本物の星空をすべての人に。
「星つむぐ家」で体感した星の力
誰もが本物の星空に出会える家を作る—そんな目的で作られた「星つむぐ家」について、DSPACEで紹介したのが2023年7月(欄外リンク参照)。誰の頭上にも星空は広がっているのに、病気や障害などの理由で家の外になかなか出られず、星空を自分の目でみたことがない人たちがいる。ましてや旅行なんて大ごとだ。事前の確認で宿泊施設から「安全が保証できない」と断られ続け、心折れることも多いと聞く。そんな方たちに「おいでよ!」と背中を押し、安心して本物の星空を見てもらう「星つむぐ家」を作ろう!と立ち上がったのが一般社団法人「星つむぎの村」(共同代表:高橋真理子、跡部浩一)だ。
「星つむぐ家」の建設費用の一部について、クラウドファンディングで寄付を呼びかけたところ、目標を大きく上回る支援が570人から集まった。たくさんの人たちの想いが詰まった家は、2023年10月に竣工、2024年1月から一般の宿泊受付を開始した。2025年度末までに229組のべ1007名が利用。事前アンケートで「外出困難者あり」と答えた方が全体の約6割を占めるという。つまりこれまで外出困難だった方たちが利用しているということ。私も「星つむぐ家」で星空体験をしたい! と3年前に記事を書いたときから願っていたがついに8月末、訪れることができた! 2泊3日の「家」体験をシェアします。
訪れたのは2026年8月29日(土)。中央高速道路長坂インターチェンジを降りたのは16時半ごろ。天気予報通り、くもり雨だ。まずは北杜市大泉町の「ひまわり市場」へ。地元の素材にこだわったパン、ソーセージなど品数豊富な高級スーパー(なんと宇宙食サバ缶もあった!)で翌日の朝食などの買い出しを済ませ、いよいよ「星つむぐ家」へGo!
ここからは車で約5分、徒歩で20分弱。途中、細い坂道で分岐がわかりにくい場所もあったが、事前に送って頂いた案内に従って進み、無事に到着!
平屋のコテージの玄関を開けると、そこには開放的な空間が広がっていた。木目のフローリングが足裏に心地よい。そして大きな窓! トイレやお風呂はもちろん、ユニバーサルデザインが随所に徹底されて段差がなく、どこまでもフラット。車いすやストレッチャーに乗ったまま、広々とした星見デッキに出られる。もちろん、小上がりの畳スペースにごろごろしながら、そのまま外の景色を楽しむことも可能だ。
星見デッキに出てみると、空が大きい! 北に八ヶ岳連峰を望み、正面の東から月の出や日の出を堪能できる。耳をすますと虫の音やフクロウの鳴き声‥自然の音しかしない。体を伸ばして澄んだ空気を胸いっぱい吸い込む。来てよかった~!
「星つむぐ家」は、病気や障害を抱えた人たちがどんなことに困るか、何があったら助かるのか、当事者からヒアリングを繰り返し、設計に反映されているのが特徴だ。例えばキッチン。シンク(流し台)の下は調理器具などの保管スペースになっていることが多いが、車いすで作業できるように、シンク下のスペースをあけた。「車いすに座ったままでシンクの奥まで入れるから『初めて蛇口に手が届いて、自分で水を出せた』って大喜びで水を出したり止めたりしている方がいました」と高橋さん。
車いすに座った人と家族らが並んで料理することも、普段はなかなかできないこと。「鍋の中が見えない」という意見を受けて、車いすに座ったまま鍋の中が見えるように小さな鏡もとりつけた。また、精神疾患を抱えた方から「開放的すぎて、パニックになった時の逃げ場がない」という声が上がり、隠れ場所として押し入れに窓や電源を用意した。
雨や曇りの日はプラネタリウムで宇宙旅行
随所に気配りが感じられるユニバーサルなデザインは、誰にとっても快適で心地いい。「星つむぐ家」の利用料金は、中学生以上1泊一人5000円と格安。料金体系や誰が利用できるかをめぐって、「星つむぎの村」内部でも様々な意見があったという。
「障害者手帳を持っている人だけが(星つむぐ家を)必要としている人というわけではなく、大切な人を亡くした人や様々なストレスで弱っている人にもここに来て、星と対話する時間を持ってもらいたい。だから境界線は設けたくない。ただし私たちが『すべての人に星空を』という思いでこの家を作ったということは理解してほしい。みなさん、とても大事に使ってくださってありがたい限りです」(高橋さん)。つまり、門戸は閉ざしておらず、「星つむぐ家」の理念を理解してくれる人なら、だれでも宿泊できる。
私は「星つむぎの村」の村人で年に数回、出張プラネタリウムを手伝っている。オープン当初は宿泊を遠慮し3年目になった今年、ようやく家族と泊まりに来ることができた(夏は結構予約いっぱいでなかなか予定が合わなかった)。だが、1泊目は雨が止む気配がない。近くのレストランで美味しい夕食をすませ、そのまま温泉へ。サウナで整った後、道路に出ると一面の霧に包まれかなり怖い思いをしたが、なんとか家に帰りついた。
雨天時は、「室内でプラネタリウムを楽しめる」と聞いていたので、手引きに従ってプラネタリウムをセット。天井に星空を投影する簡単なものかと思っていたら、とんでもない。12か月分の星空解説がパソコンに用意され、高橋真理子さんが丁寧に解説している。「星つむぎの村」の通常の出張プラネタリウムと同様、私たちのいる太陽系から宇宙の果てに宇宙旅行し、懐かしい地球に帰ってくるプログラムが私たちだけのために語られる!
何度も体験したプログラムなのに、やっぱり涙があふれてくる。一緒に見ていた家族も感動し、「これ、DVDで販売すればいいのに」と言うほどだ。プログラムはいくつ見ても何度見ても良く、オーロラの映像なども楽しんだ。
「星つむぐ家」にはテレビもラジオもない。聞こえてくるのは虫の音、ふくろうの鳴き声、そして風と雨音。大自然に抱かれるような感覚が心地よく、いつしか眠りに落ちていった。
2日目は天気回復! フルコースの星空体験
山の天気は変わりやすい。2日目の午後はぐんぐん天気が回復。清里でソフトクリームを食べた後、家族は東京へ。私は「星つむぐ家」にもう1泊し、代表の高橋さんと跡部さんにインタビューさせて頂いた。
まず尋ねたのは、「星つむぐ家」の手ごたえ。「思っていた以上です」と跡部さん。「人工呼吸器をつけて初めてのお出かけです」という方、「本当に色々なことを考えて作ってくれたことがよくわかります」と感激して下さる方。例えば胃ろうをしている方などは栄養剤ボトルをつるす点滴台が必要だが、用意してある宿泊施設は少ない。「星つむぐ家」は室内に点滴台が置かれている。
畳スペースは、車いすに乗った人が自分で移動できる高さに設定した。ある車いすユーザーの宿泊客は「畳に座るのは10年ぶり。この家が隅々まで私たちのことを考えて作られていることを実感し、とても快適です」と喜んで下さったそう。
もちろん、大変なこともある。ある日、人工呼吸をつけたお子さんを含む家族5人が宿泊なさったときのこと。家族で月を眺めて喜んだ後、夜中1時ごろ人工呼吸器に繋がる管に亀裂が入り、エアが漏れ始めた。2時ごろ跡部さんに連絡が入り、連携している訪問看護ステーションに相談したところ、ビニールテープで止めれば問題ないとの回答。すぐに「星つむぎの村」の村人の一人が、ビニールテープを届けに車を飛ばし問題解決(その後はビニールテープを常備)。エア漏れがおさまり、帰ろうとした村人が「星がすごくきれいですよ」と伝えに戻り、ご夫婦はウッドデッキで満天の星を堪能なさったそうだ。
「家」を運営してわかることもある。例えば停電時の非常時用バッテリは、人工呼吸器が3時間もつよう準備していた。だが、人工呼吸器を使う際は呼吸器本体だけでなく吸引機などのデバイスを3つも4つもバギーに積んだ状態で移動する。そのため非常用電源がバッテリ切れを起こしかけたことがあった。そこで「ガスカートリッジで動く発電機を用意し、近くの消防署に大規模停電時は充電させてくれるよう依頼しました」(跡部さん)。
こんな風に「星つむぐ家」は利用者の声を取り入れ、随時アップデートしている。だからこそリピーターが多く、「3回目で星が見えた!」「4回目です!」という人も多い。
高橋さん跡部さんと話に夢中になり、8時半を過ぎると月が上ってきた。満月を数日過ぎた月は意外なほど明るい。だが雨上がりの澄んだ夜空に夏の大三角形、うっすらと天の川も確認できた!夜中2時過ぎにはオリオン座も上ってくると聞いたものの、日付が変わる頃、夜空は一面の雲に覆われた。だが2時過ぎにもう一度星見デッキに出ると、目の前にオリオン座が輝いている! 都内ではなかなか見えない暗い星や星座をアプリで一つ一つ確認しながら、リクライニングチェアで一人、星空を眺め続けた。
それは至福の時間だった。
実は30日朝、実家福井でレベル5の大雨特別警報が出された。施設で暮らす母に連絡すると、不安な様子が見られ心がざわついていた。そんな動揺した心が星空と対峙しているうちに不思議なほど落ち着き、穏やかになっていく。そして朝日! 東向きの窓から差し込む朝の光のエネルギーを体中で浴び力がわいた。天気予報では曇だったにも関わらず、夕焼け、月、天の川、星々、日の出とフルコースの天体ショーを堪能できたのだ。
跡部さんによると山の天気は変わりやすく、寝るときに曇っていても夜中2~3時頃に晴れることはよくあるそうだ。諦めずに時々空を覗いてほしいと。晴天率が高いとされるのは12月~2月ごろ。雪が深いのではと思われることが多いが、このあたりは雪はあまり降らないそう。
今後の夢としては「いずれ食事も提供できるといいな」と高橋さん。「近くの『星つむぐ畑』でとれる食材(ズッキーニやトマト、キュウリ、ジャガイモ、カボチャなど多数)を差し入れするとか、星つむぎの村の村人たちが食事を共にし、来て下さったご家族とつながる。そういう機会を提供できたら」。出会いを広げるための挑戦はこれからも続きそうだ。
出張プラネタリウムから始まり、「星つむぐ家」を建て、多くの人の星空への新たな一歩を応援し続ける高橋さんと跡部さん。実際に家に滞在してみてその心地よさに感動しながら、「彼らをつき動かす原動力はいったいなんなのか」と思わざるを得なかった。その話は次回、じっくり紹介します。
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