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ライター 林 公代 Kimiyo Hayashiライター 林 公代 Kimiyo Hayashi

天文学はもっと面白くなる—まだ幼稚園児の人類は宇宙から学ぶべき。渡部潤一先生インタビュー②「これからの夢」

国立天文台の先生のお部屋の扉には、訪れた方のサイン入り色紙がいっぱい。片付け用の段ボールが積み上げられていた。

部屋の片づけで頭がいっぱい!

2026年3月末で国立天文台を退官、京都産業大学神山宇宙科学研究所 所長に就任される渡部潤一先生。前回の記事では39年間の天文台生活を振り返って頂きました。今回のテーマは「京都でやりたいこと」。壮大なチャレンジ、そして大きな視点を語ってくださいました。

退官に関するご心境を聞かせて頂けますか?
渡部潤一先生(以下、渡部)

長く勤めてたんでね、部屋の整理が大変で。整理が悪い方でさ(笑)、物が捨てられないタイプだから。とにかく終わらせなきゃと思って必死ですね。

今(取材は1月末)、何割ぐらい片付いてます?
渡部:

まだ2割ぐらい。内容を見てしまうとだめだね・・時間が過ぎちゃう。なるべく見ないように捨てろと言われているんだけど。どんどん放出してます。3月31日までにこの部屋を空けないといけないので、今はそれで頭がいっぱいかな。

これまで参加した国際会議の参加証が段ボールにぎっしり! 惑星の定義を定め、冥王星が準惑星となった2006年のIAU(国際天文学連合)の参加証を発見!「あの時は本当にしんどかったなぁ‥」(渡部先生)

京都に行くことを決めた理由

そもそも渡部先生は引く手あまただったと思いますが、京都産業大学に行くことに決めた理由を教えて頂けますか?
渡部:

だって、京都産業大学は天文学者(荒木俊馬氏)が創った大学です。天文学者が創った大学は世界で唯一かもしれない。学章はいて座でね。地球から見て天の川銀河の中心方向にある星座です。今はお笑いのたくろうさん(M-1グランプリ2025年王者)がKSDと呼んで(本当はKSU)、有名になっちゃったけどね(笑)

4月からは京都産業大学へ。京都産業大学(京都市北区上賀茂)は、上賀茂神社の神体山である「神山(こうやま)」の南麓にある。(提供:京都産業大学)
楽しそう!天文学者が作った大学ということは、天文学に力を入れているんですか?
渡部:

そうですね。2015年の創立50周年を見据えてキャンパス内に天文台を作ろうという構想が出され、2010年4月に神山天文台を開設。初代台長には天文学者の河北秀世教授が就任しています。彼は彗星の研究では日本トップです。すばる望遠鏡での観測から、彗星が形成された時の温度環境を探る論文を発表、サイエンス誌に掲載されました。その手法は画期的で、他の誰も思いつかなかったものでしたね。彼の経歴はちょっと変わっていて、高専から京都大学に入って、卒業後は民間企業に就職しながらアマチュア天文家として彗星の観測を続け、論文を書いた。その後、ぐんま天文台に転職しました。

すごいですね! 渡部先生が所長になることで京都産業大学は彗星研究のメッカになりそうですね。今までなかなか研究できずにいた思いが爆発、バーストしそうでしょうか?
渡部:

まぁ、それはあるかもしれないね(笑)。

口径1.3mの荒木望遠鏡。国内の私立大学で最大の望遠鏡を自由に使える環境は天文学者にとって嬉しいに違いない。(提供:京都産業大学)
京都産業大学の神山天文台には、国内私立大学最大である口径1.3mの荒木望遠鏡があるということですね。観測できそうでしょうか?
渡部:

できますよ。自分の大学の望遠鏡だから自由に使えます。今は観測の技術が進んでいるので、都心に近くても、空の明るさは引いてしまえばいいですしね。

「オールトの雲」の天体を観測したい

太陽系を球殻状に取り囲むオールとの雲(Oort Cloud)のイメージ図。(提供:NASA)
先生が今後、取り組みたいテーマは?
渡部:

実はね、石垣島天文台の室長になった有松亘さんと一緒に、オールトの雲にある天体を見つけたいと思っています。

オールトの雲って「彗星の巣」と言われている、太陽系の最果て(距離1万~10万天文単位とされる)の?
渡部:

はい。僕らは見たことがない。オールトの雲から落ちて地球のそばにやってきて、長周期彗星になった天体しか見ていないのです。だから、本当にそこ(オールトの雲)にあるっていうのを世界で初めて見たいと思って。

どうやって見るんですか?
渡部:

掩蔽(えんぺい)ですね。遠くにある恒星をオールトの雲の天体が隠す。それを見つけようというプロジェクトをやっていて。実際に石垣島天文台の大きい望遠鏡のそばに小さなドームを作って、そこにリモート装置を置こうと今開発中です。ぜひやりたいなと思っています。

有松さんが2019年にエッジワース・カイパーベルト(地球から約45億~75億km)に半径約1㎞の微惑星を発見された記事をDSPACEに掲載しましたが、同じ手法ですか?
渡部:

そうそう。実はね、アメリカと台湾の合同プロジェクトTAOS IIが太陽系外縁天体を掩蔽で検出したいと、大望遠鏡を複数作って観測しようとしていたんだけど、僕らの方が先に捉えた。僕らの予算が数百万で、彼らは数十億だったのでその予算の差もすごく話題になってね。その時はエッジワース・カイパーベルトで発見したから、更に先に行ってやろうと。

オールトの雲は遠いしめちゃくちゃ暗いですよね。技術的にかなり難しいのでは?
渡部:

難しいです。難しい理由はいくつかあって、単に星を隠すだけではなくて、光は波なので干渉が起こって回折パターンが出てしまう。その見分けが難しくて今モデル計算をしています。でも有松さんならやってくれるだろうし、やってほしいなと思って。

それは石垣島でないと、できないんですか?
渡部:

原理的にはどこでもできるんだけど、石垣島は夏の間は非常に大気の状態がよく、ノイズがのりにくいから観測に適しています。もちろんその研究以外にも彗星が出たとなれば、神山天文台の1.3m望遠鏡で観測しますよ。

人類は幼稚園児—宇宙の視点から学ぶべき

すばる望遠鏡ドームと立ち上る天の川。(提供:Dr.Vera Maria Passegger/国立天文台)
先生にお伺したいことがあって。現在の国際情勢って心を痛めることが多いですよね。先生は「宇宙の視点から見ると、現在の地球人類は幼い」と仰っていますね。
渡部:

幼いね。やっぱりまだ紛争の解決の仕方も幼いのだと僕は思っています。知的生命としてはまだまだ未熟なんだと。そういうことを俯瞰して考えられるようになるための一つの方法が、宇宙教育とか天文教育だと思うんですよ。時間軸とか空間軸を大きく取った時に、今、我々がやっていることがいかに小さいのかがわかる。小さいから意味がないんじゃなくて、小さいから大事にしようと考えるんじゃないかなと思うんです。地球の環境は非常に絶妙なバランスにある。太陽系でそんな場所は他になかなかない。宇宙の視点をもてば、そういう意識になるんじゃないかなという気がしますね。

なんか地球文明って進化じゃなくて退化しているように感じることもありますが。
渡部:

いや、進化していると思いますよ。この2000年、文字をもって技術を発達させてコミュニケーションがかなりとれるようになったので、これからも新しい技術が出てくると思います。そういう意味ではいずれ成熟していくでしょう。

今、何歳ぐらいの感じでしょうね?
渡部:

幼稚園児ぐらいだと思いますよ。その頃って喧嘩したり仲良くなったりして社会性を学んでいくじゃないですか。大人になると、それを自重できるようになるわけで。まだ文明として、大人になりきっていない。

大人になるためには、宇宙的な視点から学ぶこと。
渡部:

これからどんどん活動範囲が宇宙にも広がっていくと思うんですけど、そういう活動が広がれば広がるほど、ボーダーレスに考えざるを得ないことが多くなってくる。それがスぺ―ス(人類の活動領域)を超えて、ユニバース(包括的な宇宙)の視点に繋がっていくじゃないか。

天文学はますます面白くなる

天文学の中で「宇宙の果て」や「ブラックホール」など人気があるテーマがある中で、先生のご専門である小天体の研究が大事な理由はなんでしょうか?
渡部:

小惑星探査機「はやぶさ」もそうだけど、小惑星からサンプルを採ってきて分析すると、天体観測では解けない色々な問題を解いてくれるし新たな発見がある。その意味でどの小天体に探査機を向かわせるかを決めるのは、我々天文学者の仕事。その天体に到着する前に、自転周期がどれくらいでどういう素性を持っているかをある程度把握しないといけない。惑星科学者と一体になって進めているという意味で、天文学的手法での小天体観測はなくならないでしょう。探査機だって、すべての種類の小天体に行けるわけではないですよね。(小天体の)バラエティがどうやって生まれてきたかはまだ解けていない。

例えば?
渡部:

恒星間天体アトラス彗星(3I/ATLAS)はやっぱり太陽系の彗星とはずいぶん違うふる舞いをしていて、なぜかっていう話になってくる。もし、この種の恒星間天体で彗星活動を示すインターステラコメットを探査すれば、ものすごい情報が得られると思うんです。実際、河北さんは「コメットインターセプター(長周期彗星探査計画)」というESAと日本の国際探査プロジェクトに関わっています。あの探査計画は当初、オールトの雲からくる彗星が主なターゲットでしたが、今はインターステラコメットまで視野に入れています。オウムアムアみたいな。

太陽系外からやってきたと思われる小天体オウムアムアの想像図。当初は細長い葉巻型の異常な形をしていると推定されたが、今は円盤形のモデルもある。(提供:European Southern Observatory /M. Kornmesser)
へぇ、面白いですね!
渡部:

インターステラコメットのような天体は今まで見えなかっただけで、南米のベラ・C・ルービン天文台で口径8.4mの望遠鏡と32億画素のカメラを組み合わせたサーベイ観測(満月45個分の広さ)を始めたら、やたら見つかってくると思いますよ。太陽系の様相が全然変わってくる。小惑星の数は今、百数十万個ですが1000万個を超えるだろうし、土星の衛星の数は今274個なのが1000個を超える数が見つかるだろうと。

桁が違ってくる!
渡部:

違ってきますよ。わからないことがわかってきて、謎も増えるような気がしますね。やることはいっぱいある。

天文学はこれからどうなりますか?
渡部:

めちゃくちゃ面白くなると思います。

京都生活への期待

ところで、京都の生活で期待することは?
渡部:

京都はね、私の出身地である会津と深い関係があるの。幕末に会津藩の松平容保公が京都守護職を務められた。まずは容保公が本陣を構えた金戒光明寺にあいさつに行こうかな。

星にまつわる神社もありますよね。
渡部:

安倍晴明の晴明神社とか、方位の星を祀る大将軍八神社とかありますね。大将軍八神社は確かもう2回も行っているからなぁ‥

食べ物とかで楽しみになさっていることは?
渡部:

美味しいものを食べられるんだろうなとは漠然と思っています。でも大学の講義があって成績をつけないといけない。大学には望遠鏡もあるから、あまり遊んでいられないんじゃないかな(笑)

惑星の定義を定めたIAUの委員会で世界7人のメンバーの一人として活躍された渡部潤一先生。「国際的にも引っ張りだこでは」という天文学者の声も。ますます羽ばたいて下さい。

テレビのインタビューで渡部先生は、大学の講義では王道の天文学はもちろん、京都らしさを活かして「天文学と考古学のコラボ」(古の人たちがどのように宇宙を見ていたかを遺跡や古墳から探る)や、天文学や音楽とのコラボなども楽しみたいと言われていました。授業を受けてみたい! 今後のご活躍を心から応援、期待しています!

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