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ライター 林 公代 Kimiyo Hayashiライター 林 公代 Kimiyo Hayashi

星空が激変する!?
—増え続ける衛星群、夜空&天文学への影響は?

Reflect Orbital社の鏡衛星によって空の明るさがどう増加するかを示す図。左は 2026年5月16日、月明かりのない夜に全天カメラで撮影された画像 。右はReflect Orbitalの5万枚の鏡からなる衛星システムが稼働した場合、空がどれほど明るくなるかを示すシミュレーション画像。鏡は光を拡散させ大気によって散乱される。その結果、空は3~4倍明るくなると予測している。(提供:ESO/O. Hainaut CC BY 4.0

SpaceXのStarlink衛星が今年3月、ついに1万機を超えた。今、「衛星コンステレーション」と呼ばれる多数の衛星群で通信や地球観測等を行うのが宇宙業界のトレンドだ。SpaceXに続きAmazonは通信衛星コンステ「Amazon Leo」を構築中で、既に約400機の衛星を打ち上げた。中国も複数の衛星コンステ計画がありバンバン打ち上げているし、AST SpaceMobileの衛星は巨大なアンテナをもつ。さらに最近、話題なのがSpaceXの約100万機(!)の衛星からなるAIデータセンター構想だ。

こんなに衛星を打ち上げて、大丈夫なの? と危機感を覚えるのは私だけではないはずだ。デブリの発生、光害による生態系への影響、電波干渉等による天文学への影響…。 天の川が見える暗い星空は、もはや過去の遺産になってしまうのか? 何が懸念され、どんな対策が考えられるのか。国立天文台 周波数資源保護室長の平松正顕さんを訪ねた。

平松正顕さん。国立天文台 周波数資源保護室長、天文情報センター副センター長、産業連携室長、スペースイノベーションセンター産業連携・広報担当と多数の仕事で大忙し。

国立天文台・周波数資源保護室では電波天文学に多種多様な人工の電波が影響しないように、世界や国内で協議や調整を進めている。宇宙からやってくる電波は非常に微弱であること、観測対象それぞれが固有の周波数を持っていることから、観測周波数に近い電波源が電波望遠鏡に届いてしまうと、天体からの電波が覆い隠されてしまう。地上では高速通信のニーズが高まり、宇宙では衛星コンステなどが急増する今、いかに「便利で安全な社会と電波天文学は共存するか」が最大のテーマだ。さらに最近の衛星コンステの急増で、電波だけでなく「光」の影響、つまり光害も無視できなくなってきた。そこで大きく「光」と「電波(月面も含む)」の天文学に与える影響について教えて頂いた。

宇宙データセンター、夜間太陽光発電などぶっ飛んだ構想が続々

まずは「光害」について。不適切な明かりで周囲や空が照らされることによって起きる害を「光害(ひかりがい)」と呼ぶ。光には地上の人工の光や、人工衛星が反射する太陽光などが含まれる。地上の光害については、前回2022年秋に平松さんに取材してから、それほど大きな変化はないそうだ。問題は衛星コンステの急増だ。2019年に打ち上げが始まったStarlink衛星は2022年には約3500機だったがその後、爆発的に数が増え、他の計画が追随していることは冒頭で描いた通り。

実は衛星コンステは数だけでなく軌道(どの高さを飛ぶか)や、機体の大きさも光害に関係する。平松さんによると、AST SpaceMobileの通信衛星コンステは、衛星数はそれほど多くないもののアンテナが大きい。初期の試験衛星で8m×8m、最近打ち上げられた第二世代(BlueBird Block 2)のアンテナは最大約223m2(テニスのシングルコートより一回り大きい)という巨大さだ。「試験衛星(BlueWalker 3)でも一等星ほどの明るさに見えました。その後、太陽光の反射が地上にあまり向かないように姿勢制御を行って、少し暗くなったのは確認されたようです」(平松さん)。今後テニスコート大のアンテナをもつ衛星が打ち上げられると、一等星より明るくなってしまうということだろうか。

平松さんによると、国際天文学連合(IAU)は人工衛星について「7等より暗くすること」(肉眼では見えないようにする)を推奨している。「ただ、5~6等ぐらいまでしか暗くならず、なかなか7等は難しい。さらに写真に撮れば7等でも衛星の軌跡は映ってしまうわけです。何らの対策が必要だと思います」。そして、平松さんが問題視しているのは「宇宙データセンター」。

地上のデータセンターは大量の電力や水が必要であり、環境に与える負荷も大きいことから、太陽光がふんだんにある宇宙にデータセンターを作ろうという構想だ。SpaceXは70mもの巨大な太陽電池パネルをもつ100万機のAIサットを打ち上げる構想を発表した。「ISS全体の大きさが約72m×約108m。それを何万機分も打ち上げようとしている」。本当に実現できるのか? とも思うが、「SpaceXはやりかねないところが恐ろしい」(平松さん)。

イーロン・マスク氏がSpaceXのAI衛星について説明する動画。16分ごろに衛星の大きさの図(20m×70m)が出てくる。

さらにぶっ飛んだ構想があることも教えて頂いた。米国企業Reflect Orbitalは、18m四方の鏡を持つ5万機の衛星を打ち上げ太陽光を反射して夜の地球を照らし、「夜間太陽光発電」を行うという構想を発表。試験機打ち上げが米連邦通信委員会(FCC)によって認められ、2026年後半にも予定される。衛星1基当たりの明るさは最大で満月の4倍にもなるという。

ESOが論文発表「天文学に壊滅的な影響」

これらの計画に天文学者は猛反対の声を上げている。ESO(ヨーロッパ南天天文台)で30年以上勤務する天文学者オリビエ・ハイノー氏は衛星コンステレーションが天文学に与える影響をシミュレーションし、論文で発表した。2019年以降、衛星の数は急増、現在14000個を超えるが、宇宙データセンター用にさらに100万個の衛星が打ちあがると空の見え方が激変すると。

チリ・アタカマ砂漠上空を1時間に飛ぶ衛星等の軌跡(2025年10月15日撮影)(提供:F. Kamphues, ESO/M. Kornmesser CC BY 4.0

シミュレーションの結果、もし、高度550kmに100万機の衛星が5等星の明るさで飛行すれば、日没から1時間後には約2000個の衛星が飛び交う様子が肉眼で見えることがわかった。理想的な暗い夜空では、肉眼で見える恒星の数は全天で4000~5000個とされる。つまり(好条件下で)肉眼で見える星の半分の数の人工衛星が見えることになる。夜空に見える本物の星2個に対して、その間を動いていく人工衛星が1個あるということだ!さらに、Reflect Orbitalの鏡衛星5万機が稼働すれば、空全体が今の3~4倍明るくなるとも記されている。

ハイノー氏は、現在提案されている170万個以上の衛星構想は「天文学に破壊的な影響を与える」とし、この影響を回避するには、「7等星より暗い衛星10万個に制限するしかない」と提案する。

電波天文学への影響は

衛星コンステレーションなどが光害に与える影響が、深刻であることはわかった。一方、電波天文学への影響はどうなのだろうか。平松さんは年2回、スイス・ジュネーブで開かれるITU(国際電気電信連合)の電波天文の部会に日本代表として参加している。

ITUでは4年に1回WRC(世界無線通信会議)を開く。次回は2027年の予定で、電波天文の議題が複数上がっている。その一つが衛星コンステレーションと電波天文。「衛星コンステに割り当てられる周波数と、電波天文の周波数は現状被っていないが、隣り合っているところが結構あります。すると、衛星コンステの電波が(電波天文のほうに)ちょっと漏れてくる。その影響がどのくらいあるのかを検討して、影響があるなら何らかの法的規制を考えないといけない」(平松さん)。

実は衛星コンステから電波天文に漏れてくる影響は、はっきりわかるわけではなくノイズがちょっと増えることになる。しかも衛星コンステはいきなり1万機になるわけではなく、少しずつ機数が増えていく。それに応じてノイズレベルが上がってくることが考えられるが、明確に衛星コンステが原因と特定するのは難しい。観測データからノイズを取り除くには観測時間をのばすしかないが、その時間が少しずつ増えていく可能性が懸念される。「気づいたときには手遅れになる可能性があるので、今のうちから考える必要がある」そうだ。

また、電波天文学的に重要なALMA(南米チリ)とSKA(南アフリカにあるスクエア・キロメートル・アレイ)の2つの電波望遠鏡と衛星コンステの関係についても、議題に含まれている。この2か所は「Radio Quiet Zone(電波的に静かな場所)」に指定されていて、地上で使用される機器から電波を出すことが一定程度制限される場所。「ところが、人工衛星は上空から電波を出してしまう。それを何とかできないかを話し合う」そうだ。

月の裏の電波天文台の環境をどう守るのか

日本が月の裏側か極域に設置する予定の月面天文台TSUKUYOMI計画。ビッグバン直後のまだ星が生まれていない時代(宇宙の暗黒時代)に発せられる中性水素原子の微弱な電波を観測予定。(提供:JAXA)

そして気になるのが、月の裏側の電波環境だ。「地球には電離層があって、宇宙からやってくる『低い周波数』の電波が届かない。でも月には電離層がないので、低い周波数が観測できます。また、月の裏側は地球からの電波が届かない、電波観測にとって非常に理想的な環境で『Shielded Zone of the Moon』、略してSZMと呼ばれています」(平松さん)。

日本も月に設置した電波望遠鏡で宇宙の暗黒時代を調べようというツクヨミ(TSUKUYOMI)計画を進めているし、米国は今年、民間月着陸機ブルーゴーストがNASA等が開発した電波望遠鏡LuSEE-Nightを月の裏側に運び、観測を行う予定だ。

ITUの無線通信規則には「SZMは電波天文学にとって非常に重要なので、悪影響を与えるすべての周波数帯で電波の発射を禁止する」と書かれている。だが、例外もある。「宇宙機の使用や運用目的なら電波を使っていいと。なんでもその目的と言えてしまいます」と平松さんは指摘する。そこでITUの勧告や国際天文学連合(IAU)の決議として「2ギガヘルツより低い周波数は電波天文学のために利用可能、それより高い周波数は通信で使っていい」とし、2027年のWRCの議題でも、これに沿って月周辺での通信に使う周波数の議論が行われることになっている。

ITUには中国やロシアも含めて200近い国が加盟している。宇宙ビジネスに参入したい国は多いが、電波天文学を行う国はそれほど多くない。「そこが難しい」と平松さん。「自ら電波天文研究をしていない国は電波天文に関心がないかもしれないし、月に行くには通信をせざるを得ない。宇宙ビジネスでどの周波数を使うかを検討する過程で、電波天文を守るSZMやガイドラインの存在を知ってもらって、そのガイドラインに沿えば、自動的に科学が守られる状況に持っていくのが理想的です」(平松さん)

便利で快適な社会と天文学を共存させるために

南米チリ・アルマ望遠鏡で見える天の川。(提供:ESO/B. Tafreshi (twanight.org) CC BY 4.0

4年に1回開かれるWRCで衛星コンステについて本格的に議論するのは、来年(2027年)の会議が初めて。「Starlink衛星が上がり始めたのが2019年の会議の直前だったから、2023年の議題に入れられなかった。宇宙ビジネスのスピードが早すぎて議論が追い付いかない」のが悩みの種だ。かといって2年に1回の開催だと、今の倍の量の仕事をしなければならず。マンパワー的にとても準備ができない。

そもそも、人工衛星が急増すれば、衝突してデブリが発生するなど宇宙環境の悪化が懸念される。国際的にこの状況をコントロールできないのだろうか。

「これがまた難しい点で、今は人工衛星を打ち上げる事業者は必ず通信をするため、ITUに登録する。ITUは周波数で混信が起きないように、国際的に周波数を調整しています。でもITUは通信を管理するが、光害とかデブリなどは基本的に管轄外なのです」(平松さん)

ただし、と平松さんは続ける。「ITUへの登録前に、日本だったら総務省、アメリカはFCC(連邦通信委員会)にまず申請し、その後ITUに登録という2段階で手続きを進めます。FCCは数年前に天文学者からの訴えに基づき、NSF(全米科学財団)の天文部門と衛星を打ち上げたい事業者が話し合って、天文学への影響について合意をした上でFCCに申請しなさいとした。少なくともアメリカでは一定程度、対策がとられてはいます」

実際、2023年1月、NSFとSpaceXは天文学に関する連携協定を結んでいる。その結果、SpaceXは例えば衛星本体にミラーフィルムを張り、鏡のようにピカピカにする対策などをとっている。「衛星は太陽光の反射で見えるが、白い機体だと当たった光が乱反射して(地上の)色々な方向から見えてしまう。(ミラーフィルムで)ピカピカにすると、ある方向からは明るいが他からはそれほど明るく見えない」(平松さん)。他には、軌道情報の公開などが連携協定に含まれている。

平松さんは2026年度の日本ITU協会賞の奨励賞を受賞した。ITUの会合やWRCへの参加を通して世界の電波天文研究者と協力するだけでなく、国内で新しい無線サービスが実用化される前に、総務省などの会合に参加。国内で約30か所ある電波望遠鏡の周囲で、電波を使いたいなどの案件が起こるたびに一つ一つ計算して影響があるかを確認し、調整作業なども行っている。超多忙だ。

「奨励賞は『これからも頑張りましょう』という賞だと思っています」。平松さんは、月の裏側の電波利用のルール作りなどに、特に面白みを感じているそうだ。

安全で快適な社会を支える電波利用と、天文学をいかに共存させていくのか。もっと言えば、社会と天文学はいかに良好な関係を築いていけるのか。夜空は人類だけでなく、あらゆる生物にとって公共の財産。そのかけがえのない財産が失われる前に、今こそ真剣に対策を議論するときではないだろうか。

取材当日、望遠鏡が胸ポケットに描かれたシャツを着ていた平松さん。「ここに星があるんですよ」と特別に見せてくださった。DSPACEでは2005年、平松さんが大学院生の頃に仲間と開発したアストロノミカルトイレットペーパーの頃から取材させて頂いた。ALMA広報の仕事も含め、一貫して社会と天文学の関係構築に携わる。
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