてくるのではないか。私はまだまだ経験が浅い宇宙飛行士なので、しっかり(ISSで)経験を積んで、月への団体戦の一員として貢献できるように頑張っていかないといけない」。まずはISSで経験を積み、チームJAPANの一員として月着陸を狙う。
ISSは2030年に運用を修了することが決まっている。「もう具体的に後ろが見え、科学的な成果に磨きをかける段階」と諏訪さんは捉え、ミッションテーマに「つなぐ」をあげた。
「先輩からのたすきを受け取って、米田さんや次世代の宇宙飛行士につなぐ。宇宙ミッションは地上と宇宙をつないで初めて成り立つので、地上と宇宙をつなぐ。ISSは国際協力のもとで25年間運用を続けている。国と国をつなぐ。月や火星、地球低軌道の商業飛行につなぐ。これはあくまで今の考えで、(実際の)ミッションテーマはつなぐと全く関係ない可能性もありますが(笑)」
遠くに行きたいならみんなで行け
「つなぐ」は、諏訪さんが国際開発の仕事で、まさしく掲げてきたテーマに違いない。現在の国際情勢は「つなぐ」と反対の方向に向かっているようにも思える。アルテミス2やISSのミッションで、「つなぐ」をどう実現するのか、どんな価値を地球上のより多くの人たちに届けられるのか、聞いた。
「非常に難しい質問だと思う」と前置きした上で諏訪さんは続けた。「国と国同士は色々な立場の違いとかがあると思うが、人類の有人宇宙開発を進めていくという大きな目標のもとで、一緒にできるパートナーとアジェンダ(行動計画)を進めていくことが重要だと思っている。できるところから協力していくのは人類の知恵。ISSはその一つの好例だと思っているし、アルテミス計画も国際協力の枠組みで進められる。国と国をつないで大きなことをやっていくというメンタリティが重要と思う。そういうメッセージを発する機会があれば」と語り、諏訪さんが好きだというアフリカの諺を紹介した。
「早く行きたいならひとりで行け。遠くに行きたいならみんなで行け」。
「まさに宇宙開発は遠くに行くもの。みんなで行くしかないのではと思っています」。遠くの宇宙を目指すという大きな目標が、国と国を結び付けていく。そのためにまずは共に歩めるパートナーと、できるところから前に進めていく。諏訪さんが宇宙で「つなぐ」を体現する様子、そして宇宙から語りかけるメッセージに期待したい。
諏訪さんに学ぶ、楽しむことの効果
諏訪さんの宇宙飛行決定が早かった理由について、JAXA有人宇宙技術部門宇宙飛行士運用技術ユニット長、久留靖史氏は「日本人宇宙飛行士の搭乗の順番や国際調整に加えて、宇宙飛行士の訓練状況など全体的に検討して諏訪さんに飛行してもらうことがベストだと判断した」と説明。NASAの船外活動やロボットアームインストラクタの諏訪さんに対する評価は、非常に高かったという。
だが、諏訪さん自身は船外活動の訓練について最初、結構不安だったと打ち明ける。「6時間もプールに潜って結構握力も使うと聞いて、できるかなと」。ただ、訓練を始めると「思ったより得意というか楽しめた」と言う。その理由の一つは訓練がよく設計されていること。できないことがあっても訓練後の振り返りをじっくり行い、先輩飛行士がアドバイスをくれる。リピートしながら徐々に難易度をあげていく。「気が付いたらある程度できるようになっていた」。そしてもう一つの重要なポイントは「楽しむことを無意識に思うようにしているのかもしれない」という点。「訓練が大変で楽しくないと思ったら、それは辛いことでしかない。とりあえず楽しいと思おうと、きっとどこかで自分の脳をコントロールしようとしているのかな」と。これは是非、見習いたい!
フィールドワークで体感する、非日常と日常のはざま
久留氏が「諏訪さんの人となりがよく表れているので見てほしい」と会見で紹介したのが、欧州で行われたCAVES訓練レポート(欄外リンク参照)だ。CAVES訓練とは、月や火星を想定したフィールドワークを洞窟内で行いながらチームワークを鍛える訓練だ。
レポートで諏訪さんが語っているのは、フィールドワークで科学をする喜びだ。「『何気なくそこにある岩石や空気、水から地球の謎に迫る』—私が地球科学というフィールドサイエンスに惹かれた理由は、まさにここにあります」と綴る。大学院時代にアンデス山脈や南極でのフィールドワークで、見えなかった世界が少しずつ見えてくるとき、「地球の謎をほんの表面だけでも解いたような、言葉にしがたい喜びを覚えました」と記している。洞窟内で本物の漆黒になる環境で、ほかの感覚が研ぎ澄まされるという非日常。そして静寂の中にひびく仲間のいびきを楽しむ様子まで伝わってくる。訓練が終わる4日目に「まだまだ洞窟内にいたい」と感じたそうだ。「非日常の中に築かれる日常、その設定に心が惹かれた」のだと。
諏訪さんなら、月面での過酷なフィールドワークという非日常も日常として楽しみ、新たな発見をしてくれるのではないか。そんな期待を抱かせてくれる。
ISSでやってみたいことについても、ランニングと共に「宇宙ステーションという非日常の環境の中で、どうやってご飯を食べて寝て起きてという日常を作っていくのか。どういうときに非日常や日常を感じるのか、それが半年間にどう変わっていくのか。その感覚の変化を観察したい」という。ロジカルでありながら感覚的センスもあわせもつ諏訪さんが、ISS滞在をどう体感するのか、ぜひ宇宙から私たちにシェアしてほしい。
次の宇宙飛行士候補者選抜は?
諏訪さんが選ばれた宇宙飛行士候補者の募集要項が発表されたのは、2021年。当時、JAXAは5年おきぐらいに宇宙飛行士を募集したいとしていた。その点を記者会見後に久留氏に聞くと、「ISSやアルテミス計画など全体的な計画の中で、日本人の中長期的なフライトのチャンスがどれくらいになりそうなのかを見極めているところ。ただ日本としても外的要因に振られすぎず、ある程度のベースで宇宙飛行士の養成訓練をしていく必要があり、そのバランスを見ている」とのこと。
アルテミス2がこの春実現すれば、その先の計画についても議論が進むだろう。月面着陸へ向けて、今年が「月有人探査新時代」の幕開けになりますように。2026年もどうぞよろしくお願いします!
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