DSPACEメニュー

読む宇宙旅行

ライター 林 公代 Kimiyo Hayashiライター 林 公代 Kimiyo Hayashi

日本の有人宇宙船は実現するか—HTV-Xの描く未来②

ISS(国際宇宙ステーション)に自動ドッキングする直前のHTV-X(想像図)(提供:JAXA)

2025年10月末に打ち上げられた新型宇宙ステーション補給機HTV-X1号機は大成功を収めた。HTV-Xには、将来を見据えた様々な発展化シナリオに活用できる設計が仕込まれていると、JAXAファンクションマネージャ 内山崇さんに伺った。その一つ、HTV-Xを複数連結して実現する「ミニ宇宙ステーション」については前回の記事で紹介した。そして、「宇宙タクシー」という言葉が内山さんの口から飛び出した! 宇宙タクシーとは? さらに日本から将来、有人宇宙船は飛び立つのか? 内山崇さんインタビュー後半です。

HTV-X発展化シナリオで「宇宙タクシー」が考えられていると。どんなものですか?
内山崇(以下、内山)

HTV-Xは人が入って作業ができる「与圧モジュール」と通信や電力、熱制御、推進系などを集約した「サービスモジュール」があるとお話しましたが、この二つのモジュールを明確に分離させました。サービスモジュールは常に宇宙に置いておく。そして(荷物を搭載した)与圧モジュールだけを地上から打ち上げて、宇宙にいるサービスモジュールがキャッチして、ISSに運ぶ。

なるほど、「サービスモジュール」がタクシーで、「与圧モジュール」というお客さんを乗せてISSに運ぶ。その後サービスモジュールは再び宇宙で待機させておくわけですか?
内山:

そうですね。また次の新しい与圧モジュールが届いたら、今度は商業宇宙ステーションに運ぶ、というように行先を変えてタクシーのように物を運ぶことができるわけです。

HTV-Xはサービスモジュールと与圧モジュールに分かれる。サービスモジュールの説明に「将来は単体で使用可能」と明記されている。(提供:JAXA)
HTVでは全体に配置していたスラスタ(推進系)をHTV-Xではサービスモジュールに集め、単体で「宇宙タクシー」に使うことなどを視野に設計された。(提供:JAXA)
タクシーだから、違う場所に運べるというわけですね?
内山:

将来はやっぱり繰り返し使えた方が、コストが安くなるじゃないですか。地上から打ち上げて地球重力圏を出て、(宇宙の)軌道に乗せるまでがすごい大変なんですよ。だから軌道上にサービスモジュールをタクシーのように待機させておいて、再利用する。地球周回軌道に乗せてしまえば、その先の宇宙ステーションへはそれほど燃料を使わずに、往復できる。

月の周回軌道とか月着陸船を運ぶこともできますか?
内山:

地球の重力圏を出て、さらに月重力圏までいくのは結構大変です。かなりの燃料を使うので、燃料をめちゃくちゃ補給しないと月には行けないです。それをスペースXとかブルーオリジンはやろうとしているわけですが。ただし、ロケットで打ち上げられたものにランデブ・ドッキングする技術(接近してドッキングする技術)を日本は持っているので、その技術を使えば、かなりコスパのいい輸送ができる。

アルテミスIIが月の裏側から撮影した地球。(提供:NASA)
燃料補給すれば月への輸送もできるってことですね?
内山:

はい。サービスモジュールはタクシーというより、トラックと考えてもいいかもしれない。トラックの荷台に載せるものは色々あっていい。月着陸船もその一つです。

では、人を乗せることもできますか?
内山:

あ、それもありえますよね。有人宇宙船のカプセルを荷台に積んで拠点まで運ぶ。カプセルは地上に帰ってくる機能がある。そういう発展性もありですね。本当に実現させようとすると、帰還機能や生命維持機能などを追加しないといけないですけどね。

HTV-Xの先へ。有人宇宙船の可能性は?

では「人を乗せる」ことについて。「こうのとり」(HTV)からHTV-Xと進化しましたが、HTV-Xの先の様々な可能性の中で、有人宇宙船についてはどの程度検討が進んでいますか?
内山:

「こうのとり」7号機で小型回収カプセルを搭載しましたよね。本当はそれを有人宇宙船に繋げていきたかったっていう思いはあって、そのためには大型化すること、信頼性や安全性を高めていくことが必要になります。そこがまだJAXAとしては検討しきれていません。大型化するにしても色々やらないといけないことがあるし、特に帰還。HTV-Xは大気圏に再突入して燃え尽きるわけですが、これを地上に戻さないといけない。

2018年11月8日に「こうのとり」7号機から分離された小型回収カプセルは同年11月11日に南鳥島沖に着水。回収船によって回収された。(提供:JAXA)
人を乗せて地上に戻す必要がある。
内山:

宇宙から帰ってくるときに、G(重力加速度)を抑えることが有人化には必須です。小惑星探査機はやぶさのカプセルなど弾道飛行でどーんと帰ってくる宇宙機には、10Gとかそれを超えるようなGがかかりますが、有人宇宙船の場合はふんわりと帰す。

小型回収カプセルは3.5G、ソユーズ宇宙船と同等のGを達成しましたね。
内山:

はい。そして大気圏を抜けたらパラシュートを開く。NASAやロシアがやっていますが、パラシュート3個だったり4個だったり、バックアップの考え方とか信頼性を高めるための工夫が色々とされています。日本ではどういう形態をとるか。

地上に着水した後に、どう回収するかも重要です。こうのとり7号機の小型回収カプセルは、(本州から)だいぶ離れた南鳥島の沖に落下させました。持続的に人や物の回収をするには、もっと近いところで素早く回収してリサイクルすることも必要になる。その場合、日本だったらどこが最適なのか。どうすれば落下地点に近づけるのかっていう点も、あまり解像度高く検討したことがなかった。そういう検討を一つ一つ潰していく。我々有人宇宙船検討チームは人も少ないし時間もそれほど多くはかけられないので、「今回はこのテーマ」と優先順位を決めて検討を続けている状況です。

今、JAXA内で何人ぐらいが有人宇宙船を検討されているんですか?
内山:

6人ぐらいですが、みんな兼任なので全部合わせても1人分にならないぐらいですね。でも、有人宇宙船の検討は「それがやりたくてJAXAに来ました!」っていう若い人がたくさんいるんですよ。もちろん、それぞれが今担当しているプロジェクトは100%しっかりやるんですけど、将来10年後、20年後に向かって今から種まきをしていかないといけない。みんなすごいパッションを持って取り組んでくれて、人材育成とか技術継承という点でも大事だし、継続して次につながるように検討を進めることが組織としても大事なことだと思って取り組んでいます。

内山崇さん。JAXA自動ドッキング技術実証プロジェクトチームファンクションマネージャ。宇宙戦略基金事業部技術マネジメントグループの業務を併任するとともに、有人宇宙技術部門における有人宇宙船検討チームのチームリーダーも務める。
有人宇宙船の検討自体、以前のJAXAではできなかったですもんね。何年後に実現したいという目標はあるんですか?
内山:

2030年代には何とかしたいと思っています。

え、2030年代ってもうすぐですよ!?
内山:

でも2040年代にすると、なかなか踏み出せないんですよ。いったん置いておこうって感じになっちゃうので。もうちょい手前に目標を持ってこないとなかなか動けない。

実験機を打ち上げたいとか具体的な目標設定はあるんでしょうか?
内山:

今、日本でも将来、有人化を考えているという民間企業がたくさん出てきていて、国も補助金を出しています。また宇宙活動法などの法整備も(有人宇宙輸送に対応するよう)動き出している。宇宙の知見をもつJAXAが協力しないわけにはいかない。その意味でもJAXAは(有人宇宙船を)やらなきゃならない状況になりつつあるんじゃないかと私は思っています。いざ「やれ」と言われた時にいつでも「できます!」と言える状況にしておきたい。

ぜひ実現してほしいですね。ところで、こうのとり7号機で実証した回収カプセルはHTV-Xでもやりますか?回収機能を持たせるという議論はなかったんでしょうか?
内山:

議論はありました。発展化機能の一つにはなっていて、小型ですけど回収カプセルをHTV-Xに追加することができます。ただ、回収カプセルを丸ごと大型化するっていうところまでは踏み出せてない。

大型カプセルを回収しようとすると耐熱タイルや様々な機能が必要になる?
内山:

そうですね。小型回収カプセルの技術の発展化については、ElevationSpaceというスタートアップが徐々に大型化する事業プランをもっていて、JAXAと共同研究を行っています。

そうですか!
内山:

宇宙に運ぶだけではなくて、宇宙から持って帰りたい人たちが必ず出てくるので、その機能がないともったいない。まずしっかりと無人カプセルで練習をして、有人の宇宙船に繋げたいですね。

HTV-X3号機で自動ドッキング実験

HTV-Xの自動ドッキング技術検証はHTV-X3号機で実施の予定。(提供:JAXA)
まずはHTV-Xの連続成功が必須ですね。何号機まで飛行が決まっているんですか?
内山:

6号機です。

ISSは2030年までの運用になっているのであと約4年で残り5回?
内山:

そういう計算になりますね。ただISSも少し延長する可能性もあるし、商業宇宙ステーションと2年ぐらいオーバーラップさせて引き継ぐ可能性もあります。

ISS後の商業宇宙ステーションにHTV-Xがドッキングする可能性はありますか?
内山:

HTV-Xのコマーシャルバージョンがありますね。

宇宙戦略基金に採択された企業・日本低軌道社中が、HTV-Xの技術をベースに商業バージョンを開発するわけですね!
内山:

はい。商業宇宙ステーションでも今、ISSで日本がHTV-Xで輸送しているぐらいの貢献度、つまりシェアを民間企業が主体となって、しっかりとっていきたいですよね。

HTV-Xの3号機で自動ドッキングの実証実験をされますよね。その後、6号機までは従来通り、宇宙飛行士がキャプチャする方式なんですか? それともドッキング方式?
内山:

それも議論としてありえます。将来の商業ステーションが基本的に自動ドッキング方式を採用する可能性がある。なぜなら、常時人がいないかもしれないし、ISSと同じような機能のロボットアームを持っていないかもしれない。

来年にも打ち上げ予定の民間宇宙ステーション「Haven-1(ヘイブン1)」。他企業も様々なプランをもつ。(提供:VAST)
確かに。ロボットアームがあっても熟練の宇宙飛行士が操作するとは限らない。
内山:

人がいなくてもドッキングできる機能が重視されるなら、ドッキングビークルにしておかないといけない。その機能をISSがある間にしっかり(HTV-Xで)作り上げて、事業化に繋げて行くという考え方もあり得ますよね。ただしまだ全然決まっていないので、6号機までの間に議論になるかなと思います。

3号機で実施する自動ドッキングの開発状況はどんな感じですか?
内山:

今はフライト品を作り始めていて、開発の佳境です。

何が難しいですか?
内山:

「こうのとり」時代は、ISSの下10メートルに安全委誘導して、ぴたりと相対停止させることがゴールだったんですよ。でも自動ドッキングシステムではISSにぶつけないといけない。

2026年4月、NASAジョンソン宇宙センターで行った試験の様子。自動ドッキングではHTV-Xの自動ドッキング機構をISSのドッキングポートにやさしく接触させる。その時の衝撃、位置や速度のずれを吸収して結合させる。(提供:JAXA)
ぶつかってはいけなかったのに、ぶつけないといけない!
内山:

まず安全に軽く衝突(タッチ)させる。そのために必要な技術をしっかりと作りこむ。間違っても危険な衝突をさせない多重の安全設計を作り込む。

楽しみですね。最後に、今後のHTV-Xの発展について意気込みをお願いします。
内山:

初期検討からもう10年以上経つんですけど、ようやくHTV-X初号機がミッションを完了し、大きな失敗なく100点以上で成功させた。これを日本の低軌道拠点への輸送インフラのスタンダードにして、さらなる発展・高度化を目指して大きく舵を切れるタイミングになったなと。様々な発展形態を織り込んで将来色々な使い方ができるよう考え尽くした機体なので、しっかり未来に繋げるレールを敷いていきたい。それができる人材が育ってきているので、チームでしっかり実現させていきたいと思っています。

  • 本文中における会社名、商品名は、各社の商標または登録商標です。