油井飛行士、天文学者らと真剣勝負
—子供たちの質問力に学べ!
夏休みも終わりに近づいた8月20日。国立天文台で行われたイベント「国立天文台で油井宇宙飛行士と学ぶ! —月・火星探査に向けて —」には、JAXAやNASAなど宇宙モノのロゴ入りシャツや帽子を身にまとった約120名の親子が、意気揚々と集結した。
油井亀美也飛行士が宇宙で撮影した彗星やオーロラ、天体の写真などを国立天文台名誉教授・渡部潤一さんの進行で楽しんだ後は、月や火星探査に関して専門家の解説を聞く。そして最も盛り上がったのは、質問コーナーだ。約40分とたっぷり時間をとり、油井飛行士が自らマイクをもって、参加者の間を走り回る。子供たちの質問力の高さに驚かされた。
そこで今回は「夏休みスペシャル」として、子供たちの質問と油井飛行士、天文学者(渡部潤一教授、竝木則行教授)、JAXAエンジニア(麻生大氏)の真剣回答をお届けする。
ウォーミングアップ—「宇宙生活」編
質問は大きく「宇宙飛行士」「月」「火星」の3大テーマに分けられた。まずは、みんな気になる、宇宙の衣食住から。
- Q:宇宙では気持ちよく眠れますか?
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油井亀美也飛行士(以下、油井):
宇宙での睡眠は超快適です。地上で長~く寝ていると、背中が痛くなったり寝返りしないといけなかったりして大変だったことないかな? 宇宙に行くとそういうことが全然ないの。寝袋の中に入るんだけど、寝袋がどこかに飛んでいかないように一か所だけ紐で結んで、その中でプカプカしながら寝てたんだよね。いくら寝ても全然背中も腰も痛くならないし、快適。たくさん目覚ましをかけておかないと寝過ごしちゃうぐらい。最高のマットレスがある宇宙に行って、ぜひ睡眠を試してみて下さい。
- Q:ISS(国際宇宙ステーション)でどんな宇宙食を食べましたか?
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油井:
基本的に日本の宇宙食は何でもおいしいです。海外の宇宙飛行士にも人気で(作業を)手伝ってくれた時にあげたら、また手伝ってくれると言いました。おじさん(油井飛行士は自分のことを『おじさん』と呼ぶ)が好きなのは、10年前(に宇宙に行ったとき)はカレーライス。今回、一番美味しかったのはうなぎでしたね。新しく開発されたもので、地上のうなぎとほとんと同じ味がしました。おじさんは1か月早く宇宙から帰ってくることになったので、日本の宇宙食が結構余ってたのね。それで帰ってくる前の日かな、3食うなぎにしました(笑)
- Q:一番心に残った実験は?
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油井:
すべて心に残ってますが、ISSから超小型衛星を放出するのはとても楽しいですね。学生が作った衛星、サラリーマンが作った衛星、予算が少ない国の初めての衛星などを放出することがありますが、その人たちが「すごい苦労して作ったんだろうな」とイメージしながら放出する。衛星が宇宙に出ていくとき、子供たちが「わーい、ありがとう!」と喜んでいるように見えて、すごく心に残っています。機会があったら、自分でも衛星を作ってみて下さい。
- Q:なんで宇宙飛行士になったんですか?
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油井:
長野県の川上村っていう星がすごくきれいに見える村で生まれて、10歳ぐらいの時、きれいな星空を見ているうちに「将来は宇宙飛行士か天文学者になりたい」って思ったんだね。卒業文集に「火星に行きたい」って書いたけれども、その夢は簡単ではなくて色々と紆余曲折があって、実際に宇宙に行けたのは45歳の時。夢を実現するのに35年ぐらいかかったんだよね。でも好きなことは続けることができる。みんなそれぞれ好きなことがあると思うけど、好きなことは才能です。その才能を信じて、やりたいことを心において必要に応じて他の人に助けてもらっていけば、いつか夢が実現すると思います。何か将来、なりたいものはありますか?
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質問した女の子:
バイオリンが弾ける宇宙飛行士!
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油井:
バイオリンが弾ける宇宙飛行士! おじさんは弾けないなぁ。宇宙では楽器も演奏することもできるので、ぜひバイオリンを練習して宇宙飛行士の勉強もして、将来おじさんに宇宙でバイオリンを聞かせて下さい。
鋭い質問が集中—「月」編
「バイオリンが弾ける宇宙飛行士」に会場がどよめいたあと、質問テーマは「月」へ。イベント前半で説明があった、月にあるとされる水が、どこにどれだけどんな形であるかを探る月極域探査機LUPEXや、月に降り注ぐ放射線の被ばくを防ぐため、月の地下の溶岩チューブに住むという話題を中心に、質問が寄せられた。
- Q:月に水があったら、みんなでその水をとりあって喧嘩にならないんですか?
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JAXA 麻生大さん(以下、麻生):
ペットボトル1本ぐらいしか水がなかったら喧嘩になると思います。月にどれぐらい水があるか、喧嘩しないぐらいたくさんあるのか、ちょっとしか水がないのか、まだわかってないんです。なのでLUPEXや他の世界中の水探査機が行って、砂の中にどれぐらい水が含まれているか調べないといけない。喧嘩にならないぐらい、水がたくさんあるといいなと思います。
- Q:月の地下に孔があると聞きました。その孔で国同士が「これは自分のものだ」と言って戦争にならないんですか?
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麻生:
月の表面も孔の中も、所有してはいけないんです。先に行った人が「ここは僕の土地だから、あなたは入らないで下さい」っていうことはできないというルールがあるんです。なので喧嘩にはなりません。ただし、喧嘩の要素も実はちょっとだけあって。例えば資源。水とかメタンとかそういう資源を見つけました、私たちが採りましたとなったら、それ(資源)はその人のものなんです。例えばLUPEXが「ここに水がじゃぶじゃぶありますよ」となったら、みんながそこに行きたがって水をたくさんとってしまって喧嘩になる要素はある。そこで喧嘩にならないように、世界中の人たちが協力してルールを作っているところです。
「喧嘩にならないか」に質問が集中するあたり、現在の世界情勢が影響しているのだろうか。そして、会場全体が唸ったのが次の質問だ。
- Q:今、LUPEXの開発や試験が進められていると思いますが、どのくらいの精度でできるのか、それによってどのくらいの成果を上げられると考えていますか。
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麻生:
すごい質問ですね。よく政府の人から聞かれる質問で答えるの大変なんだから、本当に(笑)。まず精度ですが、砂の中にどれくらい水が混じっているのかなっていうのを調べたい。月の砂に重さの比率で0.5%以上の水があったら、その水を使ってプラント建設に進めます。そうでなくて例えば0.0001%しかなかったら、地球から水を運んだ方が安いです。だから求める精度は0.5%±0.1%、そのくらいの精度で水の重さの比率を調べようとしています。求める成果は月の砂に0.5%以上の水があるのかないのか。しかし、注意したいのは、「0.5%未満しか(水が)なかったです」ってわかることも大事なんです。私たちがLUPEXで調べるのは、着陸してからたかだか1kmの範囲です。こういう条件のところには水がなかったけれども、別の条件、例えばもっと寒いところとか、月の裏側とかになら水があるかもしれない。だから私たちは「水がない」というのも成果の一つだと思っています。
- Q:LUPEXのタイヤはスリップしないように特別な形をしていたと思いますが、有人与圧ローバのタイヤはなぜ丸いんですか?
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麻生:
それぞれに強みがあります。LUPEXのタイヤはおにぎりみたいな形をしていて、ベルトがタイヤの周りを囲んでいます。スピードはあまり出せなくて秒速2cmか3cmです。ただベルトが月の砂にふれている面積が広いので、25度ぐらいの坂を滑らないで登ったり降りたりできます。一方、有人与圧ローバのタイヤは時速15kmぐらいのスピードが出せます。自転車ぐらいの速さ。でも15度ぐらいの傾斜の坂しか登れません。急な坂はおにぎり型(LUPEX)、そうでなくて遠くまで早くいきたいなら有人与圧ローバ型です。
想像力が発揮された「火星」編
そして次のテーマは「火星」。ユニークな質問が次々寄せられた。
- Q:火星にもし生き物がいたら、一番にどういう質問をしますか?
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国立天文台 竝木則行さん(以下、竝木):
「一緒に仲良くやっていけますか?」っていうのをまず聞いてみたいと思います。通じるかどうかもわからないですけど。
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国立天文台名誉教授 渡部潤一さん:
火星に生物がもしいたら、地球から我々のような人が行って住んだら、その生物を邪魔しちゃうかもしれないね。それがいいことなのか悪いことなのか。だから共存できるかっていうのは、大事な質問だと思いますね。
- Q:火星に向かうとき、宇宙船の窓から見える地球がどんどん小さくなっていったとき、油井さんならどう思いますか?
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油井:
私がISSにいたとき、地球から400kmしか離れていないので、いつも地球が大きく見えて全然不安はなかったですけど、火星を目指して地球がどんどん小さくなっていったら、少し不安になってくるかなと思いますね。火星まで行ってしまうと、地球は青く光っている星、点になってしまうのでとても心配だと思います。でも私はISSで、人間が協力して課題を解決する力はすごいなと実感しました。ISSに25年間連続して人間が住んでいますけど、私が子供の頃は人間が宇宙でずっと過ごせるなんて思っていなかったです。でも今はできるようになっている。皆さんが大人になった時は、たぶん火星に人間がいるのは実現すると思います。技術を信じて、仲間を信じて不安を感じなくなっているんじゃないでしょうか。
- Q:火星に大量の水を発見したらどうしますか?
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油井:
当然、お風呂を作って入ります。お風呂は最高ですから(笑)。もしかしたら火星に温泉があるかもしれないらしいので、ぜひ温泉に入ってみたいですね。
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竝木:
私はぜひ火星農業をやってみたいです。
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油井:
農家の息子の私が農業と言わずに、申し訳ないです(笑)
- Q:火星でもインターネットは使えそうですか?
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竝木:
使えると思います。実は月でそれに近い計画が始まっています。月の周りにたくさんの通信衛星を配置してネットワークを構築しようとしています。火星に人を送り込むなら当然、火星でもやることになるでしょう。通信料はわからないですけどね(笑)
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油井:
通信は時間の遅れが結構あるので、工夫する必要があるでしょうね。私たちは一度、小惑星探査を想定して海底で訓練をしたことがあります。言われたことがわからなくて、「もう一度言って下さい」と言ったら答えが返ってくるのが20分後か30分後で、会話にならなかったことがありますね(笑)。
- Q:宇宙で赤ちゃんが生まれたらどうするんですか?
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油井:
すごい質問が出ましたね。今のところ(人間の)赤ちゃんは宇宙で生まれていないですね。宇宙は放射線が強いんです。子供は長い寿命があるので、放射線の影響が大きいと考えられているので、妊娠した宇宙飛行士が宇宙に行かないように(飛行前に)検査をしています。でも今後、宇宙にヒトが住むようになったら赤ちゃんが生まれることもあるでしょうから、その前に放射線をしっかり防ぐ方法を考える必要があります。将来は必ず解決しないといけない課題です。
LUPEXの麻生さんに科学記者のように「精度と成果を問う」鋭い質問をした瀧島菜南子さん(小学4年生)は会場の一番前に座り、講演の内容をメモ帳に細かく記録しながら質問を考えたという(他にもたくさんの質問が書き込まれていた!)。星を見たり、宇宙飛行士候補者選抜のドキュメンタリー番組をテレビで見たりするうちに宇宙に興味を持ったが、将来の夢は宇宙飛行士というより、探査機や衛星を作る人らしい。
質問ノックを受けた講師陣の一人、国立天文台の竝木則行教授は「まっすぐな質問が印象的だった。聞いた話を受け止めて、ストレートに問う質問がとても楽しかった」と語った。仕事だから聞くのではなく、純粋に「(宇宙が)好き」という気持ちや好奇心から出る「聞きたい」という気持ち。大切なことを子供たちから教えてもらった。その気持ちを大切に育んで、「好き」を追求していってほしい。
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