「月に住む」時代を目指して飛べ!アルテミス2徹底ガイド
早ければ2月6日(金)9時41分(アメリカ東部時間。日本時間2月7日(土)11時41分)にも、4人の宇宙飛行士が半世紀以上ぶりに月を目指して打ち上げられる。NASAのアルテミス2ミッションだ。このミッションが成功すれば、いよいよ次のアルテミス3では月面に宇宙飛行士が着陸する(2028年目標)。その後は日本人の月面着陸が期待される。半世紀前のアポロ計画とアルテミス計画との違いは国際協力であること、民間企業が参加し、月に住み、月から火星に向かうビジョンが描かれていることだ。
アルテミス初の有人飛行ミッションであるアルテミス2。10日間のミッションで何が行われるのか、そもそもどんな宇宙機なのか、どんな人が乗るのか。NASA資料や記者会見から徹底ガイドします! これを読んでアルテミス2を応援&楽しみましょう!
全長約98m。SLSロケットと宇宙飛行士が乗るOrion宇宙船
まずはどんなロケットと宇宙船が使われるのか。ロケットはSLS(Space Launch System)のブロック1タイプで、アルテミス1で使われたのと同じ。スペースシャトルで使われたメインエンジンを改良したRS-25エンジンを4機搭載。固体ロケットブースタもスペースシャトルで使われたものを改良した。その意味でスペースシャトルのレガシーを受け継いだロケットと言える。
先端に搭載されるOrion宇宙船は4人乗りだ。開発・製造はロッキード・マーティン。実は2020年、NASAジョンソン宇宙センターの宇宙飛行士訓練施設をミュージシャンの矢野顕子さんと取材したのだが、ISSの実物大模型の横にOrion宇宙船の実物大模型が置かれていた。外観は「おにぎり型」の宇宙船で人が乗る内部は大きくはないが、近くに置かれていたソユーズ宇宙船ほどぎゅうぎゅう詰めという感じでもない。
居住空間は9m3(9立方メートル)。アポロ宇宙船より格段に広いというがソユーズ宇宙船のように生活する軌道モジュールが連結されているわけではない。4人が10日間暮らすには一見狭そうに見えるが立体的に使えるから問題ないのだろうか(ちなみに9平方メートルは5畳ぐらい)。NASA担当者によると操作パネルはタッチスクリーンとボタンの両方を採用。宇宙船の先端にはアボートシステム(脱出システム)が搭載されており、緊急事態にはSLSから脱出可能だ。
リハーサルを経て打ち上げ日が最終決定
アルテミス2の打ち上げターゲットは2月6日以降4月30日まで確保されている。打ち上げまで様々な準備作業が行われるが、その中でも重要イベントが2月2日までに行われるウェット・ドレス・リハーサル。
約265万(70万ガロン)を超える極低温の推進剤をロケットに搭載、打ち上げカウントダウンを実施する。宇宙飛行士は搭乗しないがロケットから推進剤を安全に取り出す練習も行う。その結果次第ではロケットをVABに戻し、追加作業を行う。ロケット、打ち上げインフラ、宇宙飛行士と運用チーム全体の状態が整って初めて打ち上げ日が正式に決定することになる。
飛行計画—地球の周りでアルテミス3に備えた練習も
アルテミス2はどんな月への旅を行うのだろうか。それをまとめたのが上の図だ。飛行期間は約10日間。月着陸はせず、月の裏側をぐるりと回って地球に戻ってくる。
打ち上げ後、Orion宇宙船は地球を2周する間に、宇宙船のシステムが想定通りに動作していることを確認する。約64000km×約28000kmの地球周回軌道に投入されたあとに最初の見どころがやってくる。Orion宇宙船が上段ロケットICPSから分離。Orion宇宙船の向きを変え、ICPSをターゲットとして接近運用デモンストレーションと呼ばれる操縦実験を宇宙飛行士が手動で行うのだ。このデモンストレーションは、アルテミス3号以降で行われる月周回軌道での宇宙機同士のランデブーやドッキングのための貴重な運用経験となる。
近接運用デモンストレーション後、Orion宇宙船の制御はNASAジョンソン宇宙センターに。その後、Orion宇宙船はいよいよ月軌道に向けた燃焼を数回に分けて行っていく。
月のフライバイと最接近を行うのは飛行6日目だ。地球からは決して見えない月の裏側を、半世紀ぶりに人類が目の当たりにすることになる。その時の距離は約7800km。そして月の裏側から表側に出てくる際のハイライトが、月の地平線から昇る「地球の出(Earthrise)」だ。月の裏側を飛行する際、地球からの距離は約40万km。アルテミス2の乗組員たちはアポロ13号の記録(約40万171km)を塗り替え、地球から最も遠い距離を飛んだ人類になると予想されている。
飛行7日目、地球の帰還に備え宇宙飛行士たちは休暇をとる。その後、帰還軌道のための修正噴射を数回に分けて行う。飛行10日目、着水約30分前にOrion宇宙船がサービスモジュールを分離すると耐熱シールドが露出し、再突入時の熱から宇宙飛行士を保護する。着水約13分前に高度約121kmで大気圏再突入。宇宙船は約1300度の高温にさらされ、プラズマによって通信は一時的に遮断される。その後、パラシュートが数段階に分けて開き、時速約27kmまで減速し、太平洋上に着水する。
発射後の主なタイムラインをまとめておこう。
+00:09 SLSが発射台を離れる
+00:56 SLSが超音速に到達
+01:10 最大動圧(Max Q)
+02:08 固体ロケットブースタ分離
+03:18 緊急脱出システムの投棄
+08:06 SLSコアステージメインエンジン停止
+08:18 コアステージ分離
+20:00 Orion宇宙船の太陽電池パネルが展開
+49:00 (地球周回軌道)近地点上昇操作
+01:47:57 (1時間47分57秒) 遠地点上昇燃焼
+03:24:15 OrionがICSPから分離、接近運用デモンストレーション開始
+04:35 (4時間35分) デモンストレーション終了
+05:00 ICPS 太平洋への廃棄焼却
+05:04 キューブサットを1分間隔で放出
月へ向かう4人の宇宙飛行士たちは家族とどう向き合ったのか
さて、アルテミス2に搭乗する4人の宇宙飛行士はどんな人たちなのか? 船長(コマンダー)のリード・ワイズマンは海軍に27年間勤務したベテランパイロット。2009年にNASA宇宙飛行士候補者に選ばれ(油井飛行士らと同期)、2011年5月に訓練を修了。2014年5月~11月まで国際宇宙ステーション(ISS)第41次長期滞在クルーのフライトエンジニアを務めた。2020年~2022年にNASA宇宙飛行士室長。今回が2回目の飛行だ。
パイロットのビクター・グローバーは2020年11月~2021年5月、野口聡一宇宙飛行士と共にクルードラゴン運用初号機で飛行し、ISS長期滞在を行った。工学の学士号を取得し、海軍航空士として勤務。今回が2回目の飛行。ミッションスペシャリストのクリスティーナ・コックは2019年にロシアのソユーズ宇宙船で打ち上げられ、328日間ISSに滞在。女性だけによる船外活動を実施している。宇宙飛行士になる前はNASAの電気技師、南極プログラムの隊員として南極基地にも滞在している。もう一人のミッションスペシャリストはカナダ宇宙機関のジェレミー・ハンセン。戦闘機パイロットで今回が初飛行となる。
アポロ計画で月を歩いた12人は白人男性飛行士のみだったが、アルテミス計画では女性や有色人種、アメリカ人以外の多様な宇宙飛行士が参加することになる。
1月17日、記者会見に応じたアルテミス2のクルーは月への溢れる思いを語った。リード・ワイズマン船長は、「これまで訓練で熱心に勉強してきた月の裏側にある地質学的な特徴を、実際に自分たちの目で見るのがどれほど素晴らしい体験になるか」「地球の出を目にすることができたら、どんなにAmazingなことでしょう」と興奮を隠さない。
一方、SLS+Orion宇宙船で宇宙飛行士が飛行するのは今回が初飛行。十分に検証されているとはいえ、危険と隣り合わせだ。宇宙飛行士本人は危険を覚悟していても、家族にとって大事な家族を失うリスクは耐え難い。どんな風に家族と向き合ってきたのか。
ワイズマン船長は子供たちと散歩しながら、遺言書や重要書類の場所、自分に万が一のことがあった場合のことについて可能な限りオープンに話したという。クリスティーナ・コック飛行士はISSと違って月探査では気軽に電話できないため、「『家の中のどこに何があるか』夫が自分で探せるようにすることも私たちにとって大事」と話し、家族が書いた手書きのメモを月飛行にもっていくと明かした。
多彩な科学実験も
月を回る10日間の飛行中には、さまざまな実験が実施される。たとえばアルゼンチン、韓国、サウジアラビア、ドイツの4つの宇宙機関から提供されたキューブサットがOrion宇宙船のアダプター部分に搭載され、地球周回高軌道で放出される。主に地球周辺の放射線環境やその影響を評価する衛星が多いが、ドイツ航空宇宙センター(DLR)の衛星は月面車両の技術に役立てるため、宇宙環境が電気部品に与える影響を調べる。
そして、深宇宙空間が人間に与える影響を調べる様々な実験も行われる。例えば宇宙飛行士たちはリストバンド型デバイスを装着。ミッション中の動きと睡眠のパターンを継続的にモニタリングし、宇宙船という特殊な環境における認知、行動、睡眠の質について調べる。
免疫バイオマーカーを調べる実験では、飛行前、飛行中、飛行後の宇宙飛行士の唾液を採取する。唾液のサンプルを用いることで深宇宙飛行中の放射線、孤立、地球から遠く離れたこと等によるストレスの増加が宇宙飛行士の免疫系のどのような影響を与えるかの知見を得ることが期待される。ISSで水痘や帯状疱疹を引き起こすウィルスが観察されたことがあるが、通常は休眠状態にあるウィルスが宇宙で再び活性化するかどうかも調べる。
ユニークなのがAVATARと呼ばれる実験だ。USBメモリほどの大きさの臓器チップには、宇宙飛行士が飛行前に提供した血液から作られた細胞が含まれる。骨髄のミニチュア版=アバターだ。骨髄は免疫系で重要な役割を果たし特に放射線に敏感だ。この臓器チップがストレス要因に対する人間の反応を測定・予測するためのツールとして正確に機能するかを検証するため、ISSの調査結果や宇宙飛行前後の乗組員から採取したサンプルと比較する。
月への深宇宙飛行で重要課題が放射線対策だ。アルテミス2では放射線センサーが船内や宇宙飛行士のポケットに搭載される。これらのセンサーは太陽活動で引き起こされる危険な放射線レベルが検知されると、警告を発する。NASAはドイツ宇宙機関と協力し、異なるエネルギーの種類を識別する放射線センサーを開発。放射線リスクが最も高いと考えられている重イオンからの被ばく量を正確に測定できるという。
そして月の観測。NASAは月を周回する探査機によって月の地図を作成してきたが、人間の眼と脳は色や質感、また表面の微妙な変化を繊細に検出することができる。アルテミス2のミッション中にはNASA飛行管制室から科学担当官が衝突クレーターや火山活動、地殻変動、月の水に関する専門科学者チームと協議し、アルテミス2の飛行士にリアルタイムのデータ解析とガイダンスを提供する。
アルテミス2で月周回飛行を行うのは4人の勇敢な宇宙飛行士だけではない。世界中の300万人以上がボーティングパス(搭乗券)をゲット、その名前はSDカードによってOrion宇宙船に搭載される。私もその一人だ。NASAはボーティングパスの配布期間を延長している。まだ間に合うかもしれない! 欄外リンクを参照の上、急いでチケットを手に入れよう!
アルテミス2が成功すれば、いよいよ2028年頃には月面着陸を目指しアルテミス3が船出する。月探査「新」時代がいよいよ幕を開けようとしている。
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